西丹沢 檜洞丸

 (2018年5月14日作成)

概 要

 2018年4月28日(土)に,ツツジ新道コースを登り 犬越路いぬこえじ を通って 用木沢ようきざわ に降りてきた.

  檜洞丸ひのきぼらまる は,丹沢山地の最高峰・ 蛭ヶ岳ひるがたけ の西方約3.4km にある標高1601m の山である.この山の北側は相模川支流の道志川のさらに支流の神ノ川かんのがわ の流域,南側は 酒匂川さかわがわ 支流の 河内川こうちがわ あるいは 玄倉川くろくらがわ 流域である.
 なお,地理院地図では檜洞丸の最高点1600m の北西側の一段下がった小さなコブ尾根に1551m の写真測量による標高点(・)を表示している.
 「神之川」は地理院地図の表記であるが,登山案内書では「神ノ川」となっている.ここでは,地名の表記や読みは,佐々木 亨( 参考にした図書など 参照)に従っている.

 蛭ヶ岳を源流とする玄倉川流域から山中湖の北の石割山付近まで,丹沢複合深成岩体が広がっている.その規模は東西26km,南北8km である.
 丹沢複合深成岩体はトーナル岩を主とし,斑れい岩,閃緑岩,トロニエム岩を含む.この深成岩体は丹沢層群中に迸入してきたもので,岩体周辺には丹沢層群の玄武岩質あるいは安山岩質の枕状溶岩やハイアロクラスタイトが分布している.
 枕状溶岩の中には角閃岩に変成したものもある.

 檜洞丸登山道では,標高1300m〜1400m 付近まではトーナル岩が分布している.所々に丹沢層群の火山岩類が見られる.檜洞丸頂上から北西の犬越路に向かう尾根上には玄武岩やハイアロクラスタイトが露出している.

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檜洞丸の登山道

 檜洞丸への登山道は,西側の西丹沢ビジターセンターからがバスの便があり便利である.ビジターセンターから10分ほど歩いて取り付くツツジ新道と,さらに北の用木沢から犬越路を通り北西の尾根をたどる登山道がある.
 北の神ノ川ヒュッテから犬越路あるいは 矢駄やた尾根をたどる道もあるが,登山道入口の神ノ川ヒュッテまでは公共交通が通じていない.

 今回はツツジ新道を登って頂上へ行き,北西尾根から犬越路を通って降りてきた.

新ツツジコース入口まで

 小田急小田原線・新松田駅北口からバスで西丹沢ビジターセンターに向かった.始発の7時10分発の臨時便は満員で,立っている人がいる.幸い,私は座ることが出来た.
 バスは国道246号を通らず,酒勾川沿いの県道76号を行く.生活路線なのである.JR御殿場線谷峨駅から支流の 河内川沿いの道になる.
 三保ダムのダム湖である丹沢湖の東端にある玄倉ビジターセンターに寄って,さらに河内川を遡り約1時間半で終点の西丹沢ビジターセンターに着く.河内川に東沢と西沢が合流する場所である.
 ゴールデンウィーク初日とあって,河内川河原のキャンプ場は大盛況である.


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図1-1 小田急・新松田駅北口のバス停留所
 午前7時10分発の始発バスに並ぶ人たち.縦走装備の人,日帰り装備の人など様々な人が並んでいる.始発から満員である.
図1-2 丹沢湖
 三保ダム貯水池の丹沢湖は風もなく静かな水面である.ダム湖東端の玄倉ビジターセンターへ向かうバスの中から.


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図2-1 西丹沢ビジターセンター前
バスを降りて登山準備をする人たち.正面建物で登山届けを出すことが出来る.この左の林の中に「野外展示 丹沢山塊の岩石」(岩石庭園)がある.
図2-2 河内川河原のキャンプ場
 河原のキャンプ場は大賑わい.右から東沢が流れ込んでいる.この写真は,下山した午後5時過ぎに撮影したものである.

ゴーラ沢出合まで

 西丹沢ビジターセンター前から県道76号を上流へ10分ほど歩くと登山口がある.床固め工のある小沢から登山道は始まる.小沢の河床は全面露頭でデイサイト質の凝灰岩が露出している.
 沢を少し登って尾根に取り付いて登山道らしくなる.登山道には“タマネギ状”に風化した石英閃緑岩が見られるようになる.
 ジグザグを繰り返して登っていくと檜洞丸を源流とする東沢に面した斜面になる.石英閃緑岩や安山岩が見られるようになる.
 東沢が大きく蛇行して尾根が北から張り出している付近からは,石英閃緑岩の新鮮な露頭が現れる.道は緩やかにゴーラ沢出合に向かって下って行く.

