地質調査報告書の書き方


1 はじめに
2 基本的事項
3 分野別報告書の目次例
 3−1 切土・盛土の調査
 3−2 橋梁調査
 3−3 軟弱地盤調査
 3−4 トンネル調査
 3−5 地すべり調査
 3−6 ダムの調査
4 おわりに

 土木工事の基礎資料としての地質調査報告書には一定のパターンがある.しかし,そのパターンは必ずしも工事あるいはその後の維持管理で使うときに使いやすいものとなっていない.その原因の一つは,地質調査に従事する者が報告書の作成で業務が終わりと考えているためであろう.
 さらに,論理が通っていって読みやすく,必要な情報が苦労なく見つかる報告書はどんな構成のものかということにも気を配る必要がある.  分かりやすい報告書を目指してどんなことに注意したらいいのかを述べる.


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1 はじめに

 地質調査の目的は,工事を行った場合に地山がどんな挙動を示すかを予測することである.
「対象となっている地質がどのようにして形成されたか,形成後どのような変化を受けているか,その結果どのような物性値を持っているかを明らかにし,工事により地山がどのような挙動を示すかを予測し,必要な対策を提案することが調査の目的となる.」
 調査報告書はこの目的に沿った流れとなっている必要があり,前段での地質の説明,調査結果は目的に結びついた記述でなければならない.

 日常の業務はややもすればそれまでの経験の流れの中で処理されがちである.報告書作成も日常の流れの中に埋没している部分がある.例えば,「地形・地質の概要」という項目は,どの報告書にも飾りのように付けられているが,ほとんど意味をなしていない.既存の広域の地質図を載せ,調査範囲をまるで囲った図面がどれほど意味があるのか疑問である.
 少なくともその地域の地質の特性を述べ,自分で踏査した結果を踏まえて2万5千分の1程度の地形図に調査地周辺の地質をまとめたものが望ましい.つまり,ある程度広域的に見た調査地の地質的な位置付けが理解できる図面とする必要があり,そうでないのであればあっさり削除してしまった方が,報告書を利用する人間にはずっと親切であろう.

 この報文は以上のような観点から,利用する人に役に立つ報告書をいかに効率的に作成するかを述べたものである.

 なお,蛇足であるが,全国どこでも容易に手に入る地形図で,2万5千分の1の地形図ほど地形判読に有用なものはない.例えば,地すべり地形として疑わしいものは,幅50m以上あれば判読可能なことがある.大いに利用すべきである.

 

2 基本的事項

 調査報告書を作成する上で最も参考となるのは,「理科系の作文技術」(木下是雄,1981,中公新書)である.以下,この本に沿って,特に役に立つと思われる報告書作成の基本事項について述べる.なお,枠で囲った文章は同書からのそのままの抜粋である.

 2002年10月に『「超」文章法』(野口悠紀雄,中公新書) という本が出た.大変参考になる本である.著者は工学部出身で経済学博士という経歴の持ち主であることもあり,技術論文を書くのにも大変頼りになる.文章を書きながらこの本で点検すると分かりやすい文章が書けるであろう.

<調査報告書の性格>

 1940年,潰滅の危機に瀕した英国の宰相の座についたウィンストン・チャーチルは,政府各部局の長に次のようなメモを送った.

我々の職務を遂行するには大量の書類を読まねばならぬ.その書類のほとんどすべてが長すぎる.時間が無駄だし,要点をみつけるのに手間がかかる.
 同僚諸兄とその部下の方々に,報告書をもっと短くするようにご配慮ねがいたい.

(1)報告書は,要点をそれぞれに短い,歯切れのいいパラグラフにまとめて書け.
(2)複雑な要因の分析にもとづく報告や,統計にもとづく報告では,要因の分析や統計は付録とせよ.
(3)正式の報告書でなく見出しだけを並べたメモを用意し,必要に応じて口頭でおぎなった方がいい場合が多い.
(4)次のような言い方はやめよう.
  :「次の諸点を心に留めておくことも重要である」 「…を実行する可能性も考慮すべきである」
 この種のもってまわった言い廻しは埋草に過ぎない.省くか,一言で言い切れ.

 思い切って,短い,パッと意味の通じる言い方を使え.くだけすぎた言い方でもかまわない.私の言うように書いた報告書は,一見,官庁用語をならべ立てた文章とくらべて荒っぽいかもしれない.しかし,時間はうんと節約できるし,真の要点だけを簡潔に述べる訓練は考えを明確にするにも役立つ.

