建設発生土のリサイクルと有害金属(その2)

5.トンネルにおける掘削ズリの処理事例
6.重金属対応の留意点

 ここでは比較的早くから掘削ズリの有害金属の調査を行ってきたトンネルを例に,掘削ズリの判定方法と処理方法の事例を紹介する.
 また,容易に手に入る文献の大要を紹介する.詳しくはそれぞれの文献を見てほしい.


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5.トンネルにおける掘削ズリの処理事例

 トンネル工事では比較的早い時期から有害金属を含む掘削ズリには留意してきた.例えば,旧道路公団では,「岩の溶出試験」と「岩の化学分析」を少なくとも1997年頃から実施している.
 最近,トンネル掘削ズリの判定と処理方法について事例が公開されるようになってきた.すべてではないが,分かっている範囲で示す.
 このほかに,東北自動車道亀田山トンネルでの重金属対策の報告がある(日本道路公団技術情報,No.77,1985およびNo.81,1986).
 また,東北新幹線八甲田トンネルについては,第12回トンネル工学研究発表会論文・報告集に2編の報告がある.

(文献1)原田勇雄,1989,オロフレトンネルの設計・施工−鉱化変質帯のトンネル施工事例.土と基礎,37,9,101-104.(*地盤工学会,電子図書館で入手可能)
■主要道々洞爺湖登別線は,洞爺温泉と登別温泉を結ぶ観光ルートで,オロフレ峠の冬期通行を確保するために,このトンネルが建設された.トンネル延長は935mである.
■トンネルを構成する地質は流紋岩と同質角礫凝灰岩および安山岩岩脈で鉱化変質を受けている.
■溶出試験では,pHは3.5以下を示すものが多い.砒素の含有量が多く,銅・鉛・亜鉛・カドミウムは局所的に高い値を示し,硫黄含有量が多い.
■トンネル掘削ずりは約91,000m3の全量を盛土路体に流用し,表面を防水シート・吹付けコンクリートで完全遮水する密閉構造とした.
■工事中のトンネル排水も強酸性を示すことが予想されたため,中和処理と強酸可溶重金属類の除去を行った.また,ずり処理場からの排水についても同様の対処を行った.

(文献2)服部修一,菱沼慶正,太田岳洋,2003,八甲田トンネルの掘削近況と鉱化ずりの管理手法.トンネルと地下,34,11,7-22.

(☆八甲田トンネルは東北新幹線八戸・新青森間に建設された延長26.455kmの超長大トンネルで,1998年7月に着工し2005年2月に貫通した.)
■このトンネルでの鉱化変質岩の処理についての基本的考え方は次のとおりである.

  • 土捨て場からの酸性水の発生と有害金属の溶出により周辺環境に悪影響を及ぼさないこと
  • 鉱化帯の分布や岩石の化学的特性から酸性水の発生などが予想されるずりと問題のないずりを分別し経済的にずりを処理すること
■鉱化変質岩の他に,第三系の海成泥岩にも注意を払った. ■鉱化ずりの処理は管理型土捨て場によることとした.
■分別と判定の基本条件は,
 a) 1日にずり全量を1単位として管理する
 b) 24時間以内に判定する
 c) 1ヶ月に1回程度100mの水平ボーリングで切羽前方地質を確認する
 d) 分類基準値はフィードバックにより修正する
 e) 現場に分析室を設け鉱山地質技師が専任で行う
 の5点である.
■管理型ずりの判定は,a)鉱脈・鉱石が存在する,b)2〜4mmに粉砕した試料の帯磁率が50×10-6emu/cm3以下,c)10mm以下に粉砕し3分間浸透し1時間静置した溶出水のpHが6.0以下,d)硫黄含有量が2wt%以上,である.泥岩については,硫黄含有量が2wt%以上あるいはS/Caモル比(硫黄/カルシウムのモル比)が1以上の場合に管理型とする.
■管理型土捨て場は,工事中に土捨て場全体を屋根で覆い,埋立完了後に不透水材料などで土捨て場をキャッピングをしたあとに覆蓋を撤去する方式とした.これを「仮設クローズド型」と呼ぶ.

