新しい技術士像−体験的感想−

 平成13年度から技術士制度が変わり,技術士の役割が変化しつつあるのを感じま す.平成12年度からその兆しはあったと思いますが,平成13年度は若い実力のある人が多く合格しています.

 今の制度では,第一次試験(受験資格なし)に合格するかJABEE(科学教育認 定機構)認定大学の課程(地球科学関係では秋田大学と島根大学で試行中)を卒業し た人(技術士補)は,通算経験4年で技術士試験(第二次試験)を受験できます.さ らに技術士補となってから通算経験7年で総合技術監理部門を受験できます.つま り,最短,大学卒業後5年で技術士登録が出来ることになります.

 改正で大きく変わったもう一つの点は,継続教育が義務づけられたことです.論文 発表,学会での発表,講習会の講師,各種講習会や学会への参加,自己学習などを記 録し,一定の時間(例えば,技術士会では3年で150時間)を確保するという方式です.

 以上のことから浮かび上がる技術士集団は次のようなものになるだろうと思います.
 30才前の若い技術士が業務の中心として仕事をし,自分の技術力を上げると同時 に,経営的素養や国際交流の素養を含めて知識を拡げます.そして,経験を積んで総 合技術監理部門の資格を取得するということになります.若い技術者が生き生きと活 躍するようになります.

 注意しなければならないのは,新しい技術士資格は技術者として飯を食っていく 『スタート地点』だということです.資格を取っても実力がなければ仕方がないとい うのは最もなのですが,実力があれば取れる資格になったのだと感じます.つまり, 社会的に技術者として認知されてから,本当の技術力の勝負が始まると考えなければ ならないでしょう. また「継続教育」と言いますが,実際には「自分の能力を開発 する(Development)」意識を常に持つことだと思います.

 これまで述べたことは,新しい制度から感覚として考えられる状況です.現実がど うなるかは,現在の縮小傾向の建設市場の動きなどもあり別の話です.しかし,技術 分野全体での動向も含めて考えれば,このような方向に進んでいくものと考えていま す.

 また,建設省では,総合技術監理部門の技術士を優遇する方向で,平成14年度か ら「建設コンサルタント業務等の管理技術者等要件のあり方」を変更することを検討 しています.

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−共通仕様書(案)−
 第1106条3. 
 管理技術者は,設計業務等の履行にあたり,技術士(総合技術監理部門 (業務に該当する選択科目)又は業務に該当する部門)又はこれと同等の能力と経験 を有する技術者,あるいはシビルコンサルティングマネージャ(以下「RCCM」とい う。)の資格保有者であり、特記仕様書に定める業務経験を有することとし、日本語 に堪能(通訳可)でなければならない。
 第1107条2.
 照査技術者は、技術士(総合技術監理部門(業務に該当する選択科目) 又は業務に該当する部門)又はこれと同等の能力と経験を有する技術者あるいはRCCM の資格保有者であり、特記仕様書に定める業務経験を有しなければならない。
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 以上を要約すると,技術者として社会的に認められるには,最低限,技術士の資格 を取得すること,資格取得後も自己開発に努めること,高い倫理性を持って仕事に当 たることが,現在,技術者に求められています.

 なお,補足すると,APECエンジニアの国際的会合に初期の段階から関わってき た

西野文雄氏(政策研究大学院大学教授)

の考え方は明快です(日経コンストラクション2000.3.24.).
 この中には,技術教育で何を教えなければならないかを考えるヒントも含まれています.この場合,例えば,地球科学分野では,堆積学,岩石学,構造地質学,その他の基礎的知識と技術(岩石や地質構造の見方)を習得していることが必須の条件であると考えます.
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 技術士の資格は「経験を積めば将来,本当にいいエンジニアになるだろうというポ テンシャルのある若い人にあたえるべきだ」と考えています.
 現在の日本の技術士の水準はAPECエンジニアより高いとみています.
 アングロサクソン系(イギリス・ドイツ系)の人達が言うエンジニアというのは, 数学,物理,化学という自然科学の基礎があり,構造力学や流体力学などの工学の基 礎を駆使して新しいものに挑戦し,物を造っていける人材を指しています.自然科学 や工学の基礎が欠落していて他の分野に挑戦できない人はテクニシャンと呼びます.
 エンジニアの職業倫理が一般の倫理と合わない時は,職業人としての倫理を優先す る.技術的問題で妙なことが行われ,上司に言っても聞いてもらえない時は,権威ある第三者(監督官庁など)に通告することが専門職の倫理です.
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(2002年3月17日)
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