活断層と建設工事

 (2015年3月20日作成)

概 要

 重要構造物は活断層の上には造らないというのは,普通に考えれば当たり前のように思う。しかし,変動地形学にもとづいて活断層が認定されるようになったのは比較的新しい。「日本の活断層−分布と資料」(東大出版会)が出版されたのは1980(昭和55)年,新編が出版されたのは1991(平成3)年である。

 1995(平成7)年1月に兵庫県南部地震(マグニチュード7.2)が起こり,淡路島で活断層が地表に現れた。多くの犠牲者が出たこの地震を契機に活断層のトレンチ調査を含む詳細な調査が始まった。

 中国自動車道が全線開通したのは1983(昭和57)年である。この高速道路は山崎断層に沿っていることで有名である。山崎断層は868(貞観10)年8月に発生した地震(マグニチュード7.0以上)で活動したと考えられている。

 工事中に地震が発生し活断層により犠牲者を出したのは東海道線の丹那トンネルである。1930(昭和5)年11月に発生した北伊豆地震(マグニチュード7.3)である。また,1978(昭和53)年1月の伊豆大島近海地震(マグニチュード7.0)では伊豆急稲取トンネルで断層変位が発生した。

 このように,活断層は建設工事にとって直接の被害が発生する場合があるという点で注意を要する地質現象である。


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ダムの場合

 1984(昭和59)年8月に「ダム建設における第四紀断層の調査と対応の関する指針」と言う文書が当時の建設省河川局開発課から出されている。
 この文書では「1.2 用語の定義 ① ダム敷近傍:ダム敷およびその周囲およそ300m以内の地域」(同文書,2p)とされている。

 さらに,「2.3 一次調査結果に対する対応 一次調査の結果,第四紀断層またはその疑いのあるものがダム敷近傍に存在するとき,あるいはダム敷き近傍に存在する可能性があるときには,二次調査を実施する。」(同文書,6p)としている。

 そして,「3.3 二次調査結果に対する対応 二次調査の結果,要注意な第四紀断層がダム敷に存在することが判明したときには,調査結果を総合判断して,ダムの位置の変更を含む適切な措置を取るものとする。」(同文書,8p)としている。

 「要注意な第四紀断層」というのは,

① 最終活動時期が10,000年以降の断層。
② 最終活動時期が10,000年前〜30,000年前の断層,(またはこの時代に変位を起こしたことが地層や地形から推定されるものを含む)で,かつ長さが長いもの。
③ 第四紀後期に繰り返し活動した規模の大きい第四紀断層。

 長さの長い断層というのは,

「10km程度以上の長さを持つ断層」(同文書,10p)である。
 また,第四紀後期に繰り返し活動した規模の大きい第四紀断層というのは,阿寺断層や跡津川断層のようなものを想定している。

 つまり,ダムの場合,まず,ダムから300m以内に「活断層」が存在しないことを確かめて,もし「活断層」がある場合は,ダム敷(ダム堤体と洪水吐)にかからないことを確認する。ダム敷に「活断層」が,かかっている場合は,位置変更を含めて適切な措置を取ると言う手順を踏むことにしている。

なぜダムの周囲300mで区切っているのか

 これについては不明である。はっきり根拠づけた文献を探すことはできなかった。

 旧建設省土木研究所の地質化学部長を務めた桑原啓三氏の著書に次のような文章がある。

 「一本一本の断層は広くても300mと見ておけば良いであろう。」(地盤災害から身を守る−安全のための知識−,2008,古今書院,55 p)
 また,「断層の幅は表2.4に示すように,概ね数百m,大半が300m以内であり,・・・」(同書,57p)と述べている。

 ここで言う表2.4と言うのは全国の活断層42本について断層長,破砕幅などをまとめたものである。

 この著書で桑原氏は,活断層の延長方向で変位量が0となる範囲は地表地震断層の長さのおよそ1.2倍(片側1.1倍)であると述べている。これも重要な指摘である。

 これらをまとめると,地表に現れる地震断層(地表地震断層)の横断方向については片側約150m,延長方向片側1.1倍の範囲は断層による変位が発生する可能性が高いと言うことになる。
 このように考えると,ダムの第四紀断層指針の300mは余裕を持って決めていると言うことになる。


