無意根山は札幌市・定山渓温泉の西南西11kmにある標高1,464mの古い火山である.札幌市南区の硬石山付近からも見ることができ,なだらかな山体が特徴的である.無意根山を中心に南に中岳(標高1,388m),北に長尾山(標高1,211m)が北北東−南南西方向に並んでいる.これらの山は両輝石安山岩の無意根山溶岩で構成されている.
無意根山の基盤は,古第三紀後期・漸新世の定山渓層群・白水川層(しらみずがわ・そう)や白井川層である.白水川層は,変質安山岩,ハイアロクラスタイト(集塊岩),角礫凝灰岩で構成されている.白井川層は,下位に緑色凝灰岩,上位に砂岩・頁岩互層が分布している.
これら基盤岩類を覆って,無意根山基底溶岩と喜茂別溶岩が分布している.5万分の1地質図幅「定山渓」では,無意根尻小屋の先の急登部から無意根山基底溶岩となっている.そして,テラスと呼ばれる緩斜面が基底溶岩の上面で,その先の尾根への急登部から無意根山溶岩となる.
無意根山の5.5km北に豊羽鉱床がある.渡辺らは無意根山の火山活動(300万年前)と豊羽鉱床の鉱化開始時期がほぼ同じであることから,無意根−豊羽火山熱水系を考えた.端緒となったのは,無意根山の西にある巨大地すべり中にある小沼である.この小沼は火山の爆裂孔で小さなカルデラ湖があったという.無意根山の周辺には,このほかにも爆裂孔があるという.無意根−豊羽火山のマグマ熱水系の中で豊羽鉱床の鉱化作用を考えることができるようになった(図1−3参照).
地層吊 | 岩相 | 年代 | 測定方法 |
藻岩山溶岩 | かんらん石安山岩 | 2.6Ma,2.4Ma | K-Ar年代 |
藻岩山軍艦岬溶岩 | 複輝石安山岩 | 2.8Ma | K-Ar年代 |
無意根山溶岩 | 複輝石安山岩 | 3.0Ma | K-Ar年代 |
西野層 | 角閃石安山岩 | 3.8Ma,4.1Ma | K-Ar年代 |
観音岩山岩脈(八剣山) | 石英角閃石安山岩 | 4.0Ma | K-Ar年代 |
砥石山溶岩(八剣山の河床) | 輝石安山岩 | 6.7Ma | K-Ar年代 |
西野層 | 凝灰岩 | 6.3Ma | FT年代 |
砥山層 | 泥岩(カイギュウ化石産出層) | 8.2Ma | FT年代 |
おしどり沢層 | 凝灰岩 | 8.8Ma | FT年代 |
定山渓石英斑岩 | 花崗斑岩,花崗閃緑岩,デイサイト | 10.9Ma | K-Ar年代 |
豊平層群・小樽内川層 | 凝灰岩 | 11.9Ma | FT年代 |
本山層 | 凝灰岩 | 13.3Ma,14.2Ma | FT年代 |
定山渓層群・ペーペナイ川層 | 流紋岩 | 23.9Ma | FT年代 |
無意根山の登山道は,国道230号からの薄別コースと旧豊羽鉱山からの元山コースがある.今回は薄別コースについて述べる.
国道230号の薄別橋の中山峠寄りに登山口がある.「小川《
に沿って宝来沢林道が付いていて,登山道入口の宝来小屋まで5kmほどの林道歩きとなる.
地理院地図では,この沢を「小川《と表示しているが,石狩森林管理署が設置している現地の案内図では「宝来沢《としている.森林管理署では,宝来沢に8基の治山ダムを設けている.
地質研究所の「北海道の地すべり地形」では,この沢沿いに土石流堆積物が描かれている.この土石流は,無意根尻小屋や大蛇ヶ原を含む地すべり土塊が,宝来沢に突っ込んで土石流となったものと考えられる.
そういう目で見ると,林道は何カ所かで「つづら折り《になっていて,土石流が何回も発生したのではないかと想像させる.
林道が送電線の下を通る手前にある宝来沼は土石流先端の背後にできたものかもしれない.
宝来小屋からは登山道(歩道)となり,地すべり移動土塊の分布域である.大蛇ヶ原は地すべり移動土塊の中間部付近にできた緩斜面に形成された湿地である.
「定山渓図幅」では,基盤の地質は,宝来小屋までは白井川層の緑色凝灰岩で,登山道に入って標高880m付近までは豊羽層の変質安山岩となっている.同図幅でも,大蛇ヶ原から無意根尻小屋にかけての緩斜面は崖錐堆積物(Gl)の分布域としている.
“地質と土木をつなぐ”へ→ |
“貯蔵庫"へ→ |