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地形地質踏査(1)

踏査と地形図

 地形地質踏査は地質調査の第一歩である.
 地形図を持って沢に入り,露頭をたたき,記載し,周囲の地形を観察して崩壊地形などを記載していく.土木工事に伴う地形地質踏査では,大縮尺の地形図ができていることが多い.ただし,空中写真から自動図化した図面では,微妙な地形が表現されていなかったり,浅い沢が描かれていなかったりと,現地と大きく違っていて踏査の時に戸惑うことがある.
 航空レーザー測量による地形図は,微地形もきれいに拾うので踏査時にあれば非常に助かる.

 コンパスと歩測でルート図を作りながら踏査することを訓練として行っておくと役に立つ.空中写真などから作成した地図と自分で歩いて作った地図がどの程度違っているか検討しておく.歩数で距離を測ることが困難な場合,目測で距離を測ることになる.100mで数mの誤差程度で距離が分かるように目測の訓練もしておくと役に立つ.
 歩測は,片足の一歩あるいは右左での一歩の数を数えながら歩いて距離を測る.練習は平地でするとしても実際に沢に入ると歩幅は違ってくるし斜面では当然歩幅は小さくなる.沢や斜面では無理のない歩幅で歩き,自分の一歩が何メートルか確認しておく.
 当然のことであるが,傾斜地では地図上の水平距離は斜面沿いの距離より短くなる.地形の変化点を記録しておくことが役に立つ.
 沢に入ると地形が単調で迷子になることがある.つまり,いま自分がどこにいるのか分からなくなる.沢の曲がりや斜面勾配の変わるところなどをチェックしておくのが良い.

 最近はスマートフォンの地図アプリケーションやGPS機器が安く手に入るようになった.地理院地図をGPSに入れておくと場所が分からなくなった場合,非常に助かる.
 GPSの記録は踏査で撮影した写真の管理に便利である.ただし,時間で管理することになるのでカメラの時計を必ず合わせておく.GPS付きのカメラであれば,踏査の最初にGPSを作動させると時間は正確になるようである.GPS機能付きのカメラは電池の消耗が早いという欠点がある.オリンパスのTOUGH5を踏査には必ず持って行くが,現場では付属のGPSを使ったことはない.GPSロガーは小さくて軽くて持ち歩くのには便利であるが,現在位置を知ることはできない.最近はガーミンのetrx 30を使っている.おそらく踏査用として最低限の性能の機器であろう.GPSには誤差がつきものであることも頭に入れておく.特に,沢に入って上空が開けていない場合は精度が落ちる.高度はあまり信用しない方が良い.沢の形状を見て位置を修正する.

露頭で観察すること

 露頭に近づいて観察する前に周辺全体の地形を見る.同時に,転石でないか,つまり本物の露頭かどうか判断する.
 その上で,まず露頭の岩石が何なのか判定する.色,硬さ,不連続面(節理・層理・破砕帯)の間隔と状態,走向・傾斜,風化の度合いなどを記載する.写真を撮る.重要と思う露頭ではスケッチをしておく.写真では分からない部分をスケッチでは,はっきりさせることができる.

 建設工事に伴う地質調査では,地山(土質や岩盤)の工学性を評価する指標がある.露頭でもそのことを念頭において観察する.例えば,安山岩の露頭があったとして,溶岩なのか岩脈なのかで硬さや不連続面の状態が異なっていたり,分布が異なっていたりする.また,溶岩であれば露頭は塊状で硬質あったとしてもその周辺には自破砕状の部分が分布していることや凝灰岩を挟んでいることなどが考えられる.
 つまり,その露頭の岩石がどのようにして形成されたのかを常に考える.

 周辺の地形を見ることは非常に重要である.
 例えば,礫混じり粘性土であっても崖錐堆積物なのか段丘堆積物なのかでは性質が異なってくる.崖錐堆積物は水によって運搬されることは少ないが,段丘堆積物は水によって運ばれた堆積物である.また,地すべり地内の露頭であれば,岩盤のように見えても地すべりによる移動土塊の可能性を考える.

地質調査の方法を書いた本

 地質調査の方法を書いた本としては,「湊 正雄・小池 清,1954,地質調査法.古今書院」が,今でも一番役に立つ.1985年に新装版が出版されていてAmazonで手に入れることができる.
この本の姉妹編とも言うべきものが,「藤田和夫・池辺 穣・杉村 新,1955,地質図の書き方と読み方.古今書院」である.
 「狩野謙一,1992,野外地質調査の基礎.古今書院」も優れた本である.面構造や線構造の測り方,著者作成のルート・マップが載っている.
 「柴 正博,2015,地質調査入門.東海大学出版会」は,堆積岩などの見方を含めて親切に記述している.駿河団体研究会での野外調査の経験が盛り込まれた使える本である.
 「羽田 忍,1990,地質図の読み方・書き方.共立出版」は,地質図や地質学の歴史から説き起こしている.
 「大森昌衛責任編集,1967,地学野外調査の方法.築地書館」は,32人の執筆者によって書かれた本で分野ごとの調査事例が載っている.

図1 湊・小池の地質調査法
 左は本の表紙で非常に硬い紙で造られている.フィールドに持って行って参考にしていたので,岩石サンプルで擦られて傷だらけである.
 右は中表紙で,この時,湊氏は北大助教授,小池氏は東大助手であった.初版から10年たった1964年発行の18版である.

(この項 続く)


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