地球温暖化をどう考えるか

 (2008年11月30日作成/2014年9月4日修正)

 地球温暖化については様々な本が出されている.地球科学から何が言えるのかについても,第四紀研究者からの発言がある.ここでは,地球の気候変動についてどこまで分かりつつあるのかを,できるだけ分かりやすく述べる.
 温暖化問題はどうしても対策(政策)の話になるが,自然科学としてどこまで分かっているのかを明らかにすることが重要である.

 


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過去の気温変動

 地球温暖化についての議論が活発に行われている.2007年にIPCCの第4次報告書が出され,人為的な温暖化効果ガスによって気温と海面の上昇が起きるので早急な対策が必要であるとされた.
 一方,気温の変化を含めた気候変動は人為的要因による変動と自然変動があり,これを区別する必要があるとする議論が出されている.

 過去の気候変動はかなりの精度で明らかにされてきている.1970年代頃までは陸上の地形や地質,古生物や考古遺跡などをもとに環境変化が明らかにされてきた.調査対象としては段丘,沖積層堆積物,火山灰,土壌,化石,遺跡などで,これらを総合的に検討して海水面の上昇・低下や地殻変動,気候の変化などが分かってきた.
 その後,世界各地の深海底堆積物やグリーンランド・南極の氷床コアの詳細な分析によって連続的な環境変動が明らかにされてきた.
(この項は町田ほか,2007による)

 大まかに言えば,約12.5万年前頃は現在より1.5℃ほど平均気温が高く,海水面は数m高かったとされている.一方,1.8万年前頃は極端に気温が下がり,今よりも5℃程度低く,海面は約100m現在よりも低下した.さらに,約6,500年前〜5,500年前の縄文前期には2〜3mの海面上昇を伴う温暖期があった.

気候の自然変動と人為的原因による変動

 このように,地質時代的には,つい最近でも大きな気候変動・環境変動が起こっている.地球温暖化を考える上では,このような自然変動を考慮に入れておくことが重要であり,地球科学が地球温暖化対策に貢献できる課題である.つまり,現在の気温上昇に自然変動がどの程度寄与していて,人為的要因による変動がどの程度かを明らかにすることによって,合理的な温暖化対策を立てることができる.

 このことについて,一つの回答を提示しているのが赤祖父俊一氏である(赤祖父,2008,p91).その要旨は次のとおりである.
1)1600年から1800年くらいまでは小氷河期で現在よりも気温は低かった.
2)1850年頃から気温は直線的に上昇しており,現在もその過程にある.
3)この小氷河期からの回復による気温上昇率は,0.5℃/100年である.
4)ICCPは炭酸ガスによる温暖化の速度は,0.6℃/100年としているが,実は,このうちの1/6が炭酸ガスが寄与している部分で,それ以外は自然変動と考えるのが妥当である.

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図1 過去1,100年間の気温変化(赤祖父,2008.元データは米国科学アカデミー,2006)
緑:年輪による推定値 水色:ボーリング孔温度
  その他に,氷河の長さ・様々な指標による推定値など,信用度の高いデータを集めたもの.
水色のなめらかな線はIPCCのホッケー・スティック曲線.
大まかな傾向として,西暦1,000年前後に温暖期があり,それ以後気温は低下して1600年から1800年は寒冷であった.1800年過ぎから気温は上昇に転じて今も継続中である.

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図2 1854年〜1993年の気温変化(赤祖父,2008.元データはBryant,1997)
 1951年から1979年の19年間の平均気温(水平の点線)との差を示している.気温変化は,ほぼ95%信頼度の線内に入っていて,気温上昇速度は0.5℃/100年である.

 この本で赤祖父氏は,さまざまなデータを示して小氷河期があり,その後,気温が上昇を続けていることを示している.
 日本では西暦1000年頃を中心とした奈良-平安温暖期と西暦1700年頃(元禄の頃)を中心とした鎌倉・江戸小氷期があったことが分かっており,過去2,000年の平均気温からの偏差は前者では+2.5℃,後者では-2.5℃程度とされている(秋山,2007,p4).

過去の気候変動

 もう少し長い時間,過去80万年間を見ると9回の氷期と,現在も含めて10回の間氷期が記録されている.この気候変化の特徴は,約10万年周期で氷期が訪れていること,温暖化は急激に進行するのに対して寒冷化はゆっくりと進むことである.

