太平洋 深海底のレアアース

 (2011年9月5日作成)

 太平洋の深海底の遠洋性泥質堆積物にレアアース元素(希土類元素)が大量に含まれていることが判明しました.レアアースについては,先端技術を用いた様々な製品に必要であることから一般的な関心が高く,新聞その他で大々的に報道されたので知っている方も多いことと思います.

 「レアアース《,「深海」と入力してインターネットを検索するとたくさんの情報が出てきます.
 <nature geoscience published online :3 July, 2011, 1-5 >にKato,Y. et al による記事が載っています.nature geoscience のHPで“rare-earth” で検索すると概要を読むことができます.

 また,東京大学 学術情報で「全く新しいタイプのレアアースの大鉱床を太平洋で発見《の記事と図を見ることができます.
<http://www.t.u-tokyo.ac.jp/pdf/2011/110704_kato.pdf>

 ここでは,太平洋底のレアアースについて,その概要を述べ,レアアースが自然界でどのように存在しているのか説明します.


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発見されたレアアースの概要

 今回発見されたレアアースのサンプルは,深海掘削計画/海洋掘削計画(DSDP/ODP)で得られた51カ所の掘削コア・サンプルと東京大学海洋研究所によって採取された27カ所のピストンコア・サンプルで,太平洋全体で合計78カ所のサンプルです.これらのサンプルは太平洋の主要部分をカバーしています.
 掘削コア・サンプルは,短いものは長さ6m程度ですが最も長いコアは80mです.一方,東京大学のピストンコアは,大部分が10m以下で,いくつかは3m以下です.REY資源(レアアース元素とイットリウム)としての海底堆積物を評価するために2,037サンプルの化学組成を分析しています.

 REYに富んだ堆積物(一般に金属を含んだ堆積物,ゼオライト質粘土,岩相的には遠洋性の赤色粘土)は,主に南太平洋東部と北太平洋中央部に分布しています.南太平洋東部ではREYに富んだ泥は,REY含有量が1,000-2,230ppm,重レアアース(重希土類)含有量が200-430ppmです.
 ここで言う重レアアース元素(HREE: Heavy Rare-Earth Elements)は,周期律表のランタノイドのうちGd(ガドリニウム;原子番号64)からLu(ルテチウム;原子番号71)とEu(ユウロピウム;原子番号63)を含みます.

 レアアースを含む泥の堆積速度から推定すると,これらの堆積物は古第三紀,部分的には白亜紀から堆積し始め,現在まで堆積していることになります.また,太平洋の中層水のヘリウムー3の同位体比の分布を見ると,これらの元素の起源は中米から南米の西方にある東太平洋海膨と北米のファン・デ・フーカ海嶺からの熱水プルームの拡散によると考えられています.

 今回の堆積物の分析値は,REYの主要な含有物質は熱水プルームから沈殿した水酸化第二鉄(Fe-oxyhydroxide=FeO(OH))であることを示しています.水酸化第二鉄は周りの海水からレアアースを取り込むことができます.

 レアアースの賦存量を簡単に推定してみると,例えば,南緯14度6分,西経145度40分付近のサイト76では,総REY含有量を1,180±189ppm,深海泥の乾燥密度を0.66g/cm3とすると,このサイトではREYに富む深海泥の厚さは約10mですので,サイト76の周辺1平方キロメートルでREY酸化物として9,110±1,460トンが得られます.この量は,2010年の全世界の年間REY消費量の15分の1に相当します.

 この深海泥からレアアースを浸出するのは,酸浸出法を用いて簡単にできることが実験的に確認されていて,試料の粉砕や選鉱を行う必要がありません.しかし,深海泥は深さ4,000〜5,000mの海底にあるので,実際に採掘するには技術的に解決しなければならない課題があります.

レアアース(希土類)とは

 レアアースというのは,周期律表の第III族に属する原子番号57;ランタン(La)から71;ルテチウム(Lu)までの15の元素のことで,ランタノイドと呼ばれているものです.普通,ランタノイドにスカンジウムとイットリウムを加えてレアアースと呼んでいます.

