建設工事に伴う重金属汚染土壌

 (2010年5月9日作成)

 2010年4月1日施行の改正土壌汚染対策法についてのいろいろな資料が出そろった.また,これを受けて国交省の「建設工事に置ける自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)」が3月にウェブ上で公開された.
<http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/recyclehou/manual/>

 ここでは,土壌汚染対策法施行までの経過に多少触れながら特徴的な事柄について述べる.


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改正土壌汚染対策法に関するパブリックコメントと対応案

 2010年1月20日に「中央環境審議会 土壌農薬部会土壌制度小委員会(第13回)」が開かれ,“「土壌汚染対策法施行規則の一部を改正する省令案」及び「土壌汚染対策法に基づく指定調査機関及び指定支援法人に関する省令の一部を改正する省令案」に対するパブリックコメントの結果と対応案” が発表された.

<http://www.env.go.jp/council/10dojo/y105-13b.html>

 この「対応案」のなかの興味ある点を挙げる以下のとおりである.

1)自然由来汚染土壌はパブリックコメントの対象外である.
 このパブリックコメントでは,自然由来汚染土壌の取り扱いに関する意見が38件あったが,環境省の「意見に対する考え方」では「今回のパブリックコメントの対象外」とされている.

2)岩は土壌汚染対策法でいう「土壌」には該当しない
 改正土壌対策法(「土対法」と呼ぶ)では,第一条で「この法律は,土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係わる被害の防止に関する措置を定めること・・」とされている.つまり,「土対法」では土壌を対象とするので岩は対象外と言うことのようである.

3)河川、海、湖等の浚渫行為は適用されない
  浚渫については現行と同じ運用を行うので施行規則で特に明記しないと言うことである.

4)調査命令の対象となる土地の基準等については施行通知などで例示する
 いくつかの項目についての不明な点は,施行通知などで例示することになっている.

 *平成15年に土対法が施行された際は,「自然的原因により有害物質が含まれる土壌については,本法の対象とはならない」と言う文言が,平成15年2月4日の「環水土第20号土壌汚染対策法の施行について」(環境省環境管理局環境部長から都道府県知事・政令市長宛) の「第一 法の目的」で初めて明示されたという経緯がある.


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土壌汚染対策法の施行について

 2010年3月5日付けで「土壌汚染対策法の一部を改正する法律による改正後の土壌汚染対策法の施行について」(以下,「施行について」と呼ぶ)が公表された.
<http://www.env.go.jp/water/dojo/law/kaisei2009.html>

 この「施工について」の「第1 法改正の経緯及び目的」で
「・・自然的原因により有害物質が含まれて汚染された土壌を法の対象とすることとする。」(2p)
と述べられている.

 掘削を伴う建設工事に関する最も大きな変更である.つまり,建設工事に伴って発生する重金属を含んだ発生土の取扱についての法的根拠が与えられた.

 土壌汚染状況調査では,特定有害物質を使用していた施設が廃止された場合,土壌汚染による健康被害が生ずる恐れがある場合に加えて,
「土壌汚染のおそれがある土地の形質の変更が行われる場合に調査を行う」(3p) ことが追加された.

 この土地の形質変更は,3,000平方メートル以上の施工面積がある場合,掘削と盛土の別を問わず届ける必要がある.
 ただし,汚染された土地に(汚染されていない)土砂を持ってきて盛土する場合には届出は不要とされている(21p).ここでは,盛土材が汚染されているかどうかについての記述はないが,趣旨からすれば盛土材が汚染されいる場合は,届出が必要であろう.
 ひとまとまりの土地で掘削と盛土がある場合はその合計面積が3,000平方メートル以上の場合届出が必要となる.

 「トンネルの開削の場合には、開口部を平面図に投影した部分の面積をもって判断する」としている(21p).
 土壌汚染対策法では地表からの掘削を問題としているので,トンネル坑口付けの切土掘削が対象範囲〔調査対象地〕であり,トンネル本体〔トンネル区間〕の掘削で発生した土砂・岩塊は対象としていない.

 北海道庁の「土地の形質変更届出関係 Q&A」〔2010年3月17日〕では,はっきりと「トンネル開削の場合には、開口部を平面投影した面積が対象となり、その他の地中部分は対象となりません。」と述べている.
  トンネル中間部に立坑を掘削する場合も,立坑の面積とそれに関連する切土の面積だけが対象となる.