(文献3)服部修一,太田岳洋,木谷日出男,2003,酸性水発生に関わる掘削残土の応用地質学的検討−鉱山に近接して施行される八甲田トンネルにおける岩石特性評価法−.応用地質,第43巻,第6号,359-371.
■酸性水発生機構について簡略に述べ,トンネルと鉱山(上北鉱山など)の関係について述べている.
■トンネルで出現する岩石に溶出特性や酸性水を溶出する岩石の物理的,化学的特徴を把握する方法について述べている.すなわち,岩種別に試料を採取し,簡易溶出試験と56日後溶出水中の重金属元素・イオン濃度の測定,の全岩化学組成分析,帯磁率測定を行い,その結果を整理している.
■酸性水の浸出に関する岩石判定区分を泥岩以外と泥岩とに分けて検討した結果,どちらも硫黄含有量が2%以上含むものを管理型とした.
■八甲田トンネルで可能な限り迅速に管理型掘削ズリを判定するためのフローを作成した.

(文献4)服部修一,太田岳洋,木谷日出男,2004,土壌・地下水汚染を考慮したトンネル工事.北海道資源・素材フォーラム2004&廃棄物学会北海道支部第5回セミナー,資料「土壌・地下水汚染対策の現状と課題−北海道の環境保全を目指して−,23-28.
内容は(文献1)とほぼ同じである.

(文献5)佐々木幹夫,木村裕俊,赤澤正彦,長谷川利晴,2005,八甲田トンネルで発生する鉱化変質岩の環境対策.土と基礎,53,5(568),8-10.
■切羽の進行に合わせて掘削発生土を的確に判断していく必要があった.その際,酸性土を発生させる可能性のある鉱化変質岩を「管理型」として区別する.
■硫黄含有量が2%以上のものを「管理型」ズリとして管理している.このズリは産業廃棄物管理型最終処分場に準拠した構造としている.
■当初の予想では17%が「管理型」と予想していたが,実績は20%であった.ただし,工区ごとのバラツキがあり「管理型」ズリは4〜34%の範囲であった.

(文献6)吉竹敏明,2004,旭川紋別自動車道 中越トンネル工事 現場報告.北海道土木技術会 トンネル研究委員会会報,38,13-16.
■旭川紋別自動車道は,上川郡比布町で北海道縦貫自動車道から分岐してオホーツク沿岸の紋別市に到る道路である.トンネル延長は,3.2965kmでトンネルを構成する主要地質は,中生代の粘板岩で新第三紀の安山岩が貫入している.
■事前調査で粘板岩中からの砒素の溶出量が土壌環境基準を上回っていることが指摘されており,水平ボーリングの結果をもとに対策を行っている.
■基準を上回る掘削ずりは遮水シートによる封じ込めで道路本線盛土内に盛り立てている.

(文献7)佐々木高,2004,道々函館南茅部線道路改良(新川汲トンネル)工事 現場報告.北海道土木技術会 トンネル研究委員会会報,38,17-20.
■北海道南部の函館から噴火湾沿岸の南茅部町を結ぶ道々の改良工事に伴う新設トンネルである.トンネル延長は2.056kmで,構成する地質は新第三紀中新世の緑色凝灰岩,硬質頁岩,粗粒玄武岩と流紋岩の貫入岩である.
■事前調査では土壌汚染対策法の基準値を上回る重金属は検出されていなかった.
■施工中の先進ボーリング試料による溶出試験で,基準値を上回る鉛が検出され,先進ボーリングの湧水から水質汚濁防止法の排水基準を上回る重金属(鉛,砒素,水銀,鉄,マンガン)が検出された.
■重金属ずり処理は,100mの水平ボーリングを行い,まず 10mに1箇所で試料を採取し,さらに絞り込んで処理区間を決定した.これに切羽観察を加味して同様な地質の区間を要対策区間とした.
■掘削ずりは管理型処分場の構造と同じ「保護マット+遮水シート二重構造」を採用し,トンネル排水は坑口に「重金属対応型濁水処理設備」を増設して対応している.

