更新世火山岩類

 更新世は258.8万年前から1.17万年前の地質時代を指す.この時代の特徴の一つは,大規模な火山活動が日本列島全体で発生したことである.

 その一つは北海道の阿寒カルデラから九州の阿多カルデラまでの大規模なカルデラの活動である.これらのカルデラは各地に大規模な火砕流を残している.この時代の大規模な溶岩流も全国に分布している.
 土木工事との関連で有名なものの一つは,諏訪湖北岸から西岸に分布する塩嶺累層である.旧国鉄の塩嶺トンネルや中央自動車道長野線・岡谷トンネル周辺での渇水が発生した.

 このような更新世火山岩の土木工事での問題点は何か.

  1. しらすに代表されるように酸性火砕流の場合,半固結の砂質土として切土,盛土の場合の材料の適否,トンネル掘削時の地山挙動などで問題が発生しやすい.つまり,水によって流動化しやすい.
  2. 溶岩流は大部分が陸上噴出であるために,冷却時の節理が開口しており地下水を豊富に胚胎している.トンネル工事では切羽からの大量湧水と地表の渇水を引き起こしやすい.

「しらす」とは

 もともとは「白色火山性砂質堆積物一般」を指す鹿児島地方の方言であった.現在は「火砕流堆積物の非溶結部」に限定して用いるのが普通である.

 鹿児島地方の代表的なしらすは,約2.5万年前に噴出した姶良(あいら)カルデラの入戸(いと)火砕流堆積物である.
 工学的には,豪雨時に表流水,地下水による崩壊が発生しやすい.また,透水性が良いために地下水位が深いのも特徴である.

しらすの諸性質
項 目記   事
土質工学的分類
  • 一次しらす:軽石流堆積物の非溶結部
  • 二次しらす:軽石流堆積物,降下軽石堆積物の陸上,水中における二次堆積物
  • 成層しらす:二次しらすのうちの成層したもの
  • 水成しらす:水中堆積したしらす
  • 固結しらす:溶結度が弱い軽石流堆積物.硬しらすともいう
  • 風化しらす:一次しらす,二次しらすの風化層でかなりの層厚を持って粘土化している
  • 白しらす・赤しらす:白しらすは一次しらすに,赤しらすは風化しらすに対応する場合が多い
  • ぼら:降下軽石堆積物に対して用いられる.新鮮な降下軽石堆積物はしらすに含めない
  • 沖積しらす:しらすを主な母材とする沖積層
  • 山中式土壌硬度計の指標硬度による指標硬度
     極軟質しらす:指標硬度 20以下
     軟質しらす :〃    20〜25
     中硬質しらす:〃    25〜30
     硬質しらす :〃    30〜33
     溶結凝灰岩 :〃    33以上
地質的成因  代表的なものは,約25kaに姶良カルデラから噴出した入戸火砕流堆積物である(25kaは,2万5千年前を表す).
  • 入戸火砕流堆積物:22〜25ka 体積;約200m3
  • 阿多火砕流堆積物:85〜105ka 体積;200km3
  • 加久藤カルデラ火砕流堆積物:300ka 体積;数100m3

しらすの工学上の問題点

構成粒子の特徴:
場  所一軸圧縮強度
kN/m2(kgf/cm2
引張強度
kN/m2(kgf/cm2
南九州の一次しらす30〜1,000
(0.3〜10.0)
20〜200
(0.2〜2.0)
鹿屋分水路トンネル20〜160
(0.2〜1.6)
2〜40
(0.02〜0.4)

行間

しらすの工学上の問題と地山特性
項 目記    事
工学上の問題
  • 脆性度:
  • しらす;4〜30
  • 沖積粘土・洪積粘土;5〜6
  • 軟岩;3〜11
  • 普通の岩石;10〜20
  •  しらすは弾性的な変形から急激な破壊へと移行する.

  • 液状化特性:
     しらすは豊浦砂や新潟砂に比べても液状化しやすい.
     しらす粒子の比重の軽さや軽石の混在の影響が大きい.
  • 斜面の崩壊特性:
     引張応力による脆性的破壊が発生するため,1:0.8前後の中間的なのり面勾配が採用される.
     1:0.6程度以上の切土勾配では,特に地震時に,のり先に大きな引張応力が発生する.
     のり肩部のラウンディングは地震時の崩壊に対して効果がある.
地山の特性
  • 自然含水比:
  • 硬質しらす;6〜14% 
  • 普通しらす;14〜22% 
  • 風化しらす;22〜33%
  • 密度:
    湿潤密度;12〜14kN/m3(1.2〜1.4g/cm3
    乾燥密度;9.5〜12kN/m3(0.95〜1.2g/cm3)
  • N値:
     更新世軽石流しらすでは,深度15m付近までN値は増加しそれ以深では,ほぼ40〜50の間にある.

行間

大規模火山噴出物とトンネル工事の例

塩嶺累層

 JR中央線塩嶺トンネル,JH中央道塩尻トンネル,岡谷トンネルの施工時に大量湧水と地表での渇水を生じた地質が,塩嶺累層と呼ばれる陸上溶岩を主体とする更新世火山岩である.
 この火山岩類では,溶岩の亀裂を通って地下水が流動し,溶岩の間に挟在している火砕岩類が不透水層となって突発湧水の原因となっている.最近では長野県諏訪湖北岸の湖北トンネルでの出水事故がある.

丹那断層周辺の火山岩類

 丹那断層の大量湧水も中新世の安山岩,凝灰岩,安山岩・火山角礫岩互層の上位に,未固結の火山砂を挟んで新期安山岩が分布しており,この火山砂中の地下水により突発湧水が発生した.

安房トンネルのアカンダナ火山噴出物

 高熱帯や熱水帯に遭遇し難工事となった安房トンネルでは,アカンダナ火山噴出物(噴出年代は11,500年前≒完新世初期)中を掘削した.この区間では,22kgf/cm2の湧水圧が予想され,水抜きボーリングで水位低下を計ったが,最大180m3/minの湧水と約3,000m3の土砂流出に見舞われた.

 これらトンネルの施工記事は土木工学社の「バックナンバー検索システム」で,「トンネルと地下」の掲載されている巻,号,ページを知ることが出来る.

(2001年3月1日作成,2011年11月10日修正,2014年9月12日第2回修正)



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