 ゴーラ沢出合の河原は感動ものである.沢一面を石英閃緑岩の亜円礫が埋め尽くしている.礫を見ると様々な岩相がある.包有物を含んで弱い流理構造の見えるもの,ほぼ均質で細粒のもの,斑岩様のもの,やや粗粒のものなどがある.


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図3−1 デイサイト質の凝灰岩
 淡緑色で斑晶の目立たない均質な岩石で,層状構造が見られる.
図3-2 風化した石英閃緑岩
 風化して球状になっている.この付近に南北性の斷層があり,その影響で変質していると推定される.


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図4-1 流紋岩質凝灰岩
 淡緑色で斑晶の目立たない均質な岩石である.風化すると細片化する.
図4-2 石英閃緑岩
 硬質で岩塊状になっている.ここでは,石基は変質を受け濃緑色を呈する.


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図5-1 ゴーラ沢出合の河原
 一面,石英閃緑岩の亜円礫で埋め尽くされている.右からゴーラ沢が流れ込んでいる.
図5-2 ゴーラ沢出合河原の礫
 包有物を含み,弱い流理構造の見える礫である.このほかにも様々な顔つきの岩石が見られる.

西に張り出した尾根をひたすら登る

 ゴーラ沢出合の標高は750mで,登山道入口が560m であるから,ここまではほとんど高さを稼いでいない.檜洞丸から南西に延びる緩やかな尾根の標高は1500m である.この南西尾根まで,ひたすら登り続ける.標高1330m 付近まで,登山道に出てくる岩石はすべて石英閃緑岩である.その先には玄武岩質あるいは安山岩質の岩石が出てくる.
 この付近は,やせた尾根なので登山道には石英閃緑岩の露頭が続く.標高1330m 付近で石英閃緑岩が消えて黒灰色の粗粒玄武岩が出現し,丹沢層群の分布域になる.

 檜洞丸の南西尾根の先端にある 石棚山いしだなやま(標高1551m)への分岐付近からなだらかな尾根になる.バイケイソウが群生していて,これまでと全く違った風景になる.


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図6-1 ゴーラ沢出合からの取り付き
 ゴーラ沢出合で東沢の本流を横切って対岸へ行く.いきなり石英閃緑岩の崖をよじ登る.
図6-2 標高1020m 付近の石英閃緑岩
 やせ尾根上の登山道なので石英閃緑岩が足下に露出している.


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図7-1 展望台からの富士山
 標高1050m 付近にある「展望台」から富士山がはっきりと見えた.ここには休憩用のテーブル・イスが設けられている.
図7-2 石英閃緑岩から粗粒玄武岩へ
 石棚山分岐手前の標高1330m 付近で石英閃緑岩から粗粒玄武岩に変わる.これより上部は玄武岩や安山岩が分布している.


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図8-1 石棚山分岐過ぎの尾根の様子
 尾根幅が広くなり地形も緩やかとなる.木道はバイケイソウ群生地を保護するためのものである.バイケイソウは,6月頃に白い六弁の花を咲かせる.
図8-2 安山岩転石
 標高1530m 付近の尾根上に転がっている斜長石の斑晶の目立つ安山岩の転石である.露頭そのものは付近に見当たらない.

山頂から犬越路へ下る

 檜洞丸最高点から犬越路へ向かう登山道は,特に東沢に面した西側が急斜面となっている.階段が付けられていたり鎖が設けられたりしているが,なかなか怖い道である.尾根筋は丹沢層群の分布域で,安山岩質の凝灰岩あるいは火山礫凝灰岩,粗粒玄武岩,流紋岩質凝灰岩など色々な岩石が分布している.
 神ノ川分岐から直線距離で600m ほど行ったところに石英閃緑岩が分布しているが,その先は再び粗粒玄武岩の分布域となる.
 犬越路では,完全に石英閃緑岩の分布域に入る.