 過去の温暖な間氷期の気候変動から将来の気候変動を予想する試みが行われている.参考になる間氷期は約40万年前の「酸素同位体ステージ11」である.
 ステージ11の特徴は
1)その前に大氷期(ステージ12)があった.
2)日本では南関東の多摩e海進に相当し,特に温暖な海水環境であった.
3)地球公転軌道の離心率が小さい時期で,地球はあまり太陽から離れなかった.この離心率の周期は10万年と40万年とがあり,現在の間氷期とサイクルが一致する.
4)大気の二酸化炭素の濃度が極大(約280ppm)に達した.
5)継続期間は2〜3万年と推定されている.
(町田ほか,2007,14-19)

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図3 酸素同位体の変動で見るステージ11<約41万年前>とステージ1<現在>
(町田ほか,2007,17p)

1)横軸は年代で,上が現在を中心とした尺度,下の尺度が41万年前.
2)実線がステージ11の酸素同位体の変化グラフで点線がステージ1(現在)の変化グラフ.
3)ステージ11と同じ経過をたどるとすると,今から1万5百年くらいまでは気温が現在より高くなり,その後ゆっくりと寒冷化する.
4)ステージ2からステージ1への移行期の1万1千5百年前にヤンガードリアス期という急激な寒冷期があったが,ステージ11でも同じような変化を示している.

*1)酸素同位体ステージは,MIS(Marine Isotope Stage )と呼ばれ,現在の温暖期がMIS1,1万年以前の寒冷期がMIS2と言う具合に,温暖期が奇数,寒冷期が偶数の番号が付けられている.
*2)酸素同位体を測定する試料は,世界各地の深海底コアから採取された有孔虫(底生有孔虫)の殻である.酸素同位体は重い酸素(18O)と軽い酸素(16O)があり,温度や海水の濃度によって存在量(酸素同位体比)が変化する.しかし,深海底では水温はほぼ一定であるので,海水の濃度によってのみ酸素同位体の存在量が変化すると考えて良い.つまり,陸上の氷が溶けて大量に海に流れ込むと軽い酸素同位体(16O)が増え,寒くなると海水から軽い酸素(16O)がより多く除かれ陸上の氷となるので,海水には重い酸素(18O)が多くなる.
*3)酸素には16O,17O,18Oがある.地球科学分野では酸素同位体比は18O/16Oのことを指す.ただし,δ18Oで示される酸素同位体比は標準平均海水の同位体比に対する試料の同位体比の比率である.つまり,δ18O=(α-1)×1000 である.
*4)α=(18O/16O)試料÷(18O/16O)標準平均海水 を同位体分別係数といい,このαはほとんど1に近い値となる.例えば,δ18O=-32〜-42‰と言うことは,同位体分別係数が0.968〜0.958の範囲で変化していることを示している.陸上の氷が溶けて,それが海に流れ込むと軽い酸素が海水中に多くなり,αは小さい値となるので酸素同位体比(δ18O)はマイナス側に振れる.

太陽活動と気候変動

 気候変動は太陽活動と密接に関係しているとされている.その理屈の一つは次のようなものである.
1)太陽黒点が多くなり太陽活動が活発になると地球にやってくる太陽風が強くなる.
2)太陽風が強くなると,宇宙からやってくる銀河宇宙線が太陽風の磁場で進路を妨げられて地球に突入する量が減る.
3)宇宙線の量が減ると,それまで宇宙線で空気がイオン化されて水滴の核が形成されていたのが減少し,水滴が出来にくくなる.
4)水滴が出来にくくなるため地球上で発生する雲の量が減って気温が上がる.

 ただし,このメカニズムには地球規模で流れる電流が効いているという説もある(ティンスレー,1996).
 いずれにしても,太陽活動が活発になると雲が出来にくくなり気温が上昇する.
(この項は伊藤,2003による)

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図4 最近の太陽黒点数の変化 (SILOS<http://sidc.oma.be/silso/monthlyssnplot>による)
 太陽黒点数は約11年周期で変動していて,現在は極小期となっている.