*このあたりの説明で最も分かりやすいのは以下のものである.
環境省 改正土壌汚染対策法の概要について 土壌環境課長 笠井俊彦〔平成22年2月26日〕.28p
(http://www.jeas.or.jp/dojo/business/promote/seminar/files/2009a_after/kyo_kasai.pdf)

 3,000平方メートルと言うことは線形構造物であれば,例えば,20m×150m であり,一つの坑口だけを取り上げれば届出が必要な場合は,かなり少なくなるであろう.
 ただし,「・・同一の事業の計画や目的の下で行われるものであるか否か、個別の行為の時間的近接性、実施主体等を総合的に判断し、当該個別の土地の形質の変更部分の面積を合計して3000平方メートル以上となる場合には、まとめて一の土地の形質の変更の行為とみて、当該届出の対象とすることが望ましい。」(21p)としていることに注意が必要である.
 トンネルの場合,当然両坑口とそれに近接する橋梁基礎掘削や盛土・切土をまとめて一つの形質変更行為と見ることになるのであろう.


<参考資料>

北海道 土地の形質変更届出関係 Q&A〔平成22年3月17日作成〕
<http://www.pref.hokkaido.lg.jp/NR/rdonlyres/FD611873-A424-43EE-B6D7-26531F2B5FB0/0/06mizu_todokedeQandA.pdf>


 自然由来重金属による汚染状態が土壌溶出量基準又は土壌含有量基準に適合しないことが判明した土地の近傍の土地は,「基準に適合しない恐れのある土地」となる.つまり,自然由来の汚染であっても基準を超過している土地については,「基準に適合しないことが明らかな土地」として扱い,その周辺の土地は「基準に適合しない恐れのある土地」として扱うことになる.
 「土壌汚染の恐れ」は次の三つに区分されている.自然由来に関しては次のようになる.
 (イ)土壌汚染の恐れがないと認められる土地
 (ロ)土壌汚染が存在するおそれが少ないと認められる土地:自然由来で基準に適合しない土地の近傍
 (ハ)土壌汚染が存在するおそれが比較的多いと認められる土地:自然的原因で基準に適合しない

 地下水についての考え方,取扱い方については様々な場合が考えられる.
 自然的原因で土壌汚染が生じていて〔土壌溶出量基準に適合しない〕,その周辺に飲用井戸がある場合,上水道を敷設したり利水地点での対策が行われている時は,形質変更時要届出区域として取り扱う.

 土壌汚染の試験(土壌ガス調査,土壌溶出量調査,土壌含有量調査)に使用する試料は「自然状態において2ミリメートル目のふるいを通過させて得た土壌」である.
 つまり,礫は試験の対象とならない.当然,岩塊も対象外となる.

 健康被害の恐れがある場合,土壌汚染状況調査を実施する.その結果,基準を超過している場合は区域の指定を行う.
 要措置区域:
 地下水汚染があり,その地下水が飲用されている場合
 土壌汚染がある土地が公園等で不特定多数の出入りがある場合

 形質変更時要届出区域:
 土壌汚染,地下水汚染があるものの暴露経路がない場合(地下水が飲用されていない,あるいは,その土地に関係者以外の立ち入りが禁止されている)

 要措置区域内では,原則として土地の形質変更は禁止されている.汚染の除去を行い,指定の解除をする必要がある.

 対策工では,不溶化に注意が必要である.つまり,
 「原位置不溶化は、基準不適合土壌がその場所にある状態で不溶化により土壌溶出量基準以下の土壌とするものであるが、土壌溶出量基準に適合する状態となっただけであって特定有害物質が除去されているわけではないことから「原位置での浄化による除去」には該当しない。また、シートによる覆い、覆土、舗装等、地表面からの飛散等の防止のため何らかの措置が必要となる。」(41p) とされている.

 また,「六価クロムについては、これを三価クロムに還元する方法による形質変更時要届出区域の指定の解除を認めるべきでない」(52p)
とされているので注意が必要である.

 汚染土壌の運搬についての基準は,「汚染土壌の運搬に関する基準等について」(2010年3月10日,環水大土発第100310001号)に規定されている.
 例えば,「・・密閉性を有し、損傷しにくいコンテナ等を使用したり、自動車に積載した汚染土壌を耐久力を有する不織布等で覆うこと。」(2p)
とされている.
 また,混載については
「・・、汚染土壌とその他の物を一切混合してはならない。」(3p)
「運搬の過程において、汚染土壌から岩、コンクリートくずその他の物を分別してはならない」(3p)
 このほかに積み替え,一時保管などの基準もある.

 細かいことはいろいろあるが,建設工事で注意しなければならないことは以上の通りである.