 原子はそれぞれ,その周りに電子を持っています.その電子はエネルギーレベルの低い順にK,L,M,N,O,P,Q と呼ばれる電子殻を構成していて,それぞれの原子は一般的にはエネルギーレベルの低い電子殻から順番に電子で埋まっていきます.ランタノイドは,P殻まで電子が埋まっているのに,その内側のN殻が電子で埋まっていく元素群です.

表1 レアアースの電子配置
原子番号原子記号呼び吊N殻O殻P殻分類
57Laランタン1892軽希土類
(LREE)
58Ceセリウム1992
59Prプラセオジム2092
60Ndネオジム2282
61Pmプロメチウム2382
62Smサマリウム2482
63Euユウロピウム2582
64Gdガドリニウム2592重希土類
(HREE)
65Tbテルビウム2692
66Dyジスプロシウム2882
67Hoホルミウム2982
68Erエルビウム3082
69Tmツリウム3182
70Ybイッテルビウム3282
71Luルテチウム3292
21Scスカンジウム200
39Yイットリウム920
* N殻より内側の電子殻は,K殻:2,L殻:8,M殻18 の電子で満たされています.
** スカンジウム,イットリウムを含めて重希土類(イットリウム族)と呼んでいます.この二つを重希土類に含めるのは,化学的性質が原子番号の大きいジスプロシウムなどに似ているためです.

レアアースを含む鉱物

 希土類元素を含む鉱物は150種類以上が知られていますが,酸化希土類を6%以上含む鉱物は50種類以上あります.希土類元素はイオン半径が大きいために,一般の造岩鉱物中に取り込まれないでマグマの残液に濃集します.炭酸塩を主体とするカーボナタイトマグマやアルカリ元素に富んだアルカリマグマに希土類元素が濃集します.日本のような造山帯(島弧ー海溝系)では希土類元素は濃集しにくいのです.

表2 希土類元素を含む主要な鉱物
存在形態鉱物吊
(英吊)
酸化希土類の
最大含有量(%)
炭酸塩バストネサイト
(bastnäesite)
75
シンキス石
(synchisite)
50
燐酸塩モナザイト
(monazite)
65
ゼノタイム
(xenotime)
62
燐灰石
(apatite)
12
フッ化物フッ化セリウム
(fluocerite)
70
酸化物フェルグソナイト
(fergusonite)
46
ロパライト
(roparite)
32
ユークセナイト
(euxenite)
30
サマルスカイト
(samarskite)
22
パイロクロア
(pyrochlore)
6
珪酸塩セライト
(cerite)
70
ガドリナイト
(gadolinite)
48
褐廉石
(allanite)
28
ジルコン
(zircon)
様ざま

主要なレアアース鉱床のタイプ

 主要なレアアース鉱床には4 つのタイプがあります. などです.

 2008年時点で稼行中の鉱床は,カーボナタイト(中国),アルカリ岩(ロシア),熱水性鉄酸化物(中国),イオン吸着型(中国),漂砂(インド)などがあります.
 年間生産量は,2005年の資料で,中国が118,700トンを産出しています.世界全体の産出量が121,000トン程度なので,98%が中国での産出量となっています.
 埋蔵鉱量は,中国のイオン吸着鉱床が1億8千万トンで飛び抜けて大きな値となっています.2番目の埋蔵鉱量は,やはり中国の熱水性酸化鉄鉱床で8千万トンです.
 アメリカ,カナダ,オーストラリア,南アフリカ,ベトナムで開発が開始されたか準備中です.

 下の表では,マントル起源マグマに由来する鉱床をカーボナタイト鉱床とアルカリ岩鉱床を分けています.

