2012年度の日本地すべり学会北海道支部の技術講習会は,「空中写真判読から地すべりの活動度を評価する」というものでした。
同学会北海道支部では研究小委員会で,地すべり活動度の評価手法を検討していました。また,北海道立総合研究機構 地質研究所では平成21(2009)年から平成23(20011)年の3年間,「土砂災害軽減のための地すべり活動度評価手法の開発」と言う重点研究を行ってきました。これらの成果の一つが,「地すべり活動度評価手法マニュアル(案)」(以下,「マニュアル」と呼ぶ)としてまとめられ,今回の講習会の教材となりました。
なお,北海道立総合研究機構地質研究所が中心となってまとめた「地すべり活動度評価手法マニュアル(案)」は,下のウェブサイトからダウンロードできます。
【 http://www.gsh.pref.hokkaido.jp/index.html>ダウンロード>図面・データ・カタログなど 】
冊子版は「山の手博物館>販売資料> (独)北海道立総合研究機構 地質研究所 有償頒布刊行物>地震・火山・地すべり,で値段を確認して下さい.
地すべり活動度の評価は,さまざまな手法が使われてきました。今回の評価に使われたのは、AHP(Analytic Hierarchy Process:階層分析法)という意志決定モデルです。
この方法の特徴は,『2つの項目一対についての相対比較をすることによって,「心の中にある」重要度の相対比較は,相当正確に行える』という人間の心が持つ特徴を利用することです。
つまり,ある項目について比較する場合,「これとこれとどっちが良い」という比較を行いながら各項目のウェイトを決めていきます。
AHPでは階層を設け,それぞれの階層で評価項目を設定します。そして,各評価項目で一対比較を行います。各階層でウェイトを設け,ウェイトの積として重み係数を決めます。この重み係数は,合計すると1.0になるので,これを100倍して各項目の点数とします。ですから,それぞれの項目の得点を合計したものは100点になります。
原文での表のタイトルは,「地すべり地形再活動危険度評価のためのAHP階層構造と重み」です。
地すべり移動体の末端の状況のウェイトが0.370で,もっとも重いウェイトを置いています。
原文でのこの表のタイトルは,「地すべり活動度評価のための判定要素(観察アイテム)」です。
地すべり移動体の末端の状況のAHP点数が16.5(ウェイト=0.370)で,もっとも高く設定されています。
地すべり活動の評価の仕方は次のとおりです。
講習会では4カ所の地すべり活動度を評価しました。講師の評価と私(受講者)の評価は下の表のようになりました。
地すべり地区名 | 講師 | 受講者 |
I 地区 | 72.2 | 68.7 |
K 地区 | 64.3 | 55.2 |
N 地区 | 58.5 | 44.1 |
Y 地区 | 70.6 | 61.3 |
細かなことを言えば,色々と修正するところはあるのでしょうが,建設工事の計画の初期段階で,この方法を用いて活動度の高い地すべりを抽出することができれば,大きな手戻りを防ぐことができると思います。
現在,空中写真はウェブサイトで手に入れることができますし,簡単な地形計測もウェブサイトでできます。このような環境を活用することによって,この評価法は,より経済的な建設計画を立てる強力な武器になります。