無意根山

 (山行:2014年7月18日 作成:2016年7月29日)

概 要

 無意根山は札幌市・定山渓温泉の西南西11kmにある標高1,464mの古い火山である.札幌市南区の硬石山付近からも見ることができ,なだらかな山体が特徴的である.無意根山を中心に南に中岳(標高1,388m),北に長尾山(標高1,211m)が北北東−南南西方向に並んでいる.これらの山は両輝石安山岩の無意根山溶岩で構成されている.


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図1-1  無意根山
 中山峠から見た無意根山(中央)と中岳(左)である.6月末でも雪が残っている.

無意根山周辺の地質と地形

 無意根山の基盤は,古第三紀後期・漸新世の定山渓層群・白水川層(しらみずがわ・そう)や白井川層である.白水川層は,変質安山岩,ハイアロクラスタイト(集塊岩),角礫凝灰岩で構成されている.白井川層は,下位に緑色凝灰岩,上位に砂岩・頁岩互層が分布している.

 これら基盤岩類を覆って,無意根山基底溶岩と喜茂別溶岩が分布している.5万分の1地質図幅「定山渓」では,無意根尻小屋の先の急登部から無意根山基底溶岩となっている.そして,テラスと呼ばれる緩斜面が基底溶岩の上面で,その先の尾根への急登部から無意根山溶岩となる.

 無意根山の5.5km北に豊羽鉱床がある.渡辺らは無意根山の火山活動(300万年前)と豊羽鉱床の鉱化開始時期がほぼ同じであることから,無意根−豊羽火山熱水系を考えた.端緒となったのは,無意根山の西にある巨大地すべり中にある小沼である.この小沼は火山の爆裂孔で小さなカルデラ湖があったという.無意根山の周辺には,このほかにも爆裂孔があるという.無意根−豊羽火山のマグマ熱水系の中で豊羽鉱床の鉱化作用を考えることができるようになった(図1−3参照).


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図1-2  札幌西部山地の層序表
(八幡・岡村,2010,189p)
 札幌西部山地の層序については,5万分の1地質図幅「定山渓」が基本となる.
 (1)この表は,八幡・岡村(2010)をもとに作成した.
 (2)サッポロカイギュウの層序は,岡ほか(2007)8pによる.
 (3)通産省(1972)は,昭和46年度広域調査報告書「定山渓」.通商産業省資源エネルギー庁,32pによる.
 (4)豊羽鉱山周辺は,桑原ほか( 1983)115−129による.
 (5)得られている年代は次のとおりである(八幡・岡村,2010,重野ほか,2007、渡辺,1993a,b による).
地層吊岩相年代測定方法
藻岩山溶岩 かんらん石安山岩 2.6Ma,2.4Ma K-Ar年代
藻岩山軍艦岬溶岩 複輝石安山岩 2.8Ma K-Ar年代
無意根山溶岩 複輝石安山岩 3.0Ma K-Ar年代
西野層 角閃石安山岩 3.8Ma,4.1Ma K-Ar年代
観音岩山岩脈(八剣山) 石英角閃石安山岩 4.0Ma K-Ar年代
砥石山溶岩(八剣山の河床) 輝石安山岩 6.7Ma K-Ar年代
西野層 凝灰岩 6.3MaFT年代
砥山層 泥岩(カイギュウ化石産出層) 8.2Ma FT年代
おしどり沢層凝灰岩 8.8Ma FT年代
定山渓石英斑岩 花崗斑岩,花崗閃緑岩,デイサイト 10.9Ma K-Ar年代
豊平層群・小樽内川層凝灰岩 11.9Ma FT年代
本山層 凝灰岩 13.3Ma,14.2Ma FT年代
定山渓層群・ペーペナイ川層流紋岩23.9MaFT年代


図1-2 無意根山の熱水系.jpg
図1-3   無意根−豊羽火山熱水系断面図
(渡辺 寧,2001,10p)
 無意根−豊羽火山はマグマの上昇により無意根火山をつくると同時に,北側のマグマが豊羽鉱床の鉛や亜鉛の鉱脈を形成した(前期鉱化作用).その後,より浅いマグマ溜まりからの熱水によって錫などの多金属鉱脈がつくられた(後期鉱化作用).後期鉱化作用では,地下に伏在しているジュラ紀〜白亜紀初期(約1億5千万年前)の海溝付近で堆積したタービダイトと考えられる薄別層(砂岩・泥岩互層)を取り込んで還元されて,錫などを含む多金属鉱床が形成された.

