圧力溶解劈開

 顕微鏡オーダーで観察される圧力溶解劈開が,トンネル切羽崩壊や斜面崩壊の原因の一つとなっている可能性がある.ここでは,圧力溶解劈開とは何なのかを顕微鏡規模,手の平サイズ規模,露頭規模で見てみる.
 微細不連続面である劈開が,崩壊の原因となっている可能性が高く,今後資料の収集が必要と考える.
 (付加体堆積物中のトンネル変位が予測を越える挙動を示す原因の一つが圧力溶解劈開ではないかという見解は,加藤孝幸さんによる.)
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1 圧力溶解劈開とは

 圧力溶解は,一方向からの応力のもとで固体(岩石など)を構成する一つ一つの粒子が 応力の方向に直交する方向の面で圧力により溶解し,この溶解した物質が圧力の小さい表面や領域に析出することによって変形する機構のことを言う.
 氷をじっくりと押し付けていると押し付けた表面が溶けてくるのと同じ現象である.

 岩石中では,石英や方解石などの溶解しやすい鉱物が選択的に溶解し,有機物や黄鉄鉱などの不溶性鉱物が最大圧縮主応力軸にほぼ垂直な面上に濃集し,劈開(微細な不連続面)が 形成される.これが圧力溶解劈開と呼ばれる.

2 圧力溶解劈開の例

 圧力溶解劈開は,基本的には肉眼で観察することは出来ない.しかし,特殊な条件では見える場合がある.


 四万十帯瓜谷累層の頁岩中の劈開

 左下から右上に淡黄色の細い筋が見えるのが圧力溶解劈開である.この筋と同じ方向に黒灰色の葉理が見える.この葉理は右上で小さく褶曲している.この褶曲に沿って淡黄色の筋も変 形している.
 この筋を構成する鉱物は同定できてい ないが,菱鉄鉱(シデライト:鉄の炭酸塩鉱物)あるいはドロマイトの可能性が高い.
(サンプルの横幅は5cm)  


 顕微鏡下での圧力溶解劈開

 中央のやや黒色がかっている部分が有機質でより細粒の葉理.その上下に発達している黒い筋が圧力溶解劈開である.
 周辺のやや白色がかっている部分は,比較的粗粒の砂質な部分である.プルアパート構造が認められ,力の掛かった方向が推定できる(黒矢印).
 二次的に形成されている鉱物は,緑泥石>イライト>黄鉄鉱で,微細な褶曲した劈開(最大幅0.5mm)には,石英+炭酸塩鉱物 が形成されている.
 このサンプルの岩の劣化程度(劈開の幅)は比較的小さい方である.


 圧力溶解劈開形成の模式図

 顕微鏡観察から推定される劈開の形成過程模式図.
 トンネルの場合,切羽崩壊形式あるいは主要な剥離面とこのような微細な不連続面との関係を把握することにより,切羽崩壊のメカニズムを推定することが出来る.
 多くの場合,このような地山では切羽に近づくことが困難であるが,定方位サンプリングが出来れば非常にメカニズム解明に有効である.


 四万十帯瓜谷累層の頁岩

 ほとんど砂分を含まない頁岩のみから構成される地質である.
 全体に堆積面沿いに破砕が進行しており,ハンマーで容易に崩れ,風化すると手で割ることが出来る.
 トンネルでは水がなくてもゴルフボール大の大きさの角礫が切羽から流れ落ちてくる.
 南高梅(南部(みなべ)高校梅)の梅畑はこの瓜谷累層の頁岩の山を削って造成されている.のり面は1:0.5程度でも持つが,岩塊が常時崩れる状態となっている.



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