芦別岳
(山行:2010年9月8日 記事作成:2016年6月18日)
概 要
夕張山地の最高峰である芦別岳は天を突く岩山で,見る場所によってはこの山の頂上に登れるのだろうかと思わせる鋭い山容を持っている.
地理院地図を20万分の1程度にして眺めると,北は富良野西岳の東から芦別岳,夕張岳を通り白金川(しらきん・がわ)にまで達する傾斜の緩い地形と線状構造が見える.ジュラ紀後期〜白亜紀にかけての海成堆積物(空知層群)と蛇紋岩などの超苦鉄質岩が分布している地質帯である.
芦別岳は,この地質帯の東に位置する標高1,726mの山で夕張山地の最高峰である.芦別岳山頂付近の鋭い地形を形成しているのは玄武岩である.
芦別岳の登山道は,尾根を辿る新道コースと勇振川を遡り芦別岳の北尾根に出る旧道コースがある.
図1 夕張山地北部
芦別岳西側の南北方向の線状構造である.左の白い尾根は崕山であろう.中央が夕張山地西側の線状構造のはっきりした尾根で,その右の沢は.シュウパロ川の最上流である.されに右が緩斜面の地域である.遠く富良野盆地が見える.右やや上の白いのが芦別岳のようである.
旧道コース
登山道に最初に出てくる露頭は,標高410m付近の奈江川珪質頁岩層である.そして,すぐ上流に厚層の砂岩が出てくる.塊状で節理間隔の広い砂岩である.図幅では上部蝦夷層群最下部の二十五線沢砂岩層としている.
この区間では登山道は左岸側を高巻きしている.再び沢に降りた付近に滝がある.
図2 珪質頁岩
珪質な頁岩と頁岩との互層で,上部空知層群・奈江川珪質頁岩層である.細片化しやすい.
図3 登山道脇の砂岩層
厚層砂岩である.登山道のすぐ脇に出ている.二十五線沢砂岩層であろう.
図4 標高440m付近の砂岩層
右岸側の沢状地形の側部が崩壊を起こして砂岩層が露出している.二十五線沢砂岩層であろう.
図5 標高430m付近の頁岩層
槙柏山から東南東に延びる尾根の幅が狭くなる直下の露頭である.N25゚E,70゚SEの走向・傾斜である.主夕張川珪質岩層であろう.
図6 塊状泥岩
ユーフレ沢分岐手前の左岸にある大きな沢付近に露出している.
図7 緑色岩
ユーフレ沢分岐にある白竜ノ滝をつくっている露頭である.図幅では「芦別岳輝緑凝灰岩層」(緑色岩類)の分布域である.
ユーフレ沢と分かれて夫婦岩の東を巻くように夫婦沢を登って行く.2010年は8月にかなりまとまった雨が降り,沢は土石流で埋まり渓岸には崩壊が発生していた.
標高1,120mの急登部付近から踏み跡のはっきりした登山道となり視界が開けてくる.夫婦岩も見えるようになる.夫婦沢の北にある御茶々岳南斜面は地すべり地形で,末端は土石流となって夫婦沢に流れ込んでいる.槙柏山の北斜面は十八線沢に流れ込む地すべりである.
図8 夫婦沢の土石流
沢を埋めた土石流堆積物である.礫は人頭大よりやや大きいものが含まれるが比較的小さい.緑色岩由来のものが多い.
図9 夫婦沢の渓岸崩壊
古い土石流堆積物が崩壊している.径2mほどの礫のほかに蛇紋岩粘土が含まれている.
崩壊が各所にあったことと登山道が分からなくなっていたことで,大部時間を使ってしまった.
登山口から北尾根まで4時間かかった.夫婦沢に入ってから途中道を失ったため少し時間をとられた.ここからは,尾根上の見晴らしの良い道である.標高1,279mのコブ付近に小さな露頭がある.緑色岩類で多分,閃緑岩であろう.
夫婦岩,ユーフレ沢最上流,芦別岳山頂付近は,「芦別岳輝緑凝灰岩層」である.顔つきは変化するが緑色凝灰岩が主な岩相のようである.
尾根の西側はなだらかな地形で,小さな沼があったり蛇紋岩粘土の崩壊地があったりで,東側とは全く違った地形をしている.シームレス地質図では,このなだらかな地形の部分を超塩基性岩としている.かなり粘土化した蛇紋岩が分布しているようである.
夫婦岩を過ぎた付近から急登が始まる.蛇紋岩主体の地域からジュラ紀の苦鉄質岩あるいは海成堆積物の分布域になる.
図10 北尾根の緑色岩
標高1,279mのコブ付近の露頭である.
図11 北尾根西側の蛇紋岩分布地
なだらかな地形が広がり,小さな沼が登山道のすぐ脇にある.惣芦別川最上流に向かう地すべり滑落崖の上部である.
左奥の山はジュラ紀の海成堆積物あるいは苦鉄質岩で構成されている.
図12 崕山
標高1,270mからの急登部手前で振り返ると崕山が望める.石灰岩の岩峰を連ねる山で,植物保護のためモニター登山でのみ入ることができる.これは,このコース最大の儲けものである.
図13 標高1,444mピーク付近の緑色岩
急登部を過ぎてなだらかなピークに出た付近の露頭である.シームレス地質図ではジュラ紀海成堆積岩類,5万分の1地質図では「芦別岳輝緑凝灰岩層」としている.
図14 標高1,457mピーク付近の頁岩
急登部を過ぎてなだらかなピークに出た付近の露頭である.灰色がかった淡緑色・細粒の石で凝灰岩であろう.
図15 標高1,457mピーク付近の頁岩
標高1,579mのコブ付近の露頭で,赤色泥岩や緑色の頁岩からなる.シームレス地質図ではジュラ紀海成堆積岩類としている.
図16 標高1,500mの鞍部から見た山頂
左端が芦別岳山頂である.50mほどの岩稜部の登りである.道はしっかり付いているが,遠くから見るとどうやって登るのかと思う.ジュラ紀の海成堆積岩類である.
図17 標高1,560mのコブ
1,500m鞍部から登った頂点のコブを南から振り返る.このコブをどうやって越えるのか大部迷ったが,ハイマツが生えていない左側の岩の上をへばり付くようにして乗り越えた.炭酸塩鉱物脈が入り,かなり変質した砂岩である.
図18 ユーフレ谷源頭部上の登山道から見た山頂
この先の登山道はなだらかな斜面の上を行く.山頂付近を含め露岩しているのは玄武岩である.
図19 頂上の玄武岩
最後は植生のない玄武岩露頭を登って行く.多角形節理の断面が見える.
登りは北尾根に出るまで4時間,そこから頂上まで露頭の連続とは言え4時間かかっている.
帰りは新道コースを降りた.3時間と長いけれども,旧道コースに比べたら信じられないくらい楽であった.
参考にした図書など
- 北海道立総合研究機構地質研究所,北海道の地すべり地形.
( http://www.hro.or.jp/list/environmental/research/gsh/ >データマップ>北海道の地すべり地形データマップ )