(文献8)木賀一美,2005,甲子トンネル下郷工区工事(福島県) 有害な掘削岩を道路に封じ込める.日経コンストラクション,2005.2.11,62-37.
■甲子(かし)トンネルは,南会津の下郷町(しもごうまち)と白河市を結ぶ国道289号の通称甲子道路に建設されているトンネルである.トンネル延長は4.345kmで那須火山群の北にある甲子山の直下を抜く.
■このトンネルは火山活動で形成された黄鉄鉱などの硫化鉱物に伴って,鉛,セレン,砒素が土壌環境基準を超えると予想されている.
■要対策岩の判定は,先進ボーリングのコアで5mに1回の頻度で試料を採取し一次判定を行い,切羽掘削1日分で1回に二次判定を行う. また,先進ボーリングの湧水を採取し重金属含有量の分析を行う.
■要対策岩の判定は,pHが7未満のものと硫黄含有量が1.5%を越えるものとしている.湧水は鉛,セレン,砒素,カドミウムが水質環境基準を超えるものを処理対象としている.
■トンネル掘削ずりは道路盛土に使用しているが,要対策岩は二重遮水シートで包み込む方式で道路盛土に利用し,その周りを無害な掘削ずりで封じ込める形としている.

6.重金属対応の留意点

 重金属を含む建設発生土の対応方法についての留意点を述べる.

(1)重金属を基準以上含む建設発生土は,工事のなかで盛土などに流用することが基本である.しかし,八甲田トンネルのように大量の掘削ずりが発生し盛土に流用できない場合は,単独で管理型の処分場を造ることになる.道路の場合は,切り盛りの土量バランスを考慮して計画を立てることができるので,盛土などへの流用は比較的容易である.

(2)甲子(かし)トンネルのような火山岩地帯では,変質に伴って酸性土が出現し有害金属類が伴ってくることは予想できる.注意が必要なのは八甲田トンネルの事例で触れられていたように海成泥岩と破砕された粘板岩である.これらは微粒の黄鉄鉱を含んでいることがありそれに伴って酸性水が発生したり砒素を伴ってくることがある.このような例で有名なのは,横浜市近郊の宅地造成で発生した酸性岩盤の被害である.

(3)有害金属のうちで,もっとも問題となるのが砒素(ひそ)である.砒素は銅・鉛・亜鉛鉱床や硫黄鉱床の黄鉄鉱に伴って産出するのが一般的であるが,そのほかに黒色の泥岩や頁岩・粘板岩に伴って出てくることがあり注意が必要である.この場合,周辺の水は酸性を示さずアルカリ性となるので見逃されることがある.

(4) トンネルでは有害金属が岩石中に含まれているだけでなく,温泉水脈に当たった場合,大量の酸性水が出てくることがある.この場合,かなり長い期間にわたって酸性水が湧出するので坑口での中和処理が必要となる場合がある.

(5)八甲田トンネルで,データと経験が蓄積され公表されたおかげで,重金属対応方法はほぼ対応が固まってきたと言える.しかし,実際の現場では様々な問題がある.特に,工事の進行に支障を来さないようにどれだけ迅速に要対策岩を判定するかは,常につきまとう問題である.
 これを解決する一つの武器として,エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF)があり,今後,小型・軽量化・高性能化により現場での迅速分析に使用できる可能性がある(例えば,丸茂,2003).


参考文献

丸茂克美,白鳥寿一,菊池達也,友口勝,2003,小型蛍光X線分析装置を用いた土壌の重金属分析−発展の目覚ましい小型蛍光X線分析技術の現状と展望−.地質ニュース,2003.7(第587号),12-25.

(2005年10月6日)


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