 いきなり引用で申し訳ないが,この中には,我々が報告書を書く場合に心がけるべき事項が指摘されている.

(1) 報告書は要点を書くこと.

(2) 詳細な分析等は付録とすること.

(3) 「結果の概要」あるいは「まとめ」を付けること.

(4) 出来る限り言い切った文章とすること.

(5) 簡潔に必要なことを書く訓練は,考えを明確にするのに役立つ.

 我々の書く報告書は,読んで設計・施工で活用してもらう文章であり,その中には情報(調査結果)と意見(考察と対策工検討・提案)が含まれている.学術論文と異なる点は,この文章をもとに設計が行われ,施工の参考にされ,トラブルがあった場合の解決方法の基礎資料となるという直接的な有用性である.この点で,我々の報告書の責任は重い.

<調査報告書作成の心得>

 調査報告書を作成する心得は次のようにまとめられる.

(1) 調査結果とそれにもとづいた考察,対策工提案の内容を精選する.
(2) 調査結果とそれにもとづく考察をきちんと分けて,順序よく明快,簡潔に記述する.

(1)について
 内容を精選するということは,特に前段の地形・地質や調査結果の記述が考察にうまく結びつき,対策工提案の根拠を説得力を持って記述できるよう常に細心の注意を払うことである.それぞれの現場にはそれぞれの特殊性があるので,その特殊性を考慮した精選された内容とすることが,分かりやすい報告書が作成できるかどうかの要点である.
  一般に行われているからという惰性で不要な図面や説明を行わない一種の「勇気」が必要である.この点で,冒頭のメモの中にある「付録とせよ」という箇所は重要である.報告書は論理を追えるような書き方が理想的で,文中にデータや直接説明に関係ない図などが入ってきて,本文がどう続くのか判断に困り論理がうまく追えない報告書は,読んでいて非常に疲れるものである.
 また,「見出しだけを並べたメモ」も重要な指摘で,調査報告書には出来れば冒頭に,調査結果と対策工についてのまとめを載せるのが親切である.形式としては表にするのが最も簡潔で見やすい.また,縮小図あるいは説明図を添付することも理解を容易にする有効な方法である.

(2)について
 調査結果と考察が混乱することは調査報告書ではあまりないように思える.しかし,例えば,試験結果の解釈は結果の項で述べた方がいいのか,考察で述べるのがいいのかということは多少悩む点である.調査結果の項では純粋に結果だけを述べた方が報告書作成上は楽であろう.
 記述の順序は非常に大切である.それぞれの章の中での順序も大切であるが,各章の相互の関連が分かりやすく,その流れの中で納得できる結論に導かれるのが理想である.また,「まとめ」を設けるか,設けるとしたら冒頭におくか最終章とするかも順序と絡んでくる問題である.一般に,調査報告書は設計・施工に使われることを考えると,今後どうすればいいのかを早く知りたいというのが読む人の気持ちであろう.とすれば,冒頭に結果と対策工をまとめて示し,その根拠を順次説明するという順序が親切であろう.
 明快・簡潔な文章を書くために必要なことは,論理の流れが明瞭であることが第1の要件である.

(a) 一文(一つの文章)を書くたびに,その表現が一義的に読めるかどうか――ほかの意味に取られる心配がないか――を吟味すること.

(b) はっきり言えることはスパリと言いきり,ぼかした表現(…といったふうな,…ぐらいの,…ではないかと思われる,等々)を避けること.

(c) 出来るだけ普通の用語,日常用語を使い,またなるべく短い文章で構成すること.

(d) 不要な言葉は一語でも削ろうと努力するうちに言いたいことが明確に浮彫りになってくる.

 この中で悩むのは (b) である.私の経験でも,一時,断定する文章で報告書をつくることに凝った時期があったが,発注者から「表現を和らげて欲しい」と注文を付けられたことがある.
「ぼかし言葉」を使うのは日本文化の問題にまで遡るとされているが,「技術的な文章では不要なものである」というのは正しいだろう(この「だろう」が問題.「不要と考える」とすればよい.).
ぼかし言葉で多いのは「…と考えられる」,「…と思われる」であろう(この「あろう」は具体的データがないための純粋な推定).この他にも,「…と予想される」,「…と推定される」などがあるが,いずれも「考える」主体が誰かが不明であり,最終的に判断を読む人にゆだねている点で責任のある表現ではない.