地震変位範囲図.jpg
図1 活断層による変位の範囲(桑原,2008,44p による)
地表に現れた地表地震断層(活断層)による変位は,幅としては概ね300mの範囲(活断層の片側150m),長さ方向には片側1.1倍の範囲に現れると考えて良い。

 日本の内陸の深さ20kmより浅いところで発生する地震ではマグニチュード6.5以上で地表地震断層が現れ始め,マグニチュード7以上の地震では,ほぼすべての地震で断層が地表に現れている。

 図2に示すようにマグニチュード7の地震の場合,地表地震断層の長さは20kmであるので,断層の延長方向では,地表に現れた断層の端から2kmの位置までは変位が発生する可能性があることになる。


マグニチュードと地震断層の長さ.jpg
図2 マグニチュード(M) と地表地震断層の長さ(L)の関係図
(松田,1995,103p による)
 日本の内陸直下型地震のマグニチュードと地表地震断層の長さの関係を示した図である。
 関係式はL=10(0.6M-2.9)(松田の式を変形)を用いている。世界の平均も,ほぼこれと同じ関係式になる。

カリフォルニア州の場合

 アメリカのカリフォルニア州はサンアンドレアス断層に代表される活断層がある。サンアンドレアス断層はトランスフォーム断層で,20世紀になってからでも1906年のサンフランシスコ地震(マグニチュード7.8),1971年のサンフェルナンド地震(マグニチュード6.6),1989年のロマプリータ地震(マグニチュード6.9),1994年のノースリッジ地震(マグニチュード6.7)などの被害を伴う地震が発生している。

 カリフォルニア州では1972年にCalifornia Geological Survey-PRC Division 2,Chapter7.5(カリフォルニア州活断層法)を施行した。この法律では活断層が発見された場合,断層線の上または断層線から50フィート(約15m)以内に人が住む建物を造ることはできない。既設の構造物は耐震補強を行う。
 人家以外の建築物は,活断層から1/4マイル(約400m)以内では地表に変位を生じる恐れがないと判断された場合のみ建築が許可される。

 横須賀市を北西から南東に横断する北武断層は,12kmの長さがある。この北武断層上に土地開発の計画が持ち上がり,開発業者と市関係者が協議して活断層の両側 25 mには建築物を建てず,公園や緑地,駐車場をもうけることで合意した。条例などで規制するのではなく,協議を通じて対応を考えていくというやり方で,「ニュージーランド方式」とでも言える方法である。

 ニュージーランドの活断層指針は,「協議・調整的な資源同意(Resource Consent)という制度を通じて、活断層の特性(活動度、位置の明瞭さなど)や建物の用途や構造、現場の市街化の動向に柔軟に対応することを目指しています。」(増田,2010:http://www.jishin.go.jp/main/herpnews/series/2010/1004_02.html)と言うものである。

原子力発電所の場合

 原子力発電所の場合,活断層についてどのように対応しているのか。
 例えば,敦賀原子力発電所では浦底断層とその派生断層が問題となっている。この浦底断層本体と敦賀原発2号機との距離は約220mである。

 原子炉の新規性基準では活斷層の上には重要施設を置いてはならないとなっている。ただし,「活断層の露頭がない地盤」となっていることに注意が必要である。

「規則」では「(設計基準対象施設の地盤) 第三条  (略) 3  耐震重要施設は、変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない。」
となっている。


新規性基準のずれや変形.jpg
図3 地盤の「ずれや変形」に対する基準
(原子力規制委員会:http://www.nsr.go.jp/data/000070101.pdf による)
 この図は単純化して描かれている。活断層は幅を持たず,原子力発電所の重要施設を直撃する場合を想定しているような図であるが,実際は,土木学会原子力土木委員会の断層変位評価小委員会(http://committees.jsce.or.jp/ceofnp03/node/13)で様々な議論が行われている。

 ダムは主に国土交通省の管轄で,研究機関としては土木研究所が様々な研究を行っている。これに対して,原子力発電所は経済産業省の管轄で,研究機関としては産総研地質調査総合センターが関わっている。
 相互の交流が,もっとあっても良いのではないかと感じる。

文献


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