 無意根山の登山道は,国道230号からの薄別コースと旧豊羽鉱山からの元山コースがある.今回は薄別コースについて述べる.

薄別コース

 国道230号の薄別橋の中山峠寄りに登山口がある.「小川《 に沿って宝来沢林道が付いていて,登山道入口の宝来小屋まで5kmほどの林道歩きとなる.
 地理院地図では,この沢を「小川《と表示しているが,石狩森林管理署が設置している現地の案内図では「宝来沢《としている.森林管理署では,宝来沢に8基の治山ダムを設けている.

 地質研究所の「北海道の地すべり地形」では,この沢沿いに土石流堆積物が描かれている.この土石流は,無意根尻小屋や大蛇ヶ原を含む地すべり土塊が,宝来沢に突っ込んで土石流となったものと考えられる.

 そういう目で見ると,林道は何カ所かで「つづら折り《になっていて,土石流が何回も発生したのではないかと想像させる.
 林道が送電線の下を通る手前にある宝来沼は土石流先端の背後にできたものかもしれない.


図2 宝来沼.jpg
図2  宝来沼
 林道を登って行くと左手にある沼で,左岸から流れ込むやや大きな沢の出合いにある.

図4 土石流堆積物.jpg
図3  土石流堆積物
 宝来小屋手前にある林道切土斜面に見られる土石流堆積物である.安山岩の巨礫と粘土質な基質からなる.基質は膨潤性粘土を含んでいる部分がある.

 宝来小屋からは登山道(歩道)となり,地すべり移動土塊の分布域である.大蛇ヶ原は地すべり移動土塊の中間部付近にできた緩斜面に形成された湿地である.

 「定山渓図幅」では,基盤の地質は,宝来小屋までは白井川層の緑色凝灰岩で,登山道に入って標高880m付近までは豊羽層の変質安山岩となっている.同図幅でも,大蛇ヶ原から無意根尻小屋にかけての緩斜面は崖錐堆積物(Gl)の分布域としている.


図5 大蛇ヶ原湿原.jpg
図5  大蛇ヶ原湿原
 かなり乾燥化が進んでいる印象である.遊歩道が設けられていて一巡りすることができる.

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図6  地すべり移動土塊
 無意根尻小屋へ登って行く登山道脇に見られる露頭である.変質した安山岩が,多少原岩組織を残しながら細片化している.

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図7  テラスと無意根尻小屋
 尾根の標高1,400m付近から東を見る.中央から右に延びている尾根は,テラスと呼ばれている.この尾根の左に無意根尻小屋を含む地すべりがあり,右には山頂直下の崖を滑落崖とするもう一つの地すべりがある.山スキーに来て多少天候が悪い時でも,このテラスまでは来ることができる.テラスの先端の急斜面は,比高100mほどありスキーを楽しむことができる.

図8 無意根山溶岩.jpg
図8  無意根山溶岩
 尾根の最高点付近から見える無意根山溶岩である.やや山側に傾斜した板状節理が発達する.

図9 三角点.jpg
図9  三角点の無意根山溶岩
 無意根山の最高点は標高1,464mである.その南に三角点(標高1,460.5m)があり,ブロック状の両輝石安山岩が露出している.

図10 無意根山溶岩.jpg
図10  無意根山溶岩
 白濁した斜長石の結晶と黒い輝石が目立つ安山岩である.

図11 国道230号.jpg
図11 国道230号渓明大橋と無意根地すべり
 三角点からは国道230号の渓明大橋がよく見える.中央付近で地肌が見えるのは,2000年5月15日に発生が確認された「薄別地すべり(無意根大橋)《である.

参考にした図書など

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