洞爺湖の北西にある昆布岳は,なだらかな裾野と尖った山頂部という独特の山容を見せていて,どこからでも見分けることができる.
昆布岳の標高は1,045mで,南西にある西昆布岳(標高804m)とともに東西約14km,南北約11kmの火山体を構成している.西と北東は昆布川とルベシベ川で境され,南は貫気別川が山体から流れ出ている.昆布川とルベシベ川は尻別川に合流して日本海に注ぐ.これに対して,貫気別川は太平洋側の内浦湾に注いでいて,昆布岳火山体は日本海と太平洋の分水嶺となっている.
登山道は道道914号新富神里線からの豊浦コースのみで,九合目までは眺望もきかず,なだらかな山道を散歩するといった感じである.新緑の頃か紅葉の頃にゆったりと登るのに適した山である.まけに,登山道のほとんどが土の道なので,トレールランニングの練習には最適である.登山口から頂上までの高度差は790mである.
昆布岳火山体は,ほとんどが安山岩溶岩で構成されている.5万分の1地質図幅「狩太」では,昆布岳の火山活動は層序関係からみて鮮新世後期としている.山麓の標高450m付近から下には集塊岩(柳ノ沢集塊岩層:ハイアロクラスタイト)が分布しているが,それより上部は安山岩溶岩で,標高900m付近までは普通輝石安山岩の昆布岳下部溶岩,その上は両輝石安山岩の昆布岳上部溶岩である.
独特の山容は昆布岳の標高900m付近より高いところに分布している昆布岳上部溶岩が形づくっている地形である.この溶岩の噴出年代は,280万年前である(Nakagawa, 1992, 178p).
登山道の九合目からの急登の尾根に露岩があり,これを乗り越えて西側に出る.この露頭が昆布岳上部溶岩である.もちろん,頂上も昆布岳上部溶岩で,N20°E,20°Wの板状節理を示している.西に傾斜した三角の山頂の形は,この板状節理に規制されているようである.
昆布岳の登山口はちょっと行きづらい場所にあるが,近くまで行けば豊浦町の立てた昆布岳登山口の案内板がある.農家の物置の脇で,道路の反対側に駐車できる場所がある.
登山道は,標高300mくらいから視界が開け洞爺湖方面が見え,頂上も木々の間から見える.
標高697mのなだらかなピークの先に「めがね岩」がある.昆布岳登山道での地質の見所の一つで五合目付近にあたる.
幅3mほどの岩脈で走向・傾斜はN20°E,70°SEである.岩質は白濁した斜長石の目立つガラス質輝石安山岩で,岩脈の側部が浸食されているので,内部構造を見ることができる.アーチが出来るのにちょうど都合の良い節理が発達したために中が崩落しても上部がアーチとして残ったものと思われる.岩脈の方向に直交した板状節理が発達し,それがアーチを支えている.
これを過ぎるとまた林の中の道になる.次第に周囲の景色が見えるようになり,羊蹄山や尻別岳などが望める.9合目の先が急登部となる.標高950mの出尾根は露岩となっていて,この尾根を越えると一面の笹原となり植生が一変するのが印象的である.
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