富良野西岳

 (山行:2016年7月12日 記事作成:2016年7月15日)

概 要

 富良野盆地の西にある芦別岳から続く山群が,空知川で切られる手前にあるのが富良野西岳である.富良野盆地に面した斜面は,富良野スキー場として開発されている.日本の多くのスキー場が火山の斜面に設けられているが,富良野スキー場は主に白亜紀の地層からなる山の斜面で,麓には御料断層,中富良野断層が分布している.
 なお,富良野スキー場の富良野ZONEの上部には二つの地すべりが判読されているほか,スキー場上部で富良野ZONEと北の峰NONEを結ぶ「連絡C」は,地すべり移動土塊がつくる緩斜面を利用している.

 地形図を見ると,富良野西岳は北北東−南南西に長く延びた山体をしていて東斜面は尾根から崖となり,標高900m〜1,000m付近から下がなだらかな斜面となっている.急崖部は非常に硬質な優白質岩類からなっているのに対し,なだらかな斜面は蛇紋岩などの超塩基性岩類で構成されているためである(5万分の1地質図幅「山部」および同説明書.以下,図幅という).


図1 富良野西岳全景.jpg
図1 富良野西岳全景
 中央の最高点に見える丸い突起が頂上である.尾根付近は優白質岩類で構成されていて,手前の緩斜面は超塩基性岩の分布域である.山麓を通る道道985号山部北の峰線の十線川付近から見る.

旧道・沢コース

 富良野スキー場富良野ZONEの南側にある沢沿いに登るコースである.
 ただし,2016年7月現在,コースは十分に整備されていないのでルートを見失いがちになるのと避難路(エスケープルート)がないので,沢歩きの経験がない人は行かない方が無難である.


図2 沢ルートの状況.jpg
図2 沢コースの状況
 標高530m付近の沢の状況である.沢の規模に比べて水量はかなり多い印象である.この付近はまだ沢の幅が多少あって歩きやすい.沢を何回か渡らなければならないが,玉石は非常に滑るので足をおけない.ルートも不鮮明な場所があり,ピンクテープを探しながら遡らなければならない.

 図幅によれば,この沢沿いでは登山ポストのある砂防ダム付近に北西−南東方向の断層があり,これより下流側には新第三紀の金山夾炭層が分布し,上流は中部蝦夷層群の馬内川頁岩層が分布している.標高470m付近を境に断層で主夕張川珪質岩層に接している.
 最初に登山道に出てくる露頭は,標高540m付近の右岸にある粘板岩で,主夕張川珪質岩層に属するものと考えられる.かなり片状化している.


図3 粘板岩露頭.jpg
図3-1 主夕張川珪質岩層
 登山道で最初に現れる露頭.上流から見たところである.
図4 粘板岩露頭部分.jpg
図3-2 露頭の拡大写真
 珪質な粘板岩で岩自体は比較的硬質であるが,細片化しやすい.

 標高540m付近からは超塩基性岩の分布域となる.露頭としてはあまり蛇紋岩化を受けていない黒色・硬質な岩が出てくる.
 標高753mで右岸(上流に向かって左側)に湧水がある.この場所は,図幅では超塩基性岩(下流側)と優白岩類(上流側)の境界となっている.水量はかなり豊富で,水温は10℃以下であろう.

 登山道が沢を離れる手前右岸,標高805mの所に金鉱跡がある.この少し手前で斜面崩壊がありほとんど露頭に近い優白質岩が露出している.坑道は,有色鉱物をほとんど含まず長石と少量の石英を含む優白質岩中を掘削している.金属鉱床に特有の褐色化した部分(黄鉄鉱の酸化による)はない.この岩石は図幅で曹長斑岩と言っているものであろう.

 金鉱跡を過ぎると登山道は沢を離れて富良野西岳の山頂から北北東に延びる尾根に取り付く.沢を離れる地点には板に赤い矢印が書かれた「標識」がある.今回登った時には,登山道は伐開された形跡はなかったが,踏み跡を見つけて辿れば迷わずに行ける状態であった.


図4 斑れい岩.jpg
図4-1 超塩基性岩の露頭
図4-2 粘土化した蛇紋岩jpg
図4-2 蛇紋岩粘土を含む露頭
 ほとんど蛇紋岩化していない超塩基性岩で,黒色緻密である.ドレライトであろう.  蛇紋岩特有の青灰色を呈する礫まじり粘土が崩壊している.これ自体は崖錐堆積物と考えられる.標高670m付近の登山道対岸である.


図5 湧水.jpg
図5 湧水
 湧水の出口は草に覆われていて写真では分かりにくい.湧水点にはホースが挿入されていて,そこから滔々と透明な水が湧き出している.斜面に堆積した玉石を主とする崖錐堆積物の間から湧いているようである.沢を離れると水場はないので貴重な湧水である.

図6 金鉱跡.jpg
図6 金鉱跡
 沢の右岸にある金鉱跡で奥行きは10mほどであろう.図幅には「採金を目的として開坑探鉱した」(63p)とある.なお,図幅では富良野西岳を「下富良野岳」としている.