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建設工事に置ける自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)

<http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/recyclehou/manual/>

 土壌汚染対策法とは別に,国交省では2010年1月に土木研究所資料 第4156号として「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)(案)」を発行した.
 このマニュアルは「実務者の方の意見を伺う目的でまとめられたもの」で「平成22年4月以降の施工を実施する場合は,改正法の適用範囲や運用基準に留意する必要があり,本マニュアル(案)も改正する予定」となっていた.

 土壌汚染対策法の法令(施工令,施行規則,施行についてなど)の全容が明らかになってきたことを受け,2010年3月に「建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版)」がウェブ上で公開された.
 ただし,「ここで示す内容は平成22 年2 月末日時点で、環境省より情報提供されている内容をまとめたものであり、改正法の運用を全て記述しているものではないので、不明な点は関係部局への確認が必要である。」(2p)としているので注意が必要である.

 このマニュアルの特徴をいくつか挙げる.

(1)基本的な目的は土壌汚染対策法と同じである.
 「・・人への健康への影響のおそれが新たに発生する場合の調査、設計、施工及びモニタリングにおける技術的な対応方法を示すものであり、その影響の防止を目的とする。」(1p)
としている.

(2)建設工事で人の健康に影響を与える場合は次の二つである.(1p)
・ 自然由来の重金属等を含有する岩石・土壌を掘削する場合
・ 視線由来の重金属等を含有する岩石・土壌を盛立、埋立する場合

(3)対象は公共事業として実施される建設工事での自然由来の重金属等を含有する岩石・土壌などである.
 改正土壌汚染対策法では,自然的原因,人為的原因を問わず人の健康への被害を防止するために特定有害物質に対処することになっている.
 これに対して,このマニュアルは「関連の法令、マニュアル等を補完する形で自然由来の重金属等を含有する岩石・土壌に対する技術的対応を包括的に示し、人の健康への影響の防止を図るものである。」また,土壌汚染対策法や条例等の対象外のものへの適用も可能である.
 ただし,港湾事業などの海域での工事は適用対象から除かれている.

 ここで留意事項としてあげられているのは,人為的原因による場合と自然的原因による場合では,岩石・土壌の物理・化学的特性が異なると言うことである.
1)黄鉄鉱などを含む岩石・土壌は掘削して空気や水にさらされると酸性化して状態が変わる.
 例えば,著しく粘土化した変質帯では10m 程度,その中を流下しただけで中性の水(水道水など)がpH3以下になることがある.これは,変質帯中の鉱物と雨水が反応して水に溶解しやすい硫酸塩鉱物が形成されるためと考えられる.雨水が流下しあるいは地下に浸透する過程で酸性化して周辺の鉱物から有害金属を溶出させると言うことが生じる可能性がある.

2)熱水変質や酸性土壌などは広範囲に金属元素を含んでいる.
 日本列島では特に中新世以後の熱水性鉱床が日本海側を中心に分布している.黒鉱鉱床のように海底噴気作用による物は層状ある以下塊状の分布を示すが,多くの熱水性鉱床は裂か(割れ目)に沿って上昇してきた熱水が周辺の岩石と反応して様々な鉱物が形成される.その範囲は数km に及ぶこともある.
 また,酸性土壌は還元環境下で堆積した泥岩などが微粒の黄鉄鉱を含んでいて,掘削することにより空気や水にさらされて酸性化するもので,やはりその分布は広範囲にわたる.

3)自然的原因による重金属は鉱物中に内在することが多い.
 人為的原因による汚染物質は土粒子への吸着や土壌溶液中に溶解した形で,容易に地下水などに溶出しやすい形態を取っている.これに対して自然的原因の重金属類は共有結合やイオン結合などの形態を取っている.このことから,溶出に時間がかかる場合がある.

4)自然由来の土壌・岩石は粒径が2mm 以上のものを含む.
 地下水などへの溶出量は粒径に大きく影響されると想定される.したがって,より現実的な資料調整方法や試験方法を採用する必要がある.

(4)対象物質は,自然由来で岩石・土壌中に存在する可能性のある8物質である.
 カドミウム(Cd),六価クロム(Cr (VI)),水銀(Hg),セレン(Se),鉛(Pb),ひ素(As),ふっ素(F),ほう素(B)でいわゆる第二種特定有害物質(重金属等)のうちで,シアン化合物を除いたものである.
 酸性水の発生に伴って重金属等の溶出量が増加する可能性があるため酸性水についても適切に対応することになっている.

(5)対象となる重金属等の地殻での含有状況・基本的な性質など,分布・溶出特性について概説している.(10-18)
 この記述は,かなり内容が豊富である.引用文献を手がかりに知識をより深めることができる.

