風不死岳

 (2017年7月31日作成)

概 要

  風不死ふっぷし 岳は支笏カルデラの南東にある標高1,102m の火山である。支笏カルデラ形成後,2万6千年前以前に活動を開始し,最新の噴火は8,500年前あるいは4,500年前とされている。
 支笏カルデラの南東から,樽前山,風不死岳,恵庭岳と後カルデラ火山が並んでいて,その中で最も古い火山である。山体はかなり浸食が進んでいて北北東の大沢や西に向かう沢など深い沢が発達している。


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図1  風不死岳と樽前山
 支笏湖畔 から見た風不死岳(右)と樽前山(左)である。風不死岳が鋭い山容を示すのに対し,樽前山はなだらかな山体を示し植生もほとんどついていない。

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北尾根コース

 風不死岳には二つの登山コースがある。南の樽前山ヒュッテコースと北の支笏湖畔から登る北尾根コースである。
 以前,樽前山溶岩ドームの写真を撮るために,樽前山ヒュッテコースから途中の963m ピークまで登ったので,今回は北尾根コースを選んだ。
 単成火山だから当然ではあるが,ひたすら登る結構辛いコースである。

 登山ポストは標高305m付近にあり,10台くらいは何とか車を駐めることができる。登りはじめて標高450mくらいまでは,なだらかな斜面で樽前図幅では崖錐堆積物,地質図Naviでは岩屑なだれ堆積物としている。

 登山道の標高440m付近から大沢対岸の露頭が見える。緩く傾斜した層構造が認められる。この露頭の位置から判断すると,樽前図幅で金次郎沢集塊岩層(Fv2)としているものかもしれないが,図幅の記載とは岩相が明らかに異なる。

 標高765m付近で支笏湖の東の方が木の間から見える。樹林に囲まれて視界はほとんど効かない。
 標高815m付近で対岸に露頭が見える。急崖をつくっていてほぼ水平の層構造が見える。


図2 標高440m付近対岸の露頭.jpg
図2 標高440m付近対岸の露頭
 礫の多い部分と細粒菜部分とが互層して緩く傾斜している。


図3 標高815m対岸の露頭.jpg
図3 標高815m付近対岸の露頭 
 急崖を形成している。「金次郎沢集塊岩層」と考えられる。

 標高900m付近から930mにかけて不思議な光景が広がる。登山道は,やや幅の広い尾根をたどっているのだが,斜面一面にフキが生えている。
 樽前図幅では標高800m付近まで「蕗畑の沢溶結凝灰岩」(含角閃石輝石安山岩質溶結凝灰岩:Fv5)となっていて,この付近から上方に最も新しい溶岩である第3期溶岩(含石英輝石安山岩:Fv6)が分布している。
 このフキの群生地付近が,溶結凝灰岩と溶岩の境界である可能性が高い。つまり,溶岩の下底からの湧水があり,フキが群生できる湿地性の環境がつくられているのであろう。


図4 910m付近のフキ畑.jpg
図4 標高910m付近のフキ畑
 尾根筋をたどる登山道とその周辺一帯にフキ畑が広がっている。水の多いところを好むフキが群生していることから,地下水が豊富なのだろうと思う。

 登山道に現れる最初の本格的な露頭は標高980m付近のもので,石英を含み輝石の目立つ白灰色の安山岩である。
 この先は標高1,050m付近,1,060m付近,1,095m付近と安山岩の露頭が出てくる。いずれも山頂を形成する含石英輝石安山岩である。節理は明瞭でないが,厚い板状節理が見られるものもある。


図5 最初の露頭.jpg
図5 登山道に現れる最初の露頭
 標高985m付近で現れる本格的な露頭である。登山道の東にある大沢の源頭部に近く,頂上から派生する北北西方向の尾根の先端付近である。登山道は,この岩を乗り越えて右手に行く。


図6 1,090m付近の露頭.jpg
図6 標高1,090m付近の露頭
 東に緩く傾斜する厚い板状節理を持つ安山岩である。

 標高1,070m付近からは,頂上から北北東に延びる尾根上の道となる。露頭はなくなり,ササとダケカンバである。ハイマツが見られないのが面白い。

 頂上はそれなりの広さがあり,ゆっくりと休憩出来る。
 東側に凹地と岩峰がある。記念碑のように岩が並んでいる。すぐ南には1,050mほどの尾根があり樽前方面への登山道が続いている。
 この日の頂上は雲の中で,視界は全く効かない。それでも,頂上の石を確認出来たので目的は達した。おにぎりを食べ,ゆっくりと休んで頂上を跡にした。


図7 頂上の安山岩.jpg
図7 頂上の安山岩
 規則的な節理は見られない。風化した面で,輝石の斑晶をはっきりと見ることが出来る。


図8 頂上の安山岩の近接.jpg
図8 頂上の安山岩の面
 黒色のやや大きな輝石が特徴である。白濁した斜長石も見られる。


図9 頂上東の岩峰.jpg
図9 頂上東の岩峰
 頂上の東には凹地を挟んで岩峰が見られる。写真中央付近に角張った岩が二つ見える。地図で判断すると初生的な地形と考えられる。


図10 大沢源頭部.jpg
図10 大沢源頭部 
 大沢源頭部の崩れのすぐ上をロープや木の根につかまりながら降りる。ちょっと怖い。


図11-1 含石英輝石安山岩.jpg
図11-2 輝石石安山岩.jpg
図11-1 頂上の含石英輝石安山岩
 頂上を含む南北の尾根は,この含石英輝石安山岩でできている。灰白色で輝石の斑晶が目立ち,ややもろい印象がある。
図11-2 標高920m付近の輝石安山岩
 標高920m付近の輝石安山岩である。黒色部と赤褐色部とが認められる。フキ畑の上のロープが設けられた付近に出ている岩である。頂上付近の岩とは明らかに岩相が異なる。

 汗びっしょりになったので,帰りは丸駒温泉によって汗と疲れを流した。
 久しぶりに訪れたが,秘湯という感じはなくなって大賑わいである。名物,湖水の温泉にまで降りてくる人は少なく,ゆっくりと過ごすことができた。この湖水の温泉は支笏湖と水位が同じというのが売りであるが,砂利の下から直接温泉が湧き出していて,足で砂利を少し掘ると泡が浮いてくる。

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