トンネルの事前地山分類と支保工実績

 トンネルの地山分類はいくつかの機関でそれぞれ異なった基準が設けられている.
 土木学会の「トンネル標準示方書」,国土交通省の各地方整備局の設計要領,日本道路公団の設計要領第三集,日本鉄道公団の地山分類,農林水産省の地山分類,北海道開発局の地山分類などがある.
 これらの詳細については,「山岳トンネルの地質調査」で述べるつもりである.

   ここでは,良好な地山での事前調査の地山分類と実施工での支保パターンの乖離について述べる.  


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日本道路公団の地山分類

   日本道路公団の地山分類では,まず対象地山がどの岩石グループに属するかを判定する.

 岩石グループは岩盤の新鮮な状態での強度により、
 硬質岩(一軸圧縮強度80N/mm2以上)、
 中硬質岩(同20〜80N/mm2)、
 軟質岩(同20N/mm2以下)

  の3つに分ける。

   さらに、
 節理面が支配的な不連続面となる岩盤を塊状、
 層理面あるいは片理面が支配的な不連続面になる岩盤を層状
 に分ける。

 この二つの要素を組み合わせて、以下の5つの岩石グループに分類する。

岩石グループ

 トンネル地山分類の前提となっているのは,岩盤の初生的性質を反映した新鮮岩の強度(一軸圧縮強度)と岩盤が形成されたあとの劣化の仕方(例えば,泥岩が応力を受けて粘板岩や片岩に変化する)の二軸での岩石のグループ分けである.

岩盤の初生的性質を反映した新鮮な状態での強度の区分
硬質岩中硬質岩軟質岩
劣化の仕方による区分塊状岩盤

岩石グループ1
 斑れい岩
 かんらん岩
 閃緑岩
 花こう閃緑岩
 花こう岩
 花こう斑岩 
 石英斑岩
 輝緑岩
 ホルンフェルス
 角閃石岩

 砂岩(中古生層)
 石灰岩,チャート(珪岩)
 片麻岩

岩石グループ2
 安山岩
 玄武岩,輝緑凝灰岩
 石英安山岩
 流紋岩
 ひん岩
 砂岩,礫岩(第三紀)
岩石グループ2
 蛇紋岩
 凝灰岩
 凝灰角礫岩
層状岩盤岩種グループ3
 粘板岩
 頁岩(中・古生層)

岩石グループ4
 千枚岩
 黒色片岩,石墨片岩
 緑色片岩

泥岩,頁岩(第三紀層)

注1) 一軸圧縮強度:軟質岩≦20N/mm2≦中硬質岩<80N/mm2≦硬質岩。
注2) 弾性波速度による区分1:同じCII等級でも硬質岩の花崗岩などは2.5〜3.5km/secの速度値であるのに対し、硬質岩のチャートなどは3.0〜4.0km/secの速度値を示す。
 つまり、同じ地山等級であれば,火成岩類に比べて堆積岩類(蛇紋岩や凝灰岩も同様)はより大きな速度値を持っている。
注3) 弾性波速度による区分2:第三紀の泥岩類は片岩類に対して,より小さな速度値を持っている。片岩類の方が不連続面の発達が著しいために,同じ等級では弾性波速度はより大きくなければならない。

B級地山の設計支保パターンと施工支保パターン

 B級支保パターンの施工実績と設計時の支保パターンとの資料を収集した。一般に,地質調査にもとづく地山等級と設計時の支保パターンは完全に対応したものではないが,これらの事例では地山等級と設計支保パターンとはほぼ一致している。

 これらの事例から言える点は次のとおりである。
1) 設計支保パターンをBパターンとした事例では、支保をより剛なものに変更して いる場合が多い。数字としてあらわすことができる事例では、設計支保パターンがBであった場合、約50%の一致率※となっている。
 ※ 一致率 = 設計支保パターンの区間長を施工支保パターンの区間長で割った値の 百分率。
2) より剛な支保で施工した場合のランクの落とし方については、2ランク程度落としている事例が多い。ただし、設計支保パターンより軽い支保としている場合もある。
3) 岩質に関係なく、地山弾性波速度が4.5km/sec以上を示している場合、支保増と なった区間長は89%となっているという結果が出ている。