 尾根に取り付くと登山道は完全に優白質岩類の分布域になり,登山道に転がっている石はすべて優白質岩である.この斜面の平均傾斜は36°で,道はジグザグを繰り返しながら登っていく.緩やかな尾根に達するまでの比高は300mである.

 標高1,200m付近からなだらかな尾根道となり歩くのは楽になるが,東側は断崖となり結構怖い思いをする.出ている岩石はほとんど優白岩であるが,標高1,180m〜1,190m付近の登山道に超塩基性岩類が見られる.岩相は,珪質凝灰岩,黒色泥岩,弱い枕状組織を示す玄武岩などである.


図7 超塩基性岩.jpg
図7 標高1,180m付近の超塩基性岩類
 よく見ると,この露頭には細粒凝灰岩,黒色泥岩,枕状溶岩など様々な岩相が見られる.

図8 凝灰岩.jpg
図8 標高1,190m付近の凝灰岩露頭
 淡灰青色の緻密細粒な凝灰岩である.

図9 尾根の優白岩.jpg
図9 標高1,95m付近の優白質岩
 有色鉱物が多少散点している優白質岩である.

 露岩した急崖を左に見ながら頂上を目指す.富良野盆地と十勝連峰が一望である.出ている岩石は優白岩であるが,標高 1,245m付近の登山道右手にある露頭は超塩基性岩の可能性がある.図幅で超塩基性岩が北西方向に延びている位置に当たる.
 幾つかコブを越えてようやく頂上にたどり着く.


図10 超塩基性岩.jpg
図10 超塩基性岩と思われる露頭
 露頭に近づくのが難しいのと逆光なので何の岩石か判断できない.図幅で超塩基性岩類としている場所に当たる.

図11 超塩基性岩.jpg
図11 頂上
 2mほどの標柱が立っているのが頂上で,優白質岩の露岩の上である.

 頂上からの眺めは素晴らしい.東には十勝連峰と火砕流台地,その手前に蛇紋岩を含む空知層群の緑色岩の丘陵が広がる.北には芦別岳,布部岳とその間の蛇紋岩地帯のなだらかな地形が広がる.


図12 頂上の優白岩.jpg
図12 富良野西岳頂上の優白質岩
 部分的に破砕されているが節理の発達した硬質な岩である.長石,石英,角閃石が見られる.トロニエム岩であろう.

図13 芦別岳.jpg
図13 芦別岳
 富良野西岳頂上から見た夕張山地の最高峰・芦別岳である.雪が残っているユーフレ谷の切れ込みは凄みがある.芦別岳一帯は「芦別岳輝緑凝灰岩層」(主に緑色岩の空知層群)からなり,その延長は富良野西岳を構成する優白質岩の西側に続いている.

図14 蛇紋岩帯.jpg
図14 富良野西岳から南を見る
 雲に隠れているのが芦別岳で,その左(西)になだらかな地形が広がる.この地形は延々と夕張岳のやや南まで続き,北は富良野西岳の東の緩斜面となる.
 中央の左(西)にゆるく傾斜している斜面は極楽平周辺である.三角の尖った山は標高1,590mの無名の山であろう.


図15 富良野盆地.jpg
図15 富良野盆地の南部
 標高1,200m付近から見た富良野盆地南部である.盆地の中を空知川が南(右)から北へ流れる.その向こうの丘陵は,蛇紋岩や優白質岩を伴う空知層群の「芦別岳輝緑凝灰岩層」である.右端の緑が薄くなっているところは,石綿(温石綿)を採掘したノザワ鉱山などの跡である.

スキー場コース

 富良野西岳の頂上を南に降りたコルから富良野スキー場に行く登山道がある.このコースは,尾根道なので比較的気軽に登ってくることができる.この日は富良野ロープウェイが動いていたので,これを利用すれば1時間40分ほどで頂上に立つことが出来る.

 頂上からコルへ降り,やや急な斜面を下って行くとなだらかな尾根道となる.急斜面には緑色岩の転石が落ちていた.沢にはまだヤチブキの花が咲いていた.
 標高1,124mのコブ付近では緑色岩の転石が見られる.露頭らしい露頭はほとんどない.
 登山道は富良野ZONEの最上部,標高1,060mの地点に出る.ここからはスキー場の中の道を標高340mのロープウェイ始点駅まで下っていく.


図16 緑色岩.jpg
図16 尾根上の緑色岩転石
 標高1.124mのコブの登山道で見られる緑色岩で,ほぼ地山に近いと考えられる.

図17 緑色岩.jpg
図17 緑色岩の近接写真
 やや青みを帯び黒灰色で緻密・硬質である.図幅で「芦別岳輝緑凝灰岩層」(下部空知層群)としているものでドレライトであろう.

図17 スピースCコース.jpg
図18 富良野ZONEスピースコースの標高870m付近
 この付近は優白質岩類の分布域である.地すべり移動土塊頭部の緩斜面から中間部の急斜面に移る付近に当たる.

参考にした図書など

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