2018年 胆振東部地震による斜面崩壊
(2018年9月11日作成)
概 要
2018年9月6日午前3時8分頃,胆振地方を中心に強い地震が発生した.平成30年北海道胆振東部地震である.
地震の規模はM6.7,震源の深さは37kmである.この付近では,太平洋プレート沈み込みの上面の深度は100kmほどで,今回の地震はその上部の地殻内で発生している.
この地震では厚真町鹿沼で震度7を記録した(気象庁,2018年9月7日).
余震域は,おおよそN10゚E ,70゚SEの面で,破壊領域は東から西に高角度で突き上げる逆断層とされている(石川有三,2018年9月10日).
防災科学技術研究所の解析では,地震活動は南北方向の約30kmにわたって分布し,横ずれ断層型と逆断層型が混在しているとしている(防災科学技術研究所,2018年9月6日,2018年9月6日胆振地方中東部の地震 震源分布と初動解).
この地震によって,厚真町の厚真川流域では多数の斜面崩壊が発生した.震央の位置は,厚真川南支流のウクル川沿いを通る道道平取厚真線の「あづほ隧道」の北北東約700mである.
図1 胆振東部地震の震源平面図
(石川有三,「地震のページ」による)
2018年9月9日までの震源の分布である.東に10°ほどの走向を持っている.石狩低地東縁断層帯とは,明らかに異なった走向を示す.
図2 胆振東部地震の震源断面図
(同上)
図1のA-B線に沿った断面である.震源域は約70゚で東に傾斜している.これを真っ直ぐ地表まで延ばすと厚真町上野の丘陵と平地の境付近になる.
斜面崩壊の様子
今回の斜面崩壊の特徴は次のようである.
- 斜面崩壊が発生している地域は比較的限定される.ただし,むかわ町や安平町での崩壊の様子は,現時点では詳しく分かっていない.
- 崩壊の原因は,地震最初の大きな縦揺れで表層付近の腐植土や軽石などが揺すられたことが最も効いていると考えられる.
- 崩壊の型は,浅層崩壊である.表層の腐植土とその下の新しい降下軽石などが崩れていて,さらにその下にある中新世の地層(川端層〜追分層相当層)は崩壊を免れている.
- 崩壊には地下水は大きな役割をしていない.崩壊面を見ても多くの場合,パイピング・ホールは見られない.
- 崩壊土砂が,水田などの平地をかなりの距離にわたって移動している.これは,移動途中で水を含んだ渓岸の土砂を巻き込んだためと考えられる.崩壊土砂の上は,それほど沈まないで歩くことが出来る.
以下,崩壊の特徴を示す幾つか写真を示す.これらの写真は,いずれも公道から撮影したものである.
写真1 町道脇の斜面崩壊(1)
厚真町市街の東和から厚真川中流の富里に向かう町道脇の崩壊である.右の崩壊源の丘陵の比高は40m程度である.崩壊土砂は道路を覆い水田まで達している.道路は応急で土砂を除去して鉄板を敷いて交通を確保している.
写真2 町道脇の斜面崩壊(2)
写真1を反対から見たところである.背後の丘の比高は40mほどで,崩壊土砂は道路と水路を埋めて水田に達している.崩壊は,幾つも連続して発生している.
写真3 厚真川右岸・吉野地区の斜面崩壊
標高70〜80m,比高40〜50mの丘陵斜面が全面的に崩壊している.この地区は,かつて厚真川が侵食したと思われる緩く湾曲した斜面である.写真1,2の崩壊箇所も同様の地形を呈している.水田の向こうに厚真川が,その先に厚幌ダムに行く道道上幌内早来(停)線が通っている.
写真4 東和川沿いの崩壊
東和川沿いの比高20mほどの丘の斜面でも崩壊が起きていた.ここも,規模は小さいが東和川の攻撃斜面となっている.
写真5 町道を塞いだ東和川沿いの崩壊
東和川沿いの町道を塞いだ崩壊である.背後の丘の比高は20m程度であるが,崩壊土砂は流走して道路と水田を埋めている.斜面上部に沢状の凹地があったようである.
写真6 崩壊面
写真5の崩壊面である.パイピング・ホールのような水が噴き出したことを示す,はっきりとした現象は見られない.崩壊の深さは2m程度である.崩壊の中央部に落ち残りの地山があるのも一つの特徴である.
写真7 道道平取厚真線の崩壊
道道平取厚真線・あづほ隧道から西へ1.6km付近の崩壊である.基盤の地質は中新世・萌別層(追分層相当)の砂岩シルト岩で,それを覆う火砕物と腐植土が崩壊している.この崩壊は,ウクル川右岸の南南西に張り出した出尾根の先端で発生している.
写真8 平取厚真線の崩壊
ウクル川の支流・石油沢合流点の西約800mの道道平取厚真線沿いの崩壊である.注目すべきは,今回の崩壊土砂の下にある写真中央の高まりである.恐らく同じようにして生じた過去の斜面崩壊堆積物であろう.今回の崩壊よりも崩壊堆積物の量は多いようである.この斜面は,姨失山から南西に延びる尾根の先端である.