これからの土木に求められるもの

 (2011年1月25日作成)

 これからの土木に求められるのは,人口減少時代に入った日本でどのように快適な生活を維持できる社会資本を整備していくかということでしょう.そのための課題は多く,いろいろな困難がありますが,新しい時代を切り開くという面白味もあるはずです.

 これからの日本を考える上で最も重要なことは,長期的な人口減少が続くと予測されていることでしょう.国全体が縮小していくと言うことです.これに対して,少子・高齢化というのは人口構成比率の問題で,高齢者が元気に過ごす社会をつくれば問題はそれほど大きくならないように思います.
 ただし,若い人が少ないと言うことは,社会として創造的な仕事ができにくくなることなので,この点には注意が必要でしょう.低賃金で働く外国人労働者を導入するのではなく,創造的な仕事に従事する海外の若い頭脳を導入する必要があります.


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日本の超長期人口変化図

 これはよく引用されるグラフです.鬼頭宏(2000)の資料と国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料(2010)をもとに作成したものです.

 このグラフでは現れていませんが,今から4千年前(縄文中期)から3千年前(縄文晩期)に日本の人口が急激に減少し,26万人くらいだった人口が7.6万人くらいになったと推定されています.そして,この頃から弥生時代が始まり,弥生時代後期には人口は60万人ほどになったと考えられています.

 約8,500年前から4,300年前は約1万年前に氷期が終わった後で最も暖かかった時期にあたり,その後,約2,500年前頃まで比較的寒冷な気候になりました.このような気候変動が急激な人口減少を引き起こした可能性があります.

 約1,750年前(西暦250年頃)に始まる古墳時代以降,緩やかに人口は増加します.そして関ヶ原の合戦(西暦1600年)以後,急激に増加します.しかし,西暦1,700年頃に3千万人を超えた日本の人口は,それ以後は明治初年まで3千万人前半で一定します.

 将来の日本の人口予想についてはいろいろありますが,2050年には1億人を下回るだろうと予想されています.2010年から毎年80万人が減る勘定になります.1960年から2000年までの年平均増加が82万人ほどですから,ほぼそれに匹敵する早さで人口が減ることになります.


 高度に発達した資本主義国が,長期的な人口減少に遭遇するのは初めての経験です.当然,土木事業は,縮小する人口を考慮した地域,国土づくりとなります.既設建造物のメンテナンスが必要なのは当然ですが,本当にその構造物が必要なのかどうか,撤去などにより無くした方が自然への影響や今後の維持管理を考えると得策と判断される場合もあるでしょう.社会の変化の先を読み,社会資本をどう整えていくのかが土木に問われると思います.この点では,これまでの社会資本整備のあり方,特にこれまでの国土計画がどのような結果をもたらしているのかの分析をまず第一に行う必要があります.
 過去の歴史から学ばないものは未来を語る資格はないでしょう.

 土木学会では,すでに2002年に「人口減少下の社会資本整備ー拡大から縮小への処方箋ー」(編者・著者代表 丹保憲仁)を出しています.2000年の日本の人口は1億2,693万人で,まだ増加していてピークは2007年の1億2,777万人です.このような時に,人口減少に警鐘を鳴らした先見性には感心します.同時に,これから日本が直面する事態に対する問題点のほとんどを洗い出しています.

 人口減少に向かう日本が解決すべき課題として,
1)人口減少社会に適合する社会資本整備の考え方の基礎,合意形成の仕組み(社会設計)
2)人口減少かで活力を維持し,安全を確保し,自然豊かな国土を保ち続けるための空間(地域)設計
を挙げています.

 2011年1月号の土木学会誌の特集は,「人口減少時代の国づくり・まちづくり」です.
 この特集で丹保氏は「人口減少をチャンスととらえ,日本が新文明を創造しよう」と語っています.産業革命以来の成長の時代は20世紀前半頃まで続きます.丹保氏はこの時代を近代前期と呼びます.
 20世紀後半から人間の活動が地球規模に及び環境制約の時代になります.この時代は近代後期と呼びます.そして,これからの時代は共生/共死時代としての後近代です.つまり,人同士はもちろん自然とも共生できるような社会をつくることが必要だと言います.それができなければ,人間は滅亡しかねない(共死)という認識だと思います.

 土木が社会の発展に果たしてきた役割が非常に大きいことは論を待ちません.このことに自信を持つべきです.同時に,現在の日本の状況を冷静に分析し,先見性のある社会資本整備へと大きく舵を切る必要があります.

 この点で,土木学会誌2011年1月号の巻頭言で山本卓朗氏(次期土木学会会長)が述べていることは共感できます.

 「功はともかくとして建設することが自己目的化し,市民感覚から,乖離したマイナス面を正面から見つめ直すことが大事ではないか.」

 いずれにしても,今現在,明らかに人口減少社会に突入しています.このような時代だからこそ,土木にとって必要なのは,先見性と市民感覚を取り込んだ設計・建設だろうと思います.社会資本整備の専門家として,市民を納得させることに喜びを感じるような思考を鍛えることが必要だと思います.

 なお,土木学会HPの左の欄に「論説」があります.
 その中の2010年11月版に,竹村公太郎氏(土木学会論説委員,リバーフロント整備センター理事長)が「人口減少の未来に向けて」という論説を書いています.


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