 まず,「ぼかし言葉」は出来るだけ使わないという姿勢を持つことが必要である.その上で,そう考える根拠を述べて,「…である」,「…と考える」,「…と判断する」とするのが精神衛生上最もよい.また,数字の場合は「約…」,「…ほど」といった記述の後ろに具体的な数値を明示することが親切である.


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<目次のつくり方>

 調査報告書の全体の構成は,例えば,業務概要,調査結果,地質工学的検討,対策工検討といった順序で特に問題はない.問題は各章の論理的な関連がうまくついていて,全体の流れがスムースに理解できるようになっているかである.
 この中で,業務概要はもっとも定型的なもので,調査内容,地形・地質の概要といったことを書くのであるが,分かりやすい文章という点では,まず,この「地形・地質の概要」から細心の注意を払う必要がある.つまり,この章では調査地域の地形・地質上の特殊性がどんな点で,調査結果で得られた物性値の異常が説明しやすく,地質工学的検討での地山の特殊な性状の原因説明につながるような内容である必要がある.

 この点で,注意しておきたいのは,調査報告書は調査した人の認識順(調査の中で明らかになった順番)に書くものではないということである.
業務を始めるに当たって,調査計画書を書くのが一般化してきているが,調査が終わりすべての結果が出た後でも,計画書作成の感覚で報告書を書いていることがある.調査計画書では,せいぜい踏査までの結果から予想されることを述べ,実施する調査を提案するのであるから,この調査をすればこういうことが解るという風に認識順に書くことになる.

 しかし,最終的な報告書では,すべての結果から論理的に地山の挙動予測を行い,対策工を提案するのである.この中に論理的な流れがあれば対策工の提案がすんなり受け入れられる.このことは,分かりやすい報告書を書く上で最も重要なことだと考える.

 目次をつくる際に次の点を念頭に置いておくと全体の流れがすっきりする.
(a) この報告書の目的は何なのか
(b) 調査結果はすべて網羅されているか
(c) 記述の順序,文章の組立が論理的か

(a) は調査報告書でははっきりしているので悩むことはないが,このことを念頭に置くことで無駄な文章を書くことをセーヴできる.

(b) は既存資料,既存報告書なども含めて必要な資料はそろっているかに注意する必要がある.地質関係の既存資料を収集するには,(地質調査所図書室の資料検索)での検索が便利である.

(c) は目次を考える上で最も重要な点である.実際に報告書を作成している段階で目次立てを変えた方が解りやすいと気づくことも多いので,面倒がらずに筋の通りやすい目次に変更する.ほとんどがワープロによる文章作成であるから昔ほど面倒な作業ではない.

 目次作成の方法としては,比較的大きな紙に思いつくままに目次を書いていく方法が一般的であろう.この時に,それぞれの章や項目で,おおよそどんなことを書くのかメモを記入する.初めての業務であったり内容が複雑な場合には,カードを使って内容を整理する方法がある(KJ法:川喜多二郎法).

<段落の書き方の決まり>

 段落(パラグラフ)というのは長い文章の中の一区切りで,段落の始まりは一字下げて書き始める.この一区切りの文章には約束事がある.
まず,その段落で何を言おうとしているのかを概論的に述べる「トピック・センテンス」,トピック・センテンスで述べたことを詳しく説明する「展開部の文」,そしてその段落と他の段落との「つながりを示す文」を含んでいなければならない.つまり,その段落で言いたいこと,具体的展開,次の段落へのつなぎ,がそろっているのが理想である.

 一つの段落の長さの目安としては,「200字から300字」という意見がある.すなわち,普通の報告書の体裁であれば,10行以下ということになる.
 それぞれの段落同士のつながりがスムースになっていれば,その文章は疲れないで流れをつかみながら読むことが出来る.段落が変わるということは内容が変わることを意味するので,調査報告書の場合,それぞれの段落のつながりがはっきりしている文章が分かりやすい文章となる.