(6)対応の基本的考え方を整理して示している.
 対応の基本的考え方として次の4つを挙げ,代表的な事例を5つ挙げている.

1)自然由来の重金属等を含む地質や地域の回避
2)掘削する岩石・土壌量の減量
3)掘削した岩石・土壌の現場内利用
4)掘削した岩石・土壌の搬出、現場外管理

(7)地下水,表流水,岩石・土壌の全含有量のバックグラウンド値を設定できる.
 地下水についてはリスク管理のため,表流水については施工管理のためにバックグラウンド値を把握する.
 岩石・土壌の全含有量のバックグラウンド値は人為由来か自然由来かを判定するために用いる.このバックグラウンド値は岩石や土壌をそのまま試料として用いて分析するものである.

(8)対応の目標を明示している.
 対応の目標を次の二つとしている.

I 地下水等の摂取による影響の回避・軽減
 敷地境界もしくは保全対象近傍において地下水環境基準もしくは地下水のバックグラウンド値のうち高い方を超過しないことを目標とする.ここでの要点は汚染の発生地点ではなく保全対象への影響を回避・軽減することを目標としていることである.
II 直接摂取による影響の回避・軽減
 直接経口摂取の経路を遮断することを目標とする.

(9)調査・試験方法を示し施工前・施工中調査と段階を踏んでいる.
 調査および試験は,「資料等調査」,「地質調査・水文調査」,「試料採取と地質試料の調製」,「スクリーニング試験」,「溶出試験」を一連の組み合わせとして行うとしている.
1)地質試料の調整では採取した試料を2mm 以下に粉砕する.これは土壌も岩石も同様に扱う.
2)スクリーニング試験は地質試料の溶出試験が必要かどうかの判断を行うことを目的に実施する.この試験はバックグラウンド値試験と同じ全含有量試験である.スクリーニング地試験の評価はそれぞれの物質ごとに基準値が示されている(40p).この時に,バックグラウンド値をスクリーニングの基準とすることも可能である.
3)溶出試験は,a) 短期溶出試験,b)酸性化可能性試験,c)実現象再現溶出試験の三つがある.
a) 短期溶出試験は,環境省告示第18号の方法によるが,試料は岩石・土壌を全て2mm 以下に粉砕したものを用いる.この時に,水素イオン濃度,電気伝導率,酸化還元電位,ナトリウム・カルシウム・硫酸の各イオン濃度を測定しておく.
b) 酸性化可能性試験は,過酸化水素溶液に水酸化ナトリウムを加え pH6に調整した溶液で地質試料を強制的に酸化させるものである.試験では検液のpH を測定し,pH3.5以下のものは長期的な酸性化の可能性のあるものと判断する.
c) 実現象再現溶出試験は,現場条件と影響因子を考慮して現場ごとに実施する.その時考慮する条件としては次の四つが考えられる.
ア)試料粒度:細粒分が多いと比表面積が大きくなり溶出量が増加する可能性がある.
イ)曝露水量:岩石・土壌への降水浸透量等が多いと総溶出量が増加する可能性がある.
ウ)乾湿繰返し:酸化反応と細粒化が促進され溶出性が高くなる可能性がある.
エ)乾燥(湿潤)密度:盛土等において岩石・土壌の乾燥(湿潤)密度が低いと水と空気の浸透能が高くなるため溶出性が高くなる可能性がある.
4)岩石・土壌の直接摂取のリスク評価は,環境省告示第19号の方法で行うが,地質試料は全て2mm 以下に粉砕したものを用いる.評価は土壌含有量基準(土壌汚染対策法)を用いて行う.

(10)施工中に掘削した岩石・土壌を対策が必要なものと対策が不要なものに迅速に分別するために実施する迅速判定試験の例が示されている.
 施工中に処理が必要かどうかの判定は迅速に行う必要がある.そのための方法がいくつか示されている.

(11)リスク評価をサイト概念モデルにもとづいた対応を行うこととしている.
 「初期サイト概念モデル」とそれを精密化した「サイト概念モデル」の2段階で対応する.サイト概念モデルでの評価は,発生源で行うのではなく汚染源の敷地境界あるいは保全対象(飲用井戸)のうち発生源により近い地点で行うのが大きな特徴である.

 以上が対応マニュアルの特徴である.全体として理学的あるいは工学的視点での対応となっており,説明も分かりやすく現場で活用しやすい内容となっている.

   検討委員会の方々の努力に感謝したい.


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