湖北トンネル出水の地質的背景

 湖北トンネルは,長野県佐久市と下諏訪町を結ぶ国道142号の一部で,長野県諏訪湖の北岸に位置する延長約2,150mのトンネルです.このトンネルで1999年2月14日に出水と土砂流出が発生し,地表には陥没地が出来ました.これはクイックサンド現象によって引き起こされたと言われています.詳しい情報は,「日経コンストラクション 1999年5月14日号 p69-p71」に載っています.

 ここでは,この現象を引き起こした地質的な背景について述べてみます.

 第一は大きな地質構造についてです.
 諏訪湖周辺は,本州の大構造線である中央構造線と糸魚川−静岡構造線が交差している位置にあります.つまり南南西から北北東に延びる中央構造線が諏訪湖付近で西にジャンプしていると言われています.この原因はおそらく南東から北西に延びる糸魚川−静岡構造線が左ずれを起こしているためであろうと考えられます.
 この付近では,中央構造線が粘土化を伴う破砕帯を形成し地山を砂礫質にしていたと推定されます.それに対して,糸魚川−静岡構造線は粘土化が卓越しており遮水帯を形成していたと考えられます.破砕されて透水性が高くなっている地山中に遮水帯がありトンネル掘削によっても地下水位が下がりにくくなっていたことが,クイックサンド現象の原因に一つになっていたと考えられます.
 なお,諏訪湖湖畔にある下諏訪温泉はこの糸魚川−静岡構造線の延長上に位置しています.

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 第二はトンネル周辺に分布している塩嶺累層についてです.
 この地層は第四紀更新世の陸上溶岩と火砕岩を主としたものです.溶岩は板状で亀裂が開口しており地下水を豊富に含むことが出来ます.これに対して,火砕岩はやや透水性は低いと推定されます.いずれにしても,これらは亀裂が多く,その上中央構造線や糸魚川−静岡構造線により破砕・粘土化されて, 礫質土に近い状態になっていたと推定されます.「日経コンストラクション」の写真を見ても,こぶし大から人頭大の礫が崖錐状に広がっています.
 また,この地層はトンネル掘削で大量湧水が発生したことで有名です.旧国鉄の塩嶺トンネルでは大量湧水と地表での渇水を引き起こしました.また,日本道路公団の岡谷トンネルでもかなりの湧水に遭遇しています.

 「日経コンストラクション」の写真や推定縦断図を見ると,ここで発生しているのはまさに土石流そのものです.流れの中ではシルトサイズの土粒子よりも細砂サイズの土粒子の方が運搬されやすいことが実験的に確かめられています(ユールストローム,1939).つまり,バインダー分(74μm以下の粒子)が少ない場合に地山が流動化しやすいのです.これは流れの中に乱流が発生しやすい条件になるからだとされています.このあたりのことについては,このHPの流動性地山を参考にしてください(←“土砂の運搬機構”へ)

(2001年3月1日更新)


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