<文の構造>

 調査報告書の文章の構造は,基本的に幹がはっきりした文章とすることが必要である.つまり,主語,述語の関係がつかみやすい文章である.
これに対して,幹がつかみにくい文章を「逆茂木型の文(さかもぎがた)」という.
何が文章の幹を隠してしまうかというと,修飾句,修飾節である.日本語の構造では,修飾句などは修飾する語の前に来て述語が一番最後にくるので,主語,述語の関係が見えにくくなる.さらに,自分が分かった順番に書いたり,苦労したことをあれもこれもと述べたりすると逆茂木型の文章が生まれる.無用なものはばっさり省略する勇気が必要である.

次の文章は地質報告書の一部である.

 「形成年代は日高深成岩類の上部層である花崗岩類に相当する日勝峠花崗岩体の貫入年代が16Ma(16百万年前=6百万年前)あるいは17.3Maとされていることから,黒雲母片麻岩および中部トーナル岩はそれ以前の古第三紀〜中生代に形成されたと考えられている.」

 この文章では,「形成年代は」が主語で「考えられている.」が述語であるが,その間に「黒雲母片麻岩および…〜中生代に形成された」という文章が入れ子になっている.また,古第三紀〜中生代に形成された理由が主語の次に述べられており,一層文章を分かりにくくしている.そして何よりも,「何の形成年代なのか」がこの文章では分からない.文章の流れからすると「黒雲母片麻岩および中部トーナル岩は」である.つまり,主語がだぶっている文章なのである.


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<事実と意見>

 事実の記述を,
「(a) 自然に起こる事象や自然法則,過去に起こった人間の関与した事件などの記述で,
(b) しかるべきテストや調査によって真偽を客観的に確認できるもの」(木下)
と定義する.

 事実の記述は真実である場合と真実でない場合があり,その他の場合はない.これに対して,意見にはいろいろなものが含まれる.すなわち,推論,判断,意見,確信,仮説,理論などである.万人に認められる理論は法則と呼ばれ事実に分類される.

事実の記述で必要な注意は次の三つである.

(a) その事実に関してその文書の中で書く必要があるのは何々かを十分に吟味せよ.

(b) それを,ぼかした表現で逃げずに,出来るだけ明確に書け.

(c) 事実を記述する文は出来るだけ名詞と動詞で書き,主観に依存する修飾語を混入させるな.

調査報告書を書く上で考慮しなければならない意見は,推論,判断,意見,仮説 である.

推論:ある前提にもとづく推理の結論,または中間的な結論.

判断:ものごとのあり方,内容,価値などを見きわめてまとめた考え.

意見:上記の意味での推論や判断;あるいは一般に自分なりに考え,あるいは感じて到達した結論の総称.

仮説:真偽のほどはわからないがそれはテストの結果を見て判断するとして,仮に打ち出した考え.

事実と意見の区別は明瞭なようにみえるが,実際にはやや複雑である.
例えば,コア観察による岩級区分は事実の記述かを考えてみるとわかる.岩級区分を行っている本人にしてみれば,コアの記載にもとづいて区分しているので事実の記述と考えるであろうが,どの基準を用いて区分を行うかで,すでに記載者の判断が加わっている.
つまり,岩級区分の基準には様々なものがあり,現場の状況を考慮してどの基準を用いるかを判断しているはずある.したがって,岩級区分を行うときには,どの基準に依ったのかを必ず明示する必要がでてくる.

<わかりやすく簡潔な表現>

 わかりやすい文章を書く心得として次の点が挙げられる.

(a) まず,書きたいことを一つ一つ短い文章にまとめる. つぎに,

(b) それらの文章を論理的にきちんとつないでいく(つなぎのことばに注意).

ここで <つなぐ> というのは必ずしも <つないで一つの文にする> 意味ではない.短い独立の文を,相互の関係がはっきりわかるように整然と並べることができれば,むしろそのほうがいいのである.
以上の過程を通じて,どの文を書くときも,いつでも「その文の中では何が主語か」をはっきり意識して書くことが必要だ.

具体的な注意点としては,まず,格の正しい文を作ることを心がける.
「足なし文」というのは主語に対応する述語がない文章のことである.日本語では主語のない文章が許されることが多いので,主語のない文が生まれやすい.また,修飾語が重なるといろいろな意味に取れる文章が生まれる.その例を挙げるが,この文章は8通りに読めるという.ポイントは,「女の子」がどこにどう掛かるかである.
ちなみにこの文章をワープロで打つと「修飾語の連続」という警告がでてくる.

