河川堤防の統合物理探査

 (2017年9月7日作成)

概 要

 河川堤防は線状の土構造物である。維持管理を考えた場合の河川堤防の特徴は,次のようにまとめられる。

 このような条件を満たす堤防点検手法として,1)表面波探査,2)牽引式電気探査あるいはスリングラム法電磁探査を組み合わせた統合物理探査が有効である。
 つまり,弾性波速度(S波)と比抵抗のデータを総合的に判断して堤防の健康診断を行う。


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図1  物理探査の探査深度と分解能
(土木研究所・物理探査学会,2013,20pによる)
 各種物理探査の探査深度と分解能の関係を示した図である。牽引式電気探査の探査深度は,条件が良い場合で15m程度である。スリングラム法電磁探査は,やや深くまで探査出来るとされている。
 表面波探査の探査深度は最大で20m程度で,分解能は数mである。屈折法地震探査に比べて分解能は良い。


図2 探査の情報量とコスト.jpg
図2 物理探査の情報量とコスト
(土木研究所・物理探査学会,2013,24pによる)
 河川堤防調査で用いられる物理探査は,情報量はやや少ないが,土木工事で一般に用い垂れる高密度電気探査やトモグラフィ探査に比べてコストは小さい。

 以下,「河川堤防の統合物理探査」(土木研究所・物理探査学会,2013)に基づいて,それぞれの探査法と安全性評価の概要を述べる。詳しくは,上記図書を読んで頂きたい。

“地質と土木をつなぐ”⇒ “貯蔵庫"⇒

表面波探査

 表面波にはレイリー波とラブ波がある。統合物理探査で用いるのは,地表面が波打つようにして伝わるレイリー波で,その伝播速度はS波(横波)の0.870〜0.955である。ほぼS波速度と等しいと見なして良いとされる。
 地面をカケヤ(大きな木製の槌)で叩くと様々な波が発生する。このうち表面付近を伝わっている波が表面波で,波長によって伝播速度が変化する。長い波長の表面波は,深いところのS波構造を反映している。この性質を利用して,地盤の深さ方向の速度分布を求めることが出来る。

 なお,レイリー波は,地表面付近では進行方向と逆の回転を示す。つまり,走っている車のタイヤとは反対の方向に回転する。そして,波長の1/5程度の深さより深部では回転方向が逆になり振幅は急激に小さくなる。

牽引式電気探査

 この探査方法は,制御部とダイポールケーブルを持つ送信部と受信部のキャパシタ電極を非導電性ケーブルで繋ぎ,一定速度で牽引しながら測定する。受信部は複数個繋ぐことが出来る。電極配置はダイポール・ダイポール法である。電極間隔を変えて測定することで探査深度が変わる。
 キャパシタ電極は地盤と絶縁されているのでコンデンサーが形成される。交流電圧を加えることで,このコンデンサーが充電と放電を繰り返す。送信部で電流を流し受信部で電位差を測定して地盤の比抵抗を求める。

 この方法の長所は次の点である。

 留意する点は次の点である。

スリングラム法電磁探査(EM探査)

 小型の送受信コイルを持つ測定装置を使って交流磁場(1次磁場)を発生させ,地盤中に発生した誘導電流(渦電流)がつくる2次磁場を測定して導電率(比抵抗の逆数)を求める。周波数を変えることによって,深さ方向の比抵抗分布を求めることが出来る。
 「スリングラム」というのは,スウェーデン語で「フレームに取り付けた」という意味だと言う。この測定器が,送信コイルと受信コイルを1本のフレーム(ボード)に取り付けて持ち歩けるようになっているところから名付けられたのだろう。

 この探査器の特徴は次のようである。

 牽引式電気探査とスリングラム法電磁探査の使い分けは,堤体や基礎地盤の比抵抗がほぼ100Ωm以下の場合はスリングラム法電磁探査が適していると言われている。また,地表が不整地の場合もスリングラム法電磁探査が効率的である。

安全評価区分

 探査結果を基に比抵抗断面図とS波速度断面図を作成する。同じ地点の比抵抗(縦軸)とS波速度(横軸)を用いて「クロスププロット図」を作成する。ボーリングデータがあればそれも参照して総合的に判断を行って安全性評価の境界値を求める。
 クロスププロット図では浸透性・液状化特性の評価と大歪み変形特性の評価では異なってくる。S波速度が小さい場合はいずれも危険になるが,浸透性・液状化特性では比抵抗の高い場合が危険となる。大歪み変形特性では比抵抗が小さい場合が危険になると判断する。

参考にした図書など

“地質と土木をつなぐ”⇒ ←“貯蔵庫"⇒