大雪山 旭岳(その1)

 (2017年9月23日作成)

概 要

 大雪山の旭岳は標高2291mの活火山で,北海道で一番高い山である。
 標高1100mにある旭岳温泉から登ると頂上まで4時間20分かかるが,大雪山旭岳ロープウェイを使って標高1600mの姿見駅まで行くと,約2時間で頂上に達することが出来る。

 登山道に出ている石は,安山岩質からデイサイト質の溶岩と火砕岩である。登山道は地獄谷火口の南側尾根であるが,向かいの北側尾根の斜面には溶岩や火砕岩が見えている。地獄谷の末端付近は,その吊のとおり幾つかの噴気孔から水蒸気が吹き出していて,登山道から水蒸気が吹き出す音が聞こえる。

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図1 旭岳遠景.png
忠別湖右岸道路から見る旭岳

旭岳の火山活動史

 旭岳のある大雪火山は,約100万年前から活動を開始した。50万年前頃まで(ステージI)は,高根ヶ原,銀泉台,天幕山などの平坦な溶岩地形ができ,大雪山の基部が形成された。
 20万年前頃まで(ステージII の前期)に溶岩を主体とする安足間岳や永山岳などの成層火山が形成された。20万年前〜3万年前にかけて(ステージII の後期)に凌雲岳,黒岳,熊ヶ岳,後旭岳などの溶岩ドームが,御鉢平カルデラを取り囲むように形成された。

 3万4千年前に御鉢平カルデラが形成された(ステージIII )。この時噴出した火砕流が,石狩川上流の層雲峡や忠別川上流の天人峡の200mを越える断崖をつくっている。

 御鉢平カルデラが形成されたあと,御鉢平カルデラの南西にある熊ヶ岳,後旭岳うしろあさひだけ,旭岳の活動が始まった(ステージIV)。これらの火山体を総称して旭岳サブグループと呼んでいる。
 この旭岳サブグループの中で最初に活動したのは熊ヶ岳で,続いて後旭岳が活動した。これらの活動は溶岩主体であった。

 その後,旭岳本体の活動が開始された。最初はマグマ噴火により成層火山が形成され,その後,水蒸気爆発を主とする活動へと移っていった。
 2〜3千年前に地獄谷爆裂火口が形成されたときに旭岳が山体崩壊を起こし岩屑なだれが発生した。この岩屑なだれ堆積物がつくる地形が,姿見駅周辺の地形である。
 姿見の池や夫婦池などは,その後の水蒸気噴火により形成された火口である。最新の噴火は250年前以後に発生した水蒸気噴火とされている。

注)火砕岩と火山砕屑物:火砕岩(Pyroclastic Rock)は,主に直接火山活動によって破砕され堆積した破片状火山噴出物で構成されている岩石である。これは高温のマグマから直接生成されたものである。
火山砕屑物(Volcaniclastic Rock)は,成因に関係なく破片状火山噴出物が卓越している砕屑岩である。再堆積したものも含まれる。

旭岳頂上へ

 ロープウェイの姿見駅から姿見の池までは平坦な地形である。この付近は、2〜3千年前にできた地獄谷火山砕屑物で構成されている。展望台となっているいくつかの高まりは流山と考えられる。
 姿見の池を過ぎると尾根に取り付く。この付近から樹木はほとんどなくなり草と岩の世界となる。


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図1 旭岳温泉から見た旭岳
 地獄谷の壁に溶岩や火砕岩が何層も見える。手前のハイマツの緑の高まりは山体崩壊の堆積物である。登山道は右側の尾根をたどっている。木は全く生えていないので,風のある日は結構辛いと思う。この時(2,017年9月17日),紅葉が始まっていてタカネナナカマドの赤とハイマツの緑が見事である。


図2 姿見駅から旭岳.jpg
図2 大雪山ロープウェイ姿見駅前 
 姿見駅から頂上への登山道は右へ行く。標高1600mの姿見駅は紅葉真っ盛りである。
 この辺りから見ると左手の尖ったピークが最高点のように見えるが,標高2,100mほどの尾根である。右側のなだらかな尾根が旭岳の頂上である。


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図3 姿見の池と旭岳
 姿見の池は1,000年前以降の水蒸気爆発でできた火口である。


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図4 1720m付近の岩塊群
 標高1720m付近の安山岩の岩塊岩群である。地獄谷ができる前の裾合平すそあいだいら火砕岩・溶岩の岩塊であろう。


図5 山頂溶岩と盤ノ沢溶岩.jpg
図5 山頂溶岩と盤ノ沢溶岩
 標高1860m付近で登山道は地獄谷火口の縁を通る。北尾根の溶岩・火砕岩がよく見える。右側のなだらかな尾根が旭岳山頂である。
 左に下がる尾根の上部に柱状節理を見せているのは盤ノ沢火砕岩・溶岩,その下に傾斜の緩い裾合平火砕岩・溶岩が見える。


図6 山頂直下の壁.jpg
図6 山頂直下の壁
 山頂直下の壁には一番上に盤ノ沢火砕岩・溶岩があり,その下に裾合平火砕岩・溶岩が出ている。草が付いている付近が両者の境と思われる。標高1860m付近から見た。ここまで来ると,山頂にいる人の姿がわかる。


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図7 1870m付近の火砕岩の顔つき
 地獄谷火口の縁にある岩塊の顔つきである。旭岳山頂火砕岩であろう。 


図8 地獄谷の噴気孔.jpg
図8 地獄谷の噴気孔
 5つの噴気孔と左端に姿見の池が見える。噴気の音が登山道まで聞こえてくる。1980m付近からの眺めである。 


図9 岩脈.jpg
図9  岩脈と火山角礫岩
 地理院地図で地獄谷火口の北壁の2050m付近にある小さな尾根が,この岩脈である。
 上の岩塔は塊状の安山岩と考えられ,はっきりとした節理が見られる。その下の部分は火山角礫岩であろう。旭岳山頂火砕岩が噴出したときの火道の可能性があるという。 


図10 岩脈近接.jpg
図10  岩脈の近接
 前の写真の一番上の岩塔である。全体としては放射状節理のように見える。走向はN50゚Eである。 


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図11  裾合平火砕岩・溶岩
 標高2170m付近の急登部の岩塊群である。変質は受けていないが高温酸化を示すレンガ色のブロックが多い。 


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図12  旭岳山頂火砕岩
 ニセ金庫岩(右端)の山側に旭岳山頂火砕岩の末端と思われる崖が見える。ニセ金庫岩すぐ左の茶色の山頂は後旭岳である。ここは標高2200mで最後の急な登りが始まる。 


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図13 金庫岩
 この岩のある位置から判断すると裾合平火砕岩・溶岩である。やや赤褐色を帯びている。溶結した火砕岩であろう。 


図14 熊ヶ岳.jpg
図14 熊ヶ岳
 旭岳山頂から熊ヶ岳(2210m)の火口を見る。中央に二つの火口があり,右側斜面にもう一つの火口があるとされる。左奥の三角の山は北鎮岳(標高2244m)である。 


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図15 後旭岳
 旭岳山頂から後旭岳(2216m)を見る。手前の三角の山体の向こうに火口がある。北側(左)斜面は急崖となっていて露岩している所がある。旭岳との間の鞍部(標高2100m付近)に,この時期(2017年9月17日)でも雪が残っている。中央の遠くの山は白雲岳(2230m)である。 

参考にした図書など

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