黒い目のきれいな女の子

   このような文章を少なくする努力を日頃から行うことが,わかりやすい文章をつくる近道である.そのためには,句点,読点の使い方についても細心の注意を払う必要がある.上の文章も,読点を使えば意味がはっきりしてくる.
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3 分野別報告書

 分野別に報告書の書き方が変わるわけではないが,基本的な流れは多少異なってくる.ここでは,分かりやすい報告書の流れについてコメントする.

 3−1 切土・盛土の調査

 盛土,切土の調査でも,ボーリング等に着手する前に空中写真判読,地表踏査を行い,発注された調査内容,数量が必要・十分であるか検討し,実施調査計画書を作成することが肝要である.

 計画書ではそれぞれの調査項目(主にボーリングの優先度)についてグレード付けを行のが親切である.調査計画書にもとづく協議で実施数量を決定し現場作業に着手する.着手前にある程度踏査を行うことが出来れば,弾性波探査やボーリング調査などは計画書作成時の予想を確認する作業となる.

 報告書のポイントの一つは,「地質工学的検討」である.すなわち,この項目で調査結果をまとめ,土質区分と風化,変質区分を含めた地質区分を行い,それぞれについての工学性を整理し,地山物性値を設定する.これを踏まえて「設計・施工上の留意点」を記述する.
 もう一つ注意する点は,「今後の調査計画」をきちんと記述することである.問題点の整理を行い,それにもとづいて今後の調査計画を立案する.ここでも調査項目のグレード付けを行い,さらに,現場内運搬および仮設などの概略計画を含んだ内容があれば親切である.

 なお,報告書では,準拠した基準等を明記する必要がある.また,報告書の中で引用した文献については出典を示すのが,後から利用するものにとっては親切である.

 3−2 橋梁調査

 橋梁調査では,支持層がどの位置にあるかと基礎形式選定時の留意点とを明示する必要がある.沖積低地での基礎と斜面上の基礎とでは,それぞれに必要な調査項目は異なってくる.ボーリング着手前の踏査で地形等から支持層深度と基礎形式を想定し,調査数量,現位置試験項目,室内試験項目を決定するのがポイントとなる.特に,沖積低地での調査では被圧水の存在が一つのポイントになるが,事前に被圧水を予想することは難しい場合があり,ボーリング中の水位変動を見て機敏な対応が必要となる.

 ある橋梁調査の報告書で述べられている内容を以下に紹介する.

(1) 一般的事項
(1-1) 支持層と支持力: 土質ごとにN値から求められる支持層の評価.例えば,粘性土ではN値20以上であれば堅固な層と判断しているといったこと.土質・岩盤の最大地盤反力度の一般値.
(1-2) 基礎形式: 斜面上の基礎形式の選定表.床掘り時の掘削勾配.
(1-3) 耐震設計上の地盤種別: N値,せん断弾性波速度による地盤種別の判定.
(2) 各橋梁ごとの記述
(2-1) 地層構成・支持層: 地質の特殊性.この場合は,玉石混じり砂礫と粘性土が互層している.
(2-2) 基礎形式: 直接,杭,ケーソンを河川本流部,アバット部に分けて記述.
(2-3) 耐震上の問題点: 耐震設計上の地盤種別を記述.同一橋梁でも場所により異なることに注意が必要である.
(2-4) 地下水について: 被圧水の可能性.
(2-5) 施工上の問題点: 仮設についての留意点.掘削時の留意点(掘削のり勾配,掘削のり面保護工).
(3)特殊性
 橋脚,橋台の掘削時に地すべりが滑動する可能性があり,橋梁スパンを変更して橋脚位置をずらすことを提案している.変更が不可能な場合の地すべり対策工の概略について述べている.

<物性値の設定>

 橋梁基礎調査ではさまざまな物性値が要求される.予想される基礎形式に対して必要な現位置試験を行う必要がある.特に,耐震設計がらみの場合は試験値が重要となる.N値あるいは一般値から,それぞれの物性値を設定することは可能であるが,橋梁のような力学性が重視される構造物では現位置での試験値が必要である.ただし,通常の調査では,設計サイドからはあまり厳密な地山物性値は要求されないことが多い.

 基礎構造形式としては,この他に鋼管矢板基礎,地中連続壁基礎があるが,要求される物性値はケーソン基礎あるいは深礎基礎と同様である.

