鮮新世と更新世の境界が決定

 (2009年7月28日作成,同8月20日追記,2014年9月5日修正)

 鮮新世と更新世の境界が正式に決定した.
 これまで,164万年前あるいは180万年前を境としていた第四紀更新世と新第三紀鮮新世の境界が260万年前まで下がることになった.


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第四紀とは

 もともと第四紀というのは,地質時代を化石の変遷(生物進化)を基準にして,古い方から第一紀,第二紀,第三紀,第四紀と区分していたことの名残である.
 実際,約5.5億年前に生物が大量に発生して以来,古生代の末の2.5億年前,中生代の終わりの6,500万年前に生物の大量絶滅が生じている(例えば,丸山,磯崎,生命と地球の歴史,129p.岩波新書).古生代の終わり,中生代の終わりに生物の進化に劇的な変化があった.

 第四紀の特徴を列挙すると,
1)ミランコビッチ・サイクル(地球軌道の離心率,歳差運動,地軸傾斜角)の振幅が大きくなった時期
2)北半球に氷床が発達し始める時期
3)レスの堆積が開始した時期
4)ホモ属の出現
と言ったことになる.

 地質時代の境界を決めるには,GSSP(the Global Strato-type Section and Point.Global Standard Section and Point とも言うようである) と呼ばれる地質断面(模式露頭)と境界を明示できる地層が必要である.今回決められた鮮新世と更新世の境界は,シシリー島のモン・サン・ニコラの南斜面で見ることができる.
(例えば,Rio,D.et al,1998.Episodes,Vol.21,nos.2,82-87)

 この境界の年代は2.588Ma(Ma=百万年前)とされていて,約260万年前ということになる.第四紀の下底が80万年ほど古くなったことになる.

 これまでは,180万年前を新第三紀鮮新世と第四紀更新世の境界としていた.これは,イタリア地中海沿岸ヴリカのカラブリアンの下底に相当する.

 この260万年前というのは,酸素同位体(Marine Isotope Stage) ステージでは MIS103に相当する.古地磁気層序では松山/ガウス境界が258.1万年前(あるいは261.0万年前) である.これは,古地磁気の極が,ガウス期の正磁極から松山期の逆磁極に変化した時代である.
 これらのことがモン・サン・ニコラの露頭では検出可能であるという.

 

最新の地質年代表は,下のウェブサイトに2013年1月版が載っている.
< http://www.geosociety.jp/name/content0062.html >

工学的な意味

 第四紀がこれまでよりも古くなったことで工学的に大きな問題が生じることはないであろう.
 ただし,頭の切り替えが必要で,これまで第四紀層の物性値はこの程度,人工改変によりこんな地山挙動が予想されるという感覚を修正する必要があろう.

 日本の鮮新統から更新統の分布を見ると,釧路,帯広,札幌,函館,青森,新潟,東京・千葉・神奈川,名古屋,大阪といった人口の集中している低地と一致する.
 日本の更新世最下部層のうち,太平洋側低地部の堆積物は粗い堆積物である.大阪層群の最下部層と下部層の境界付近が,これまでの鮮新ー更新統境界(180万年前)で,扇状地性の砂礫層や砂層から海成粘土を挟む地層に変化する.
 この層準は,沖縄の島尻層群上部層,静岡県の掛川層中部層付近,新潟県の魚沼層群下部層,房総半島の上総層群黄和田層,男鹿半島の北浦層,石狩の裏の沢層,十勝の長流枝内層下部層に相当する.

 これまでの更新ー鮮新統境界が260万年前まで古くなると,境界に該当する地層は男鹿半島のように北浦層から船川層に変わる地域も出てくる.

 工学性では,例えば,一軸圧縮強度はこれまでの更新統であれば,5N/mm2程度であったが260万年前まで含むとすると更新統でも10N/mm2を越えるものが出てくる可能性がある.

 なお,このことについては,nature DIGEST 日本語編集版2009年8月号,24P に短い紹介記事がある.


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