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図9-1 最高点から北西尾根を見る
 檜洞丸の最高点から北西尾根を見る.尾根上にはローム化した火山灰が堆積しているが,斜面には火山礫凝灰岩が露出している.左下に白く見えるのは東沢である.沢には標高900m 付近まで砂防ダムが設けられている.
図9-2 火山礫凝灰岩の露頭
 緑色がかった火山礫凝灰岩で,礫は角礫である.左の写真の鞍部付近の様子である.


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図10-1 粗粒玄武岩の露頭
 神ノ川分岐手前の1523m の小さなコブ(熊笹ノ峰)への登りで見られる粗粒玄武岩である.
図10-2 流紋岩
 神ノ川分岐と標高1288m のコブ(小コウゲ: 小笄ここうげ の中間付近で見られる淡緑色の流紋岩である.


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図11-1 粗粒玄武岩露頭
 標高1288m のコブへの登りに露出している粗粒玄武岩である.
図11-2 粗粒玄武岩の近接
 黒灰色で硬質の粗粒玄武岩で,北に緩く傾斜する流理が見られる.


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図12 テシロノ頭の崩壊地
 檜洞丸から石棚山に延びる尾根の北西斜面の崩壊跡である.標高1491m のコブ(登山案内書ではテシロノあたま)の北西斜面である.尾根の先端部が崩壊していることから,大正関東地震で崩壊したのかもしれない.ゴーラ沢の源頭部の一つである.
「頭」 は,丹沢山塊では「かしら」 と読むようである.例えば, 鍋割山なべわりやま から秦野峠に連なる山稜の途中に「 伊勢沢ノ頭いせさわのかしら」がある.
  ただし,「三省堂 日本山名事典」(2004年)では「いせさわのあたま」,「てしろのあたま」としている.


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図13 犬越路付近の崩壊地頭部
 犬越路手前300m の崩壊地頭部である.粗粒玄武岩の崩壊でこの崩壊で発生した岩塊は犬越路から用木沢へ下る沢に供給されている.


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図14 犬越路手前から富士山  
 午後の日を浴びた富士山が,犬越路の手前150m ほどのところから辛うじて見えた.

用木沢へ下る

 犬越路から用木沢への下りはかなりハードである.水の無い沢に沿った落石で埋まった道で油断すると足を滑らせる.標高差は250m 少しである.上部は石英閃緑岩の転石のみであるが,標高915m 付近で左(東)から合流する沢からは粗粒玄武岩の転石が供給されている.
 標高830m 付近から登山道脇に石英閃緑岩の露頭が現れる.これより下流はすべて石英閃緑岩である.


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図15-1 登山道沿いの石英閃緑岩の岩塊
 犬越路付近の南北に通る断層の西側に石英閃緑岩が,東側に粗粒玄武岩が分布している.沢上部では斜面一面に石英閃緑岩の岩塊が分布している.
図15-2 粗粒玄武岩の岩塊
 写真右手の沢から粗粒玄武岩の岩塊が供給されている.石英閃緑岩に比べると礫径が小さい.図13の崩壊地から供給された岩塊である.


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図16-1 縞状の石英閃緑岩
 北に40゚ほどで傾斜した縞状構造の見える石英閃緑岩である.全体に弱い変質を受けている.用木沢に合流する手前の標高830m 付近である.
図16-2 塊状の石英閃緑岩
 部分的に割れ目の多い部分があるが 硬質で新鮮である.用木沢の標高690m 付近である.これより下流では新鮮な花崗閃緑岩が分布している.

帰り道

 帰りは午後5時台のバスに乗る予定であった.しかし,西丹沢ビジターセンターバス停に着いたのは午後5時15分頃で,10分ほどの差で間に合わなかった.次は,午後6時58分の最終バスである.
 バス停前の河内川寄りに岩石庭園があるのに気が付いた.表面を磨いた岩石が円形に並べられて説明版が付いている.15種類ほどの石が並べられていて,説明もしっかりしている.
 日が長くなったと言っても,さすがに午後7時近くになると暗くなる.歩いて帰るわけにもいかず,バスを待って帰宅した.学生の団体を含め結構な乗客がいた.


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図17-1 岩石庭園の標本の一つ緑色片岩
 
図17-2 岩石庭園の説明版
 


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図18 東沢出口から見た檜洞丸
 檜洞丸の肩から満月が昇った.

参考にした図書など

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