 地下水状況は基礎構造形式選定時の要素としては大きく,また,杭基礎の種類を決める際にも重要な要素となる.
例えば,透水性が非常に高い河川敷での橋脚の基礎は,ケーソン基礎あるいは鋼管矢板基礎となることが多い.湧水が多い場合は深礎杭の人力掘削が不可能となるので,湧水量を知ることは深礎工法の成否をかける最も重要な事項の一つである.被圧水の圧力が高い場合には,場所打ち杭をリバース工法やアースドリル工法で施工することは難しくなる.したがって,調査においては現場透水試験を実施すると同時に掘削中の水位変化を正確に記録する必要がある.

 3−3 軟弱地盤調査

 軟弱地盤調査の流れとしては次のようになる.

サウンディング,ボーリング,現位置試験,盛土材試験などにより,土および地盤の構成モデルを作成し,それぞれの層の設計土質定数を決定する.

地盤の挙動を定量的に予測できる理論解析方法を選定する.

理論解析により地盤や構造物各部の応力度や変形(安全率,沈下量,変位量,傾斜角,変形速度など)を定量的に予測し,許容値と対比する.

解析結果にもとづき必要な対策工の検討を行う.

 泥炭,粘性土上での道路盛土沈下量の予測では,実測全沈下量(S0)は,計算による全沈下量(S1)に比べS0/S1=0.8〜1.6となり,全体的傾向としては計算沈下量は小さめにでる傾向にある.これに対し,過圧密土では,S0/S1=0.5〜1.0となる.

 土については完成された構成式は現在のところ見あたらないと言われており,複雑多様な土や地盤に理論解析を行ったとしても,実験的予測や経験的予測にもとづく技術判断の助けを借りることを忘れてはならないとされる(稲田,1994).


<参考文献> 

稲田倍穂,1994,軟弱地盤の土質工学−予測と実際−.鹿島出版.


 3−4 トンネル調査

 トンネル調査で,最近実施されるようになったやや変わった項目としては,「底質分析」がある.ここでいう底質分析では,岩そのものの化学分析により掘削ズリ中の有害金属の含有量を求め,粉末の岩石試料を用いた溶出試験によりどの程度有害金属が水により溶出するかを見て,処理が必要かどうかを判定する.

 報告書の流れとしては,各地質の物性値をまとめを行って,それらをもとに坑口部の設定とトンネル一般部の区間ごとの地山分類(地山状況の項)とを行う.この時,トンネル湧水量を考慮して地山分類を行う必要があるので,高橋の方法などでトンネル全体の湧水量の推定,突発湧水量の予想される位置を推定し地山分類に反映させる必要がある.

 坑口部に土かぶりの薄い区間があり擁壁が計画されている場合には,基礎工についてのコメントを加える.当然,坑門工の基礎についての地盤データと設計,施工上の留意点について述べる.
 トンネル調査では,坑口付けの切土の際の土砂,軟岩,硬岩の区分を横断図に示す必要がある.この場合の横断図は,縮尺1:200とすることが多い.
 また,機械掘削とするか発破掘削とするかといった掘削方式について,地質的な判断を記述するのが親切である.

 泥岩のように泥ねい化しやすい地質の場合は,トラフィカビリティについて留意点として記述するのがよい.
 掘削工法(加背割り)は,機械の大型化に伴い全断面工法あるいは補助ベンチ付き全断面工法が標準工法となっている.地質的に全断面工法が採用可能かどうかの判断を報告書では述べるのがよいであろう.

 以上のように,トンネル調査でも,それぞれの現場の特殊事情を十分吟味して,必要な記述を行うことが大切である.

 3−5 地すべり調査

 地すべり調査は様々なものがあり,一概に典型的な報告書を挙げることは難しい.地質調査,地すべり観測,すべり面の確定,その結果を受けて安定解析と対策工立案となる.報告書の中では,例えば,「解析結果,妥当な対策工」について,A4一枚の表にまとめておくと使う側にしてみれば,このまとめの表と平面図とを見れば概要が瞬時に理解できるので非常に使いやすい.このように,結論をまず述べて,その根拠を説明するというスタイルが理想的である.

 報告書のスタイルもこれまでのマンネリから抜け出して,読む人がはっとするような体裁に挑戦してもいいと思う.

