坊主山

 (山行:2016年7月31日 記事作成:2016年8月08日)

概 要

 坊主山は,鵡川とその支流の穂別川に挟まれた山塊にあり,標高791mの何の変哲もない山である.
 山頂から東に張り出した尾根のさらに先端に「八幡の大崩れ」がある.この崩壊地は,国道274号福山大橋から日高町へ行ったヘアピンカーブ手前から見ることができる.

 坊主山周辺は,蛇紋岩地帯である.坊主山の北には,国道274号の稲里トンネル,道東自動車道の穂別トンネル,JR石勝線の新登川トンネルがあり,坊主山周辺の蛇紋岩帯の北への延長部を掘削した.いずれのトンネルも難工事となった.


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図1  国道274号から見た坊主山
 国道274号の福山大橋から日高町方面へ登って行く途中で見た坊主山である.中央右の三角の尾根が坊主山の頂上で,その周辺には蛇紋岩が形成する緩斜面が広がる.中央やや右の尾根の先端が八幡の大崩れである.

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図2 八幡の大崩れ
 大崩れの崩壊面である.崩壊面を構成する地質は,蛇紋岩化したかんらん岩で破砕部が挟在していて崩壊の原因となっている.崩壊堆積物によって,鵡川の流れは東に曲げられている.

図JR新登川トンネル断面図 .jpg
JR石勝線 新登川トンネルの断面図
(足立ほか,1969,51pに加筆)
 建設当時は,紅葉山線と呼ばれていた路線のトンネルである.最大土かぶり400mで,トンネルが掘れるのかが懸念された.そこで,土かぶり100mの地点で,第一次試験坑(直円3m,掘削長200m),第二次試験坑(幅7.0m,高さ7.8m,掘削長26m)を掘削し,本トンネル掘削のための資料を得た.

坊主山周辺の地質

 坊主山の西の穂別川周辺には後期白亜紀の海に堆積した砂岩泥岩互層(上部蝦夷層群)が分布している.坊主山に向かって中部蝦夷層群,幌内層(泥岩),滝の上層(砂岩,泥岩)が北北西−南南東方向で分布し,ハッタオマナイ層の粘板岩を経て蛇紋岩の分布域となる.
 蛇紋岩の中にハッタオマナイ層の変質玄武岩(スピライト質岩など)と微閃緑岩が取り込まれている.5万分の1地質図幅「紅葉山」では,坊主山の山頂を形成するのはハッタオマナイ層とされている.

 坊主山の登山道は,西の穂別川からのみである.地理院地図には,鵡川の八幡の大崩れから徒歩道が描かれているが,今回行ってみて頂上に至る徒歩道は見つけられなかった.

むかわ町穂別稲里コース

 穂別と鵡川を結ぶ道道74号穂別鵡川線の下沢橋のすぐ南の道路が登山口への道である.地理院地図には「中穂別橋」と表示されているが,「下沢橋」(しもざわ・ばし)が正解である.
 あとは案内板を見落とさないように町道から林道に入り,車で15分ほど上っていくと登山口がある.登山口の標高は530mである.

 この登山道での見どころは,1)登山道の標高600m付近から沢の手前までの微閃緑岩や玄武岩,2)標高720m付近からの蛇紋岩のなだらかな斜面,そして,3)頂上付近の緑色岩類などの三つである.

 登山口からやや急な登りのつづら折りを過ぎると,ほぼ直線の緩やかな上りとなる.この道の山側上方に露頭が見えてきて、沢の手前で登山道脇に微閃緑岩や玄武岩の露頭が現れる.濃い赤褐色を呈するのは玄武岩と考えられるが,青灰色を示す微閃緑岩もある.また,登山道に落ちている転石では,ほぼ新鮮なかんらん岩とそれに迸入したように見える黒灰色の蛇紋岩がある.


図3 かんらん岩の転石.jpg
図3 かんらん岩の転石
 右側の緑がかった灰色の部分は,ほぼ新鮮なかんらん岩である.左の黒色の部分は蛇紋岩化している.
 登山道の山側にある崖から落ちてきたものである.


図3 微閃緑岩.jpg
図4 微閃緑岩
 登山道脇の微閃緑岩の露頭である.水飲み場のある沢の手前まで露頭は続いている.一箇所,暗赤褐色で斑晶がほとんどないガラス質の部分がある.
 標高600mから650mにかけて等高線が混んでいる.この急斜面が微閃緑岩の分布域で,それより上方(東)は蛇紋岩の分布域と考えられる.


図4 蛇紋岩地帯.jpg
図5 蛇紋岩分布域の緩斜面
 登山道の標高720m付近から緩斜面が広がる.一面の笹原にトドマツが生えている.右手遠くが頂上である.

 大きくカーブを切って標高720mの緩斜面に出ると一面の笹原である.トドマツが所々にあるが見事な斜面が広がる.蛇紋岩がつくる代表的な地形である.「山小屋坊主」を過ぎて頂上に向かう.
 最初のコブには露頭は見られないが,転石は粘板岩である.

 登山道は頂上のコブへと向かう.頂上尾根の最初の露頭は,閃緑岩のようである.頂上の三角点付近にはいろいろな岩石が見られる.


図6-1 .jpg
図6-2 .jpg
図6-1 坊主山山頂尾根の露頭(1)
 チャート様の岩石である.「紅葉山図幅」では,ハッタオマナイ層B相の「スピライト質岩,同質凝灰岩,緑色片岩,青色片岩」となっている.
図6-2 坊主山山頂尾根の露頭(2)
 淡緑色の片理の発達した緑色片岩である.山頂尾根には様々な岩石が出ていて,チャート,緑色片岩,玄武岩などがある.


図7-1 南東を望む.jpg
図7 頂上から南東を望む
 この日は頂上に雲がかかっていて視界はない.なだらかな斜面に笹原が続いている.

図7-2 北西を望む.jpg
図8 頂上から北西を望む
 ハッタオマナイ層からなる尾根(左)と蛇紋岩の緩斜面が広がる.ここに雪が積もった光景を想像すると非常に魅力的な山である.

図8 穂別川から見た坊主山.jpg
図9  穂別川から見た坊主山
 こちらからだと山頂がどこか分からない.

参考にした図書など

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