表3 主要レアアース鉱床のタイプ

鉱床タイプ特    徴代表的鉱床
カーボナタイト鉱床・マントル起源の炭酸塩マグマが上昇し地殻中で固結したカーボナタイトに含まれるバストネサイトやモナザイトからレアアースが濃集する.
・カーボナタイトは主に大陸の分裂帯に貫入し,岩脈状または円筒状の形態を取る.形成年代は14億年前である.
・主要なレアアース含有鉱物はパストネサイトで,平均品位はマウンテンパス鉱床で8.9%,マウントウェルド鉱床で12%である.
・地表付近で風化を受けたカーボナタイトには,二次的なレアアースの濃集部が形成されることがある.
マウンテンパス
(アメリカ)
マオニューピン
(中国)
マウントウェルド
(オーストラリア)
熱水性鉄酸化物鉱床・高濃度の塩水熱水が周辺の岩石中の鉄や希土類などを溶脱・運搬して炭酸塩岩や角礫岩などの浸透性の高い岩石中にレアアース鉱物を沈殿させたものである.
・バヤンオボー鉱床の形成年代は,12.86億年前ー2.77億年前で,周辺にあるカーボナタイトの貫入年代は20.7億年前である.バストネサイト,モナザイト,パイロクロアなどを含んでいる.この鉱床のレアアースの品位は約5%である.
バヤンオボー
(中国)
オリンピックダム
(オーストラリア)
アルカリ岩鉱床・マグマ起源のアルカリ成分に富むマグマが大陸に形成された断裂帯に沿って上昇し固結した主にネフェリン斜長岩に伴われる鉱床である.
・鉱床の形成年代は約3.7億年前で,レアアースはニオブやタンタル鉱物,燐酸塩鉱物に含まれていて,これらの元素の副産物として生産されている.
・レアアース含有量は2%以下と低いが大規模であることが特徴である.フェルグソナイトやゼノタイムなどの重希土類に富むものもある.
・ロボゼロ鉱床は直径25kmのラコリス状のネフェリン閃長岩の貫入岩体である.キビナ鉱床は直径30kmのネフェリン閃長岩で,深度15kmまで確認されている.
ロボゼロ
(ロシア)
キビナ
(ロシア)
トアレイク
(カナダ)
ストレンジレイク
(カナダ)
イオン吸着鉱床・レアアースに富む花崗岩や火山岩が風化して粘土鉱物が形成される.この粘土鉱物にレアアースが吸着され濃集したものである.
・このタイプの鉱床は,現在,中国でのみ稼行されいて中生代ジュラ紀花崗岩分布域と鉱床の位置が一致している.この花崗岩はチタン鉄鉱系列花崗岩である.
・レアアースを吸着している粘土鉱物は,カオリナイト,ハロイサイトが主なものである.希土類品位は0.05-0.2%で,他の鉱床に比べて著しく低い.
・レアースの回収は,風化帯の斜面に孔を掘って硫酸アンモニウム溶液を注入し,斜面の下に浸出してくるレアアースを含んだ液を回収するという方法で行われている.重希土類の重要な供給源である.
竜南
(中国)
尋烏
(中国)
漂砂鉱床・海岸や河川の砂にチタン鉱物を主とする重鉱物が濃集した鉱床である.
・この鉱床は25億年前の始生代花崗岩の分布域の周辺に形成されている.
・副産物としてレアアースを含むモナザイトやゼノタイムが採取できる.トリウムが伴われるため放射性物質の処理が必要である.
チャバラ
(インド)
エネアバ
(オーストラリア)
*ラコリス:餅盤とも言う.岩体の上面がお供え餅のように上に膨らみ,底は平らな調和的貫入岩体.

レアアース元素の地球科学での利用

 希土類元素はイオン半径が,La3+(ランタン)の104.5pm(1pm=10-12m)からLu3+(ルテチウム)の86.1pmまでの15の元素のイオン半径が,ほぼ直線的に減少しています.これを「ランタノイド収縮」と言います.このランタノイド収縮は化学的物差しとして使えます.

 この物差しをコンドライトのレアアース元素(REE)の組成で規格化したREEパターンが,地球科学で利用されています.例えば,コンドライトのREE組成で正規化した玄武岩のREE組成は,岩石系列や活動場を反映した特徴的な傾向を示します.
 プロメチウム(Pm)を除くLaからLuまでの14のREEの組成パターンは,ソレアイト系列の玄武岩ではほぼ平坦になりますが,アルカリ系列では軽希土類が濃集した左上がりのパターンを示す傾向があります.
 なお,プロメチウム(Pm;原子番号61)は安定な核種を持たないためにREEパターンでは省略されています.

参考資料


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