八箇峠トンネル爆発事故

 (2012年5月30日作成)

 新潟県の十日町市と南魚沼市を結ぶ国道253号の八箇峠(はっかとうげ)トンネルで,2012(平成24)年5月24日午前10時30分頃,爆発事故が発生した.トンネル内で送風機の点検を行っていた4人が死亡し,坑口付近にいた隣の工区の作業員3人が重軽傷を負った.
 この事故について考えてみる.


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八箇峠トンネル付近の地質

 八箇峠トンネルは魚沼丘陵を横断するトンネルで,この付近の最高点は標高682mの中将岳である.トンネルの最大土被りは約250mである.トンネル付近の地質は,地表では魚沼層上部の礫岩が広く分布しているが,その下位には和南津層(わなづ・そう),西山層が伏在している.そして,和南津層と魚沼層の境界付近上下40mの岩相は極端に細粒分の含有率が少なく,トンネル切羽が流動化しやすいという特徴がある.これらの地層は緩く褶曲しているため,和南津層と魚沼層の境界がトンネルにどの程度出現するかが問題であった.

 八箇峠トンネルは,延長9.7kmの八箇道路の一部で,当初,完成4車線で計画されていたが,2003(平成15)年に見直しが行われた.有毒ガスが発生し膨張性地山である西山層を避けるルートに変更され,完成2車線の道路として施工されていた.
 つまり,トンネルルートの標高を上げて西山層を通過するのを避け,トンネル延長も約5kmから約3kmへと変更された.
 さらに,2006(平成18)年にトンネル中間部で100m を超える追加調査ボーリング3本を行い縦断図を作り直している.このボーリングの主な目的は,和南津層と魚沼層の境界がどのようにトンネルに出現するかを把握することであった.

 ルート見直しによってトンネルに出現する地質は,西山層より上位の和南津層と,さらにその上位の魚沼層となり可燃性ガスが発生する危険性は小さくなった.トンネルに出現する和南津層は細粒〜中粒砂岩,魚沼層は礫岩である.
 施工前の調査では,和南津層,魚沼層とも地山等級は DI で,両層の境界付近が「不安定領域」として DII とされていた.

 今回の事故との関連で注意すべき点は,爆発が起きた南魚沼市側の坑口から約1,200m付近のトンネル下部に西山層がドーム状(平面的には多分,背斜構造)に分布していると予想されていたことである.西山層中の可燃性ガスが背斜構造の頂部に集まることは周知の事実である.

事故の教訓

 この事故から何をくみ取るのか.

 長岡国道事務所の記者発表資料を見ると,西山層がトンネル断面に出現しないようルートを変更した後でも,メタンガスに留意が必要であるとされている.また,工事施工者の佐藤工業株式会社北陸支店が2009(平成21)年に作成した施工計画書でも,「(6)爆発(可燃性ガス等)火災の防止」として,可燃性ガスに対応する手順を示している.
 しかし,事故は起きてしまった.

 メタンガスの空気に対する比重は0.555であり,換気されていないトンネル内では上方に溜まる.トンネル下部に可燃性ガスを貯めている可能性のある西山層のドームがあることを考えると可燃性ガスがトンネルルートに上昇してくる可能性に十分注意が必要であったと思う.

 南魚沼市側の工事は644mの工事が完了しており,(その2工事)として2012(平成24)年12月21日工期で790m(契約金額23億2050万円)が発注されていた.
 2011(平成23)年7月28日の新潟・福島豪雨で工事が中断し,2012(平成24)年4月25日からトンネル内での作業を始め,計5回入坑している.そして,5月24日に爆発事故が発生した.
 この時点で南魚沼側からの掘削は1,454mを完了していて,爆発が起こったのは坑口から1,200m付近とされている.工事中断前は毎日可燃性ガス濃度の測定を行っていてガス濃度は0であった.今年の入坑ではガス検知器を携行していなかった.

 トンネル縦断を見れば,ガスを貯留している可能性のある西山層がトンネルの下位にドーム状に分布していて,その上位に砂岩や礫岩が載っているという地質構成となっている.
 結果論であるが,坑口から1,000m付近から1,400m付近にかけては可燃性ガスがトンネル内に溜まる可能性に思い至ってもおかしくない.

 最悪の事態を想定して対応する必要があったことを,地質調査に従事するものとして教訓としたい.トンネル工事では,毎日切羽に向き合っている工事施工者の職員の判断が重要である.また,問題が発生した場合は,そのトンネルの地質調査を担当した企業の技術者が,迅速に判断する必要も出てくる.

 あの時にこうしておけば良かったと思ったことは多くある.そのような後悔をしないためにも,「石橋を叩いて渡る」ことが大事だと思う.

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