 地すべり調査のもっとも要となるのは,地すべり地形全体を正確に把握し,その中でのブロック区分を精度よく行うことである.建設工事で活動し始めた地すべりの多くはかって地すべり活動をしたものの再活動である.また,建設工事で動きやすい地すべり規模というものがあり,おおざっぱに言うと幅50m〜100m程度のものがもっとも動きやすいようである.はじめの方で述べたように,2万5千分の1の地形図でこの程度の地すべり地形をひろうことは慣れてくれば可能である.
 少なくとも,建設工事の対象となる地域の川から尾根までは踏査する必要がある.予想することは難しいであろうが,尾根の反対側から滑った地すべりを見たことがあるので,注意が必要である.また,末端が川の向こう側に達していることもあり得るので,これも注意が必要である.

 3−6 ダムの調査

 ダムの地質調査は10年以上の長期にわたって行われる.この中には,周辺を含めた概略調査,ダムサイトの調査(弾性波探査,ボーリング,ルジオンテスト,横坑調査,トレンチ調査など),原石山調査,付替え道路調査,貯水池内地すべり調査,堤体掘削時の岩盤評価,試験湛水時の地すべり監視,堤体挙動監視計器設置など,さまざまな調査が含まれる.地質調査としては最も総合的な調査が行える分野のひとつである.

 ダムの調査の報告書で,簡潔にまとまっていてわかりやすいものは,文章が簡潔で,必要なデータが要領よくまとめられていて,ダム調査の経験が豊富であることを感じさせる報告書が多い.とりまとめ業務などで発注者から貸与された同業他社の報告書に目を通し,長所を取り入れることも大切である.

 最近の補助ダムの調査・設計の報告書は,コンサルタントの報告書原案をもとに(財)ダム技術センターが監修を行うので水準が一定している.

 あるダムサイト調査の例では,1980年(昭和55年)に着手され1992年(平成4年)と1993年にダム設計のための細部調査を行って建設にこぎつけている. このように,長年月にわたって調査が行われるのがダム調査の特徴の一つであり,積み重ねられたデータを有効に活用する工夫が求められる.

 ダムサイト調査の場合,最も重要な項目は,岩級区分と透水性評価である.
 図面としては平面図,ダム軸方向縦断図,河川方向横断図,水平断面図を5mグリッドで作成する.図面の種類は地質図,岩級区分図,ルジオンマップである.さらに,ダム基礎岩盤となる堅岩面の岩級区分図を作成する.これら図面の妥当性を述べるのが報告書の内容である.


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4 おわりに

 いくつかの留意点を順不同で列記する.

(1) 調査報告書は我々の仕事の最終成果物であると同時に,設計・施工で利用される基礎資料である.
 確かに,報告書を作成する側にとっては,報告書の完成は業務の終了である.しかし,我々の作成した報告書は,工事が終了するまで使用されるということを十分に頭に入れておく必要がある.つまり,業務終了と思って手を抜くと,設計段階であるいは施工に入ってから手ひどいしっぺ返しを受けることを覚悟しなければならない.

(2) わかりやすく,内容の濃い報告書はその会社のイメージをいい方向に変える力がある.
 報告書の文章には,その人のそれまでの経験と努力が反映されるもので,メリハリの利いた文章であれば最初の数ページを読んだだけで信頼感が生まれる.そのためには,文章を磨くことはもちろんであるが,わかったことすべてを垂れ流すように書くのではなく,必要なことを論理的に,もれなく書き切るという姿勢を貫くことが必要である.

(3) 報告書の迫力は何によって決まるか.
 最も基本となるのはどれだけ現場の情報を得ているかであろう.類似地質の資料収集,高い精度での空中写真判読,地表踏査における露頭観察や地形観察,河川流量の把握,類似地質の広域的な踏査,詳細なコア観察など現場でどれだけ情報を得ているかで説明の迫力が違ってくる.このことは,現位置試験や室内試験のデータの吟味でも重要である.つまり,異常な試験値がどうして出てきたのかを説明できるだけの現場情報が必要である.

(4) 現在,踏査,物理探査,現位置試験,室内試験など分業になっていることが多い.
 このような業務態勢は今後ますます強まる.その場合,他から上がってきた文書,図面類をそのまま報告書につぎはぎで載せることが多くなってくる.これは報告書全体の流れを阻害し,わかりにくい報告書が出来る大きな原因となる.これを防ぐ一つの方法は,浅くてもよいから広い知識を持っていることであろう.上手に全体の流れをつかんで報告書を作成する技術が必要とされる.

