イワオヌプリ

 (山行:2016年7月8日 記事作成:2016年7月10日)

概 要

 ニセコ火山群というのは,西の雷電山から東のニセコアンヌプリまでの火山群を指し,東西25km,南北15kmの規模を持つ.
 イワオヌプリは,一番東にあるニセコアンヌプリのすぐ北西にある火山である.その活動は20万年前以降で,6,000年前にマグマ由来の降下スコリア堆積物を噴出している活火山である.


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図1 イワオヌプリ
 ニセコアンヌプリの「ニセコ山の家コース」の標高940mのコルから見たイワオヌプリである.南東に開いた噴気孔跡の裸地が特徴である.標高1,116mの最高点は,右奥の深皿を伏せたような山体である.一番右の尾根上には岩塔が見られる.手前の右に傾斜した台地は,岩雄登噴出物の舞台状溶岩で複輝石安山岩である.

五色温泉コース

 道道58号倶知安ニセコ線の五色温泉からの登山道である.この場所の標高はすでに750mである.
 5万分の1地質図幅「岩内」では,道道周辺の地質はニセコアンヌプリの西側を広く覆っているニセコアンヌプリ噴出物の舞台状溶岩(N3)で,標高800m付近から上がニセコアンヌプリ溶岩である(N5).ニセコアンヌプリ火山の活動時期は,70万年前〜25万年前である.

 山に登る前に,登山道入口にある五色温泉山側の噴気孔跡を見る.五色温泉は火山からの熱水が混合したもので,温泉水のpHは2〜3と低く,Ca2+,Mg2+,SO42−,Cl-に富んだアルカリ土類非炭酸塩型の組成を持っている.


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図2 五色温泉の噴気孔跡
 全体に白色に変質している.原岩の組織が見られるがものもあるが,変質が著しく原岩の判別できないものが多い.
 背後の崖は,図幅では岩雄登(いわおぬぷり)噴出物の舞台状溶岩としている.右奥にイワオヌプリが顔を見せている.


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図3 五色温泉噴気孔跡の変質岩
 全体に白色化していて原岩の判別は困難であるが,図幅に従えばニセコアンヌプリ噴出物の火砕岩類であろう.

図4 五色温泉の変質岩.jpg
図4 五色温泉の変質岩
 変質した火砕岩と思われる.一見,著しく珪化したもののように見えるが軟質で比重は小さい.

図5 変質様式.jpg
図5 安山岩の変質の仕方
舞台状溶岩の台地へ上がる手前の標高760m付近の小さな沢の中に見られる変質岩である.原岩は安山岩で変質によって周辺が粘土化し玉石状に硬質な部分が残っている.

 舞台状溶岩の台地へ登って行く階段が設けられている.これほど歩きやすく,しっかりした階段には初めて出会った.上に行くほど傾斜がきつくなる「寺勾配」で,登っていてそれほど恐怖感はない.登り切った付近からは安山岩の転石が目立つようになり,登山道に露頭が見られるようになる.


図6 舞台状溶岩.jpg
図6 舞台状溶岩
 登山道の標高900m付近で見られる舞台状溶岩である.比較的新鮮な部分と白色化した部分が交互に登山道に現れる.

 途中,変質帯の広場を2箇所通って,イワオヌプリへの登山道と大沼への道との分岐に出る.ここから,岩がごろごろした急な登りになる.ここでも,変質した露頭と比較的変質を受けていない露頭が交互に現れる.
 標高1,040mで山頂西側の噴気孔跡に出る.この噴気孔を回り込んで頂上に行くことができる.木が1本も生えていないので天気さえ良ければ自由に頂上を目指すことができる.ただし,向かって右の尾根を登るときは,右手の崖から落ちないように注意が必要である.


図7 1,010mの安山岩.jpg
図7 標高1,010m付近の安山岩
 登山道脇の比較的新鮮な両輝石安山岩で大岩雄登円頂丘とされている.斜長石は完全に白色化しているが原形はとどめている.
 なお,小岩雄登というのは,イワオヌプリの西にある標高1,039mの山のことである.


図8 頂上直下噴気孔跡.jpg
図8 頂上直下の噴気孔跡
 頂上の南西に広がる噴気孔跡である.右手奥が登山道の一番高いところである.イワオヌプリの頂上(標高1,116m)はさらにその奥である.

図9 イワオヌプリの大ガレ.jpg
図9 イワオヌプリの大ガレの沢
 五色温泉野営場から見える大ガレの沢の頂部である.一面変質していて草が少し生えているだけである.

図10 イワオヌプリ山頂付近の硫黄.jpg
図10 イワオヌプリ山頂付近の硫黄
 イワオヌプリの山頂付近には昇華硫黄の塊が転がっている.自然硫黄の比重は2.1で変質した岩石よりも小さい値なので地表面に浮いてくるものと考えられる.かつては,この昇華硫黄も採掘されたという.

図11 イワオヌプリ最高点.jpg
図11 イワオヌプリ最高点
 登山道尾根の東にある溶岩円頂丘である.右はニセコアンヌプリで,その左肩に羊蹄山の頭がかすかに見える.

図12 風食.jpg
図12 風食を受けた岩塊
頂上の北西端にある岩塊群は,風食を受けている.樹木のない頂上での風の強さが分かる.

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図13 尾根北西端の岩塊
 様々な節理を持つ岩塊が集まっている.特に,右側の放射状節理を持つ岩塊は,大沼への登山道からも見分けることができる.

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図14 岩雄登鉱山跡と大沼
 イワオヌプリの北西尾根から北を見たところである.中央の尾根が褐色化しているのは変質により赤鉄鉱が形成されたのかもしれない.尾根の先に大沼が見える.
 大沼の手前を左から右へ流れる硫黄川周辺が白色化している.かつて,ここに岩雄登鉱山があり,古い火口に堆積した粘土層や凝灰質岩層中に縞状にあった沈殿硫黄鉱を採掘していた.


図15 大沼から見たイワオヌプリ.jpg
図15 大沼から見たイワオヌプリ
 イワオヌプリの北西斜面も崩壊が著しい.

参考にした図書など


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