トンネル坑口の垂直縫地ボルト工

1 垂直縫地ボルトの効果
2 地すべり地での垂直縫地ボルトの施工例
3 垂直縫地ボルトにかかる変位と応力


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1 垂直縫地ボルトの効果

 垂直縫地ボルトは,群打設された鉄筋棒の吊り下げ効果により天端の安定を図るのが本 来の役割である.ボルトがスプリングライン付近まで打設されている場合には,切羽の安 定にも大きく寄与する.
 適用地山は岩盤が最も望ましいが,ある程度の粘着力があれば未固結地山でも効果は期 待できる.湧水を伴う流出しやすい地山(地下水以下の砂質土地山)では適用に限度があ る.
 トンネルにとっては坑外施工となるので,トンネル掘削工程が影響を受けないこと,比 較的安価であることなどが有利な点である.

2 地すべり地での垂直縫地ボルトの施工例

北陸自動車道

 北陸自動車道 上越〜朝日間1期線工事の記録がまとめられている(日本道路公団,1998,(財)高速道路技術センター).ここでは,30地区の地すべり危険地の設計・施工事例と,施工中に発生した3地すべりの対策工が載せられている.
 全体的な地すべり対策工は次のとおりである.垂直縫地ボルトは主要な地すべり対策工としては位置付けられていないようであるが,小規模な地すべりに対しては有効な工法として抑止工や抑制工と併用されている.

北陸自動車道上越〜朝日間の地すべり対策工

抑制工地表面排除工(水路工,浸透防止工)
地下水排除工浅層地下水排除工(地下水排除工等)
深層地下水排除工(水抜きボーリング,集水井,排水トンネル)
排土工
押え盛土工
抑止工杭工
深礎工
アンカー工

北陸自動車道(上越〜朝日)垂直縫地工法施工一覧

地区垂直縫地ボルトの規格と目的地すべり対策工
太平寺トンネル西地区 規格:孔径100mm,ボルト径32mm,長さ12m
目的:事前の地山補強工として薬液注入工,抑止杭工,地下水排除工と併用.
施工位置:ほぼ上下線トンネル幅でトンネル方向に約22m.
深礎杭:径3m,深さ19m
鋼管抑止杭:径500mm,長さ12〜18m,14本.
水抜きボーリング:5箇所
特記:地すべり滑動方向はトンネル縦断方向で,すべり面深度は5m程度.
名立大町トンネル東地区規格:掘削孔径不明,ボルト径32mm,長さ約15m(最大),本数111本.
目的:トンネル上部のすり抜けの地すべり防止(薄いすべり面の滑動防止).トンネル幅の地すべりブロックを想定.
施工位置:トンネル幅でトンネル方向に18m.
深礎杭:径3m,深さ22.5〜25.0m,3本+施工中追加分 径3m,長さ19.5m 2本.
能生トンネル東地区 規格:孔径,ボルト径不明,長さ約16m(最大)
目的:地山の変位抑制(弾性的挙動を期待).トンネル掘削前に垂直縫地ボルトを施工したがクラックが発生し,山側にボルトを追加施工した.
施工位置:ほぼトンネル幅.
施工前に地すべり対策工は実施していない.
施工後クラックが発生したため,水抜きボーリングと上半仮インバートを施工した.
特記:すべり面深度は約30mで,地すべり滑動方向はトンネル縦断方向.
金山トンネル西地区規格:ボルト径32mm,長さ5m
目的:ソイルセメントによる押え盛土の基礎地山の安定を図る.
施工位置:トンネル幅で30m
押え盛土
特記:側壁導坑施工中に崩落,陥没,山側の大変位が発生.トンネル内からの薬液注入工を実施.
風波トンネル東地区 規格:ボルト径32mm,長さ36m(最大)
目的:地すべり対策.施工中の密な動態観測を併用.
施工位置:上下線トンネルの側壁面から45°+φ/2の想定ゆるみ囲.延長は1.5mピッチで28.5m
特記:垂直縫地ボルトには圧縮軸力が最大400kN(40t)以上発生した.吊り下げ効果ではなく,地表面までの全ての緩み荷重が作用したと考えられる.
坑口部に崖錐堆積物が厚さ8〜10mで堆積していた.明瞭な地すべり地形ではない.

松山自動車道石鎚トンネル東側坑口での事例

垂直縫地ボルトの規格と目的地すべり対策工
規格:孔径115mm,ボルト径35mm(ネジバー),長さ4.354m,390本.
目的:大規模地すべりと小規模地すべりがあり,小規模地すべり対策と掘削による緩み対策を兼ねて実施した.
施工範囲:縦断,横断方向とも2mピッチ.19列,38m.
地すべり対策工はなし.
特記:対策を行った地すべり規模は,幅50m,厚さ7mである.
掘削による緩みに伴う変位は発生したが,斜面は安定化している.
掘削完了4ヶ月後に縫地ボルト施工範囲外で のり面崩壊 が発生した.

(井上ほか,1993,トンネルと地下,24巻,9号17-24)

3 垂直縫地ボルトにかかる変位と応力

 一般に,坑口の縫地ボルト施工範囲では,トンネル掘削による変位は斜面下向きに作用する.
 ボルトの軸力測定の結果,トンネル天端より上で止まっているボルトには,引張の軸力が作用する.トンネル上半まで達しているボルトには掘削の進行とともに,圧縮の軸力が作用する.これはボルト周辺地山の沈下により,ボルトにネガティブフリクションが作用するためと考えられる.

 垂直縫地ボルトの効果は,次のようにまとめられる.
(1) トンネル上半まで打設された縫地ボルトには,圧縮の軸力が作用する.これに対し,トンネル天端に達していないボルトや上半到達後切断したボルトには引張の軸力が作用する.
 垂直縫地ボルトが吊り下げ効果を持つというのは,ボルト先端の位置やトンネル切羽との関係で正しい場合があるが,垂直縫地ボルトの効果の全てではない.
 つまり,トンネル掘削に伴う先行沈下に対し,ボルトが支持杭のような直接的抑止効果を発揮する.
(2) ボルト打設範囲が横断方向で充分であれば,トンネル周辺の地山は一体化しグランドアーチを形成する.したがって,地表沈下量は小さく押さえられる.周辺のボルトにはトンネル断面内のボルトよりも大きな圧縮力が作用することから,グランドアートの形成が裏付けられている.

参考文献

 奥田庸,阿部敏夫,2000,垂直縫地ボルトによる地表面沈下対策の研究.トンネルと地下,31巻,6号,41-50.
   井上勝人,香月廣志,田中康弘,1993,地すべり地形の坑口を垂直縫地工法で施工−松山自動車道石槌トンネル.トンネルと地下,24巻,9号,17-24.
 日本道路公団,地すべり対策 北陸自動車道(上越〜朝日)−I期線における設計・施工から管理まで−,1998.(財)高速道路技術センター.

(2002年12月14日)


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