 この太陽活動の長期的変化は宇宙線によって形成される14Cや10Beの変化量によって知ることが出来る.グリーンランドや南極の氷の中に含まれる10Be濃度と酸素同位体比がよく一致している.

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図5 10Be濃度と酸素同位体比の変化グラフ(B. van Geelほか,1999)
 縦軸は年代,横軸は濃度と同位体比10Beと酸素同位体比の挙動はかなり似ている.
 一番上のピークはヤンガードリアス期で,太陽の活動が減衰してベリリュウム10の濃度が高くなっている.一方,寒冷化するとグリーンランドなどの陸上の氷には蒸発しやすい16Oが多くなるので,酸素同位体比はマイナスに振れる.

 地球科学分野から地球温暖化について言えることは,自然変動と人為的影響による変動とを分離して合理的な対策を考える必要があり,過去の気候変動を参考にすれば,これが出来る可能性があるということである.


参考文献

 地球温暖化については様々な本が出されているし,論文も多数にのぼる.ここでは,温暖化をどう考えるかデータをもとに書かれたものを挙げておく.

■赤祖父俊一,2008,正しく知る地球温暖化.誠文堂新光社.
*最新のデータを使って,現在が小氷河期以後の気温上昇期であることを示している.また,温暖化現象として一般に報道されている映像などについて具体的に苦言を呈している.

■伊藤公紀,渡辺正,2008,地球温暖化のウソとワナ 史上最悪の科学スキャンダル.KKベストセラーズ.
*タイトルは際物的であるが,内容はデータに基づいたものである.気温変動の原因が何かを様々な角度から検討し,大気中の微粒子(エアロゾル),巨大噴火,地球の暗化・明化,着色エアロゾル(スス),植生,そして太陽活動などについて説明している.

■伊藤公紀,2003,地球温暖化 埋まってきたジグソーパズル シリーズ地球と人間の環境を考える1.日本評論社.
*著者と学生・友人・新聞記者などとの会話形式で書かれていて理解しやすい内容となっている.著者は光技術を用いた高感度な光センサー研究の日本での第一人者である.

■日本第四紀学会・町田洋・岩田修二・小野昭編,2007,地球史が語る近未来の環境.東京大学出版会.
*第四紀研究から地球の環境を考え,近未来の展望を考えるという趣旨の本である.この中では「2 地球温暖化と海面上昇ー氷床変動・海水準変動・地殻変動」が面白い.

■人類紀自然学編集委員会(代表 熊井久雄)編著,2007,人類紀自然学ー地層に記録された人間と環境の歴史ー.共立出版.
*やや専門的な内容であるが,地質・地形から長期的な環境変化を明らかにしたものである.堆積物の中にどのような環境変動が記録されているのかを理解するのに便利である.

■丸山茂徳,2008,「地球温暖化」論に騙されるな!.講談社.
*第1級の地質学者が書いた地球温暖化論批判の書である.この本に出てくる東京工業大学理学流動機構の「21世紀の地球気候予測予測」では,2010年頃から気温は下がり始め,2050年頃からまた上昇するとされている.この予測が手軽に読めると良い.丸山氏はこのほかにも温暖化論批判の本を出している.

■秋山雅彦,2004,地球史から見た地球温暖化問題.地球科学,vol.58,no.3,7-15.
 秋山雅彦,2007,地球の歴史と地球温暖化問題の科学.地球科学,vol.61,no.1,1-20.
 秋山雅彦,2008,最終間氷期とその気候変動について.地球科学,vol.62,1,5-15.
 秋山雅彦,2008,古気候から見た地球温暖化問題.EPOCH,No.57,6-12.
*「古気候の解析からは気候変動の歴史を読みとることができる.この論説では,それらの成果に基づいて地球温暖化問題はどのように捉えられるか,私の見解を述べてみたい.」(EPOCH 論説より)という趣旨で書かれた一連の論文である.
 一般には手に入らないが,様々な視点から温暖化問題を見ている点で参考になる.
 なお,“EPOCH” は「日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会 会報」である(連絡先:Tel 011-801-1570 (株)ドーコン地質部).

■B.von Geel,O.M.Raspopov,HRessen,J.von der Plicht,V.A.Dergachev,H.A.J.Meijer, 1999, The role of solar forcing upon climate change. Quaternary Science Reviews,18,331-338.


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