 以下に4例ほど設計支保パターンと施工支保パターンの事例を挙げる。問題は事前調査の地山等級と実施工の支保パターンがどの程度整合が取れているかである。

「国道331号 八鬼山トンネル」の例
場 所三重県尾鷲市中井浦
地 質黒雲母花崗斑岩と石英粗面岩とから成る熊野酸性岩。
設計支保パターンと実施支保パターン ・地山弾性波速度は4.6〜5.4km/secと高く、設計支保パターンでは5km/sec前後の部分はAパターン、4.5km/sec前後の部分はBパターンとしている。低速度帯はCIパターンとしている。
・最も乖離が大きい部分ではAパターンがCIパターンまで落ちているほか、Bパターンの多くもCIパターンとなっている。
・ただし、A、Bパターンとも設計・実施が一致している区間も多い。
・設計支保パターンは地山分類よりも全体に剛な支保になっている。
所 見・熊野酸性岩類は金属鉱床を伴い、部分的には変質が著しい箇所もあると考えられる。それでも坑口付近を除いて施工支保パターンがCI以下となっていないのは、この岩体がかなり大きく岩相変化が少ないためと考えられる。
(「トンネルと地下、第22巻4号、p7-13」より)

「山陽自動車道 増位山トンネル」の例
場 所兵庫県姫路市の北方約3.5km
地 質下位より古生代石炭紀〜二畳紀の丹波古生層、中生代白亜紀上部の姫路酸性岩類・流紋岩質凝灰岩類。
設計支保パターンと実施支保パターン ・地山弾性波速度は4.5km/secで比較的一定している。土被りの薄い区間はDI パターンとなっているが主体はBパターンである。
・当初設計でBパターンとなっている区間のうち同じパターンで施工した区間 は53%でそれ以外はCIパターンである(下表参照)。
・施工では周辺への影響を考慮して制御発破、割岩工法を採用している。
・地山分類と設計支保パターンはほぼ一致している。
所 見・Bパターンでは上り線が42%、下り線が64%の比率で設計と実施が一致している。上下線で線形がやや異なるなどちょっとした条件の違いで一致率が大きく異なっている。
(「トンネルと地下、第22巻9号、p17-24」より)

「第二名神高速道路 栗東トンネル」の例
場 所滋賀県栗太郡栗東町(第二名神高速道路の信楽ICと大津JCTの間)
地 質白亜紀後期の粗粒黒雲母花崗岩から構成される田上花崗岩。
設計支保パターンと実施支保パターン ・ここでの支保パターンはTBM導坑施工パターンである。
・地山等級Bの区間は設計パターンでは一部CIとしている。逆に地山等級DはCIとしている。
・Bパターンの一致率(=設計パターン/実施パターン)は32%である。ただし、この報告で検討されているのは比較的土被りが小さい区間である。
所 見 ・このトンネルは掘削断面積180m2、縦横比0.65という大断面トンネルであり、TBM導坑で合理的施工のための基礎資料を得ることを目指した。
・一軸圧縮強度は54〜107MN/m2(540〜1070kgf/cm2)という硬岩であったが、天端崩落が発生し地盤改良で対応した。
・一見均質に見える硬岩であっても施工の障害となる弱層が挟在していることが多いので、十分な注意が必要である。
(「トンネルと地下、第30巻1号、p25-34」より)

「米子自動車道 摺鉢山トンネル」の例
場 所岡山県真庭郡湯原町、久世町
地 質低土被りの区間は古生代の粘板岩、中心部は中生代の摺鉢山花崗岩。
設計支保パターンと実施支保パターン ・弾性波速度は粘板岩が4.6〜5.0km/sec、花崗岩が3.8〜5.0km/secである。
・I期線の施工実績から地山等級は、A:205、B:50%、C:20%、D:10%と予想された。
・実施パターンではAパターンはCI〜CIIパターンになり一部DIパターンとなった区間もある。Bパターンでも大部分がCIに変更され、一部CIIパターンを採用している。
所 見 ・I期線の施工実績を参考にすれば、全体にCI中心の地山として捉えるのが妥 当と思われる。
・地質としては均質であるため低速度帯ではDIを採用している区間が多い。

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(「トンネルと地下、第34巻2号、p17-26」より)

支保変更状況と弾性波速度値との関係

 下の図は、「支保実績から分析した弾性波速度評価の一考察(城間博通ほか,2002,トンネルと地下, 第33巻9号)」に示されている「各弾性波速度帯における支保変更割合」である。

 この論文では、日本道路公団が発注する山岳トンネルについて、事前地質調査(地表 地質踏査と弾性波探査)によって決定された支保工と実際に施工した支保工とを比較している。
 検討対象トンネルは16本(計8,371m)で事前弾性波探査と支保実績とを比較し、それを地質や弾性波速度帯ごとにまとめたものである。
 この研究によれば、弾性波速度値が3km/秒を超えると設計と比べて支保のランクを重くした割合が急激に増えるという結果が得られている。

各弾性波速度帯における支保変更割合 supportpt21.jpg


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