付加体堆積物と工事

1 付加体堆積物で形成された日本列島

 日本列島は海洋プレートの沈み込み帯に位置しているために,西南日本の太平洋側を中心に白亜紀から古代三紀の付加体堆積物が広く分布している.また,古い付加体堆積物としては,丹波帯や美濃帯などのジュラ紀付加体がある.

 付加体堆積物の特徴は,沈み込みに伴って大陸地殻に付加されたときに大きな横圧力を受け,衝上断層や褶曲が形成され内部構造が複雑になり,地山劣化部が多数存在していることである.
 そのため,地質構造的応力が内在しており,人工改変により開放面が形成された場合,予想外の変位と応力が発生する.

2 付加体堆積物中の不連続面

 このような地山には,劈開のような小規模不連続面から数十kmの連続性のある衝上断層(破砕帯)のような大規模不連続面まで,様々な規模の不連続面が存在している.

 付加体堆積物では,劈開から層理・小規模断層までが,応力解放時に同じような挙動を示し,劣化部が異常に拡大していくものと推定される.
 その結果,自然状態では亀裂性岩盤としての性質を示していたものが,急激な開放面の形成となるトンネル掘削などにより,細かな粒子の集合体のような挙動形態を示す地山に変化するものと推定される.

3 付加体堆積物の地山評価

 このような地山挙動は,亀裂面の観察,ボアホール・カメラによる亀裂解析をもとに不連続体解析で,ある程度再現することが出来る.

 問題は,事前調査でこのような大変位が発生する地山を予想できるかどうかであるが,現段階では非常に困難である.
 例えば,NEXCO(旧日本道路公団)の「地山分類適用上の留意点」では次のように記述されている(設計要領第三集,平成21年7月,78p).
 しかし,具体的な対処方法は述べられていない.


4.地山判定基準について
(中略)
(a) 弾性波速度(km/sec)
(中略)
 2) 頁岩,粘板岩,片岩などで褶曲などによる初期地圧が潜在する場合,あるいは微細な亀裂が多く施工時に緩みやすい場合には,実際の地山等級よりも事前の弾性波速度によるものが過大に評価されることがある.


 施工実績(切羽スケッチ,切羽写真,内空変位が重要)を収集し,周辺の地質状況からそれぞれの堆積物の形成過程を把握し,どのような条件で形成された付加体堆積物であるかを解明し,異常な変位が発生するかどうかを明らかにすることが一つの方法である.
 特に,泥質岩で変位が大きくなる傾向にあるので,その点にも注意する.

 また,簡便な試験で指標を得ることも必要である.例えば,「ロスアンゼルスすり減り試験機」の「すり減り率(%)」や同一箇所での複数回の孔内水平載荷試験などが考えられる.

(2003年2月1日更新,2011年11月10日修正,2014年9月12日第2回修正)


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