厚真町・日高幌別川の岩盤地すべり

 (2019年10月1日作成)

概 要

 2018年9月6日の北海道胆振東部地震で,厚真町の日高幌別川右岸で大規模な岩盤地すべりが発生した.その全体の規模は,長さ1,470m,幅430m,深さ約80mである.移動土塊は日高幌別川を約1,100mに渡って閉塞し,上流側には天然ダムが形成された.
 大きく動いた尾根の規模は,長さ785m,幅410mである(当日配布資料の平面図による).

 2019年9月20日(金)に地すべり学会と応用地質学会の北海道支部関係者が実施した現地見学会に参加することができた.

 非常に見どころの多い見学会で,実施された関係の方々に深く感謝します.

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岩盤地すべりの概要

 新千歳空港の東南東約16kmに厚真町市街地がある.そこから厚真川に沿って遡ると幌内集落があり,日高幌別川が厚真川に合流している.日高幌内川に沿って町道を遡っていくと,マツノ沢と赤間ノ沢に別れる.その手前が岩盤地すべりの場所である.
 現在は,工事用のトラックが行き交っている.


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図1 地すべり全体図
(当日配布資料をもとに地理院地図に追記)
 地すべりは日高幌内川右岸の尾根を含んでいる.移動土塊が日高幌内川をせき止めて天然ダムが形成された.
 地すべりの幅は400m,奥行きは1,250m,すべり面の深度は75m〜80mである.移動した尾根の長さは800m,移動量は350mである.河道閉塞した土砂の延長は,1,200mである.


図2 地すべり詳細図.jpg
図2 地すべり詳細図
(当日配布資料に追記)
 送電線の下付近に凹地があり,これから下方が地すべり移動土塊の本体である.それより上方は,後ろからついてきた移動土塊と考えられる.送電線のやや上方に凹地があり,ここが主移動土塊の頭部と考えられる.
 移動土塊中央付近のボーリングBV-1と末端付近のBV-2などで,すべり面を捉えている.
 排水路(緑色)の右岸側は,地すべり移動土塊の末端を切土していて,のり面に日高幌別川の対岸に乗り上げた移動土塊の横断面が現れている.

岩盤地すべりの状況

 岩盤地すべりの状況を写真で紹介する.


写真1 せき止め土砂の下流端.jpg
写真1 せき止め土砂の下流端
 日高幌別川をせき止めた土砂の下流端はブロックで抑えている.


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写真2  整形されたせき止め土砂
せき止め土砂を地すべり移動土塊の中心付近から見た様子である.左岸側に水路が設けられている.


写真3 地すべり末端.jpg
写真3 地すべり末端
 左の丘が地すべり移動土塊で,対岸に乗り上げた移動土塊の末端を切土して天然ダムの水を排水する水路を設けている.移動土塊の高さは約50mある.この写真の正面付近では,すべり面は20°ほどで左下がりとなっている.


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写真4 地すべり移動土塊末端の西側部
 正面の沢が移動土塊の西側部で,右側が移動土塊本体である.土砂状に砕かれている部分の他に層理面が残っている岩塊も点在している.


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写真5 移動土塊頭部
 主移動土塊の頭部の状況である.ほとんど岩の構造を残したブロックが岩峰を形成している.地質は中新世・軽米層の砂岩泥岩互層である.堆積岩特有の縦の割れ目が発達している.不動岩盤の走向・傾斜は,N75°E,7°SEである.


写真6 異動土塊頭部.jpg
写真6 移動土塊頭部
 移動土塊の頭部は比高40mの岩峰となっている.写真中央付近は凹地になっている.


写真7 頭部付近の岩塊.jpg
写真7 頭部付近の岩塊
 移動した岩塊が分離しているのが特徴である.


写真8 砂岩泥岩互層.jpg
写真8 砂岩泥岩互層
 頭部付近の砂岩優勢の砂岩泥岩互層からなる移動ブロックである.灰色の層が泥岩である.


写真9 BV-2 号孔のすべり面.jpg
写真9 BV-2号孔のすべり面
 BV-2号孔は主移動土塊の中央やや山寄りで掘削した.棒状のコアが採取されていて,唯一破砕されているのが深度75.3m(緑色のテープ)である.もう一つの注目点は,73m以浅には縦亀裂が発達しているのに対し,破砕部の下方には縦亀裂はほとんど見られないことである.


写真10 BV-1号孔のすべり面.jpg
写真10 BV-1 号孔のすべり面
 BV−1号孔は地すべり末端部に位置していて,河床砂礫を巻き込んでいる.すべり面は深度79.3m(緑色のテープ)と判定されていて,それ以深の砂礫は河床砂礫そのものとされている.ここでは,移動土塊は破砕されている.


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写真11 BV-1号孔のすべり面拡大
BV-1号孔のすべり面付近である.緑のテープから左が地すべり移動土塊で,それより右は移動していない河床砂礫である.


写真12 排水路左岸切土.jpg
写真12 排水路左岸切土
 排水路の左岸切土は中新世の軽米層(「穂別」図幅では硬質頁岩)とその上位の支笏・樽前・恵庭のテフラから構成されている.


写真13 地すべり東側側部.jpg
写真13 地すべり東側側部
 排水路の上流端付近が地すべりの東側側部に当たる.奥に見えている岩峰は,主移動土塊の上方の分離した岩塊である.写真7の一本松が見えている.


写真14 地すべり移動土塊断面.jpg
写真14 地すべり移動土塊断面
 排水路の対岸から見た地すべり移動土塊の断面である.下に凸の灰色の部分が移動土塊で,その下の淡褐色の部分は地山である.移動土塊が割れて砂礫や岩屑などが入り込んでいる淡褐色の部分が,移動土塊の底面に見える.


写真15 地すべり移動土塊底面.jpg
写真15 地すべり移動土塊底面
 移動土塊の泥岩類が楔状に割れて砂礫や岩屑が入り込んでいる.


写真16 移動土塊の泥岩.jpg
写真16 移動土塊の泥岩
 排水路切土のり面に出ている破砕された泥岩である.

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