(5) 報告書作成の道具としては,ほとんどの人が“ワード”などのワープロを使用している.
 報告書の電子化は時の流れであり,図面類も含め電子化,電子納品が進んでいる.手書きに比べたワープロの長所は,スピードが早いこと,文章の校正が楽であること,いくつかに書き分けた文書を簡単に一つにまとめられることなどである.また,必要なひな形を作っておけば使い廻しが出来ることも大きな長所である.しかし,この機能を使って,まったく同じ文章が何ヶ所かで出てくるような報告書が見られる.このようなことは,決してすべきではないと考える.繰り返しになるが,余計なことは書かない勇気が必要である.

(6) 報告書の質を決める要素の一つは現場からどれだけ情報を引き出せるかであるが,もう一つの大きな要素は,施工現場をどれだけ見ているかである.
 調査報告書がどのように使われるのかは,施工現場でのトラブル解決にあたれば一番よくわかる.自分が調査した現場だけでなく,興味のある施工現場を見学することは技術力の向上にとって非常に重要である.このことは,いくら強調しても強調しすぎることはない.

(7) わかりやすい報告書を作成する利点は何か.
 まず,第一に,報告書作成のスピードが上がる.これは直接,利益につながる.
 第二に,読みやすい文章は会社のイメージを上げる.私が読んで感激した報告書の一つは,必要なデータを見やすくそろえ,説明も簡潔で要を得ていて余計な記述は一切なく,欲しいデータはそろっているというものであった.
 このような報告書を見ると会社のイメージが違ってくる.このような会社のイメージは,直接的には利益として計上できないが,イメージが悪いと発注者との間で無用のトラブルが発生することがある.その意味で,イメージは非常に大切なものである.
 第三に,施工でトラブルが発生し呼ばれた場合に,適切に対処できる.このことも会社の信用を大きくする.あるトンネルで地表陥没が発生したが,事前調査報告書がよくまとまっていたため,前方地質の予測や対策工の検討では基本的にはこの報告書にもとづいて対応できた.すなわち,地質図,縦断図の作成根拠,地山分類の根拠等が明快であったために,どこが実施工と異なっていたかの判断が容易に出来,修正が比較的楽に行えた.

<わかりにくい文章の例をいくつか>

 最後に,身近にあった報告書からわかりにくい文章の例を挙げ,簡単なコメントを述べる.

「岩盤劣化区間が長くトンネルに出現することが多い.」


↑コメント:「岩盤劣化区間が長く,…」なのか「…長くトンネルに出現する…」なのか不明である.前者であるとすると後半の文に主語がかけている.この場合,意味はどちらでも違わないが読んで違和感がある.

「礫径の大きさに比例して比抵抗値も高くなる傾向が見られる.」


↑コメント:典型的な受け身の表現である.「…傾向がある.」で十分である.「傾向がある」という表現自体が不確定要素があることを示しているので,さらにぼかした表現とする必要はない.

「N値は6〜79の範囲を記録し,比較的30前後にN値は収束している.」


↑コメント:短い文章の中に,N値という主語が二つ出てくる.後半の文章は「比較的」が「30前後」にかかるのか「収束している」にかかるのか不明である.また,「収束」という言葉は,いろいろ分かれていたものが最後になってまとまって来ることであり,ある値に集中している状態を表すのに使うのは間違いである.

「経済性と景観上の配慮とは,多くの場合,調和させることが,ときとして相反するために二者択一あるいは双方からの歩みよりが要求されることもあり,道路の建設の意義を認識するとともに,自然環境の重要度なども合わせて調和を見いだす努力が必要である.」


↑コメント:一度読んだだけでは意味がとれない文章である.「経済性と景観上の配慮とは」が主語で,これに対応する述語は「要求されることもあり,」である.「道路建設の意義を…」の文章は主語がない「頭なし文」である.後半の文章は「認識する」,「努力する」ということから主語は「設計者」ということになる.

 以上のように,普段何気なく読みこなしている文章に破格な文章がある.詳しくは木下の本を参考にして文章力を磨いて欲しい.

(2002年12月8日,2003年2月7日更新)


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