シュミット・ロックハンマー

 (2008年12月22日作成)

 シュミットハンマーと呼ばれて親しまれている非破壊試験機には,実はいろいろなタイプがある.大きくはコンクリート用と岩盤用である.
 もともとはコンクリートの非破壊試験機として開発されたものであるが,この器械の打撃面を大きくして軟質な岩盤にも適用できるようにしたものがロックハンマーである.基本的な使い方は同じであるが,コンクリート・テストハンマーでは測定方法が制定されているのに対し,ロックハンマーでは試験面の不均質性や反発度のバラツキの大きさ,一定の打撃方向で数多く試験することの難しさなどがあり,測定者の裁量部分がどうしても大きくなる.

  ここでは,コンクリート用と岩盤用のシュミットハンマーの概要を説明する.


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1.シュミット・コンクリート・テストハンマー

 シュミット・コンクリート・テストハンマー(テストハンマー)は,非破壊でコンクリートの一軸圧縮強度を測定するために開発された.
 この器械の特徴は,
 1)錘を鋼棒を介してコンクリート面に衝突させてその時の錘の反発量で一軸圧縮強度を推定するという手軽さと,
 2)コンクリート構造物の上面,側面,下面のどの面でもテストができるという点であろう.

 反発硬度を測定して物質の硬さの指標を得るために開発された試験機にはショア硬さ試験機がある.この試験機は金属材料のような均質な材料のために作られたものである.この原理をコンクリート強度推定に応用したのがテストハンマーである(山口ほか,1991,171-173).
 テストハンマーではコンクリートの表面の不均質さを考慮して打撃面をφ1.5cmとしている.さらに,岩石材料の不均質性と軟質な岩石まで適用できるよう考慮して打撃面をφ3.0cmとしたものがシュミット・ロックハンマーである.

 日本では,テストハンマーによるコンクリートの一軸圧縮強度の推定式は,日本材料学会で最初に決められた.現在も土木関係ではこの式が採用されている.

 F=-18.0+1.27×R0
 ここで,
F:テストハンマー強度(N/mm2
R0 :基準反発度(測定反発度に補正を加えたもの)

 補正は次の条件の時に行う.
1)測定方向が地面に対して水平でない場合
2)コンクリートが打撃方向に直角な圧縮応力を受けている場合
3)測定箇所が濡れている場合
(2007年制定 コンクリート標準仕方書[基準編] JIS規格集,255p)
なお,コンクリートの材齢により推定強度に係数をかける.(土木研究所,2001,テストハンマーによる強度推定:
( http://www.pwri.go.jp/team/structure/download/download.htm )

 テストハンマーは,まず反発錘を衝撃面から引き離し,所定の位置まで反発錘を持っていく.この時に,支えていた爪が外れる.反発錘は伸びた衝撃バネによって引っ張られて衝撃棒(プランジャー)の受け皿をたたく.さらに,衝撃バネの力に抗して反発錘が跳ね上がる.この跳ね上がり量が反発度(R:Rebound Value)で,この値から一軸圧縮強度を推定する.

 衝撃バネで反発錘が引っ張られ衝撃時に畳まれたバネを引っ張りながら錘が跳ね上がるという仕組みであるために,あらゆる方向での測定が可能になっている.

 

2.シュミット・ロックハンマー

 シュミットロックハンマー(ロックハンマー)は,ダムの岩盤評価の指標を得るために開発されたものである.テストハンマーのプランジャーがφ1.5cmであるのに対し,ロックハンマーではφ3.0cmのアタッチメントを付けて岩盤との接触面を大きくしている.
 このアタッチメントは反発度が20以下で効果を発揮し,テストハンマーの反発度が10程度の場合,ロックハンマーでは13程度の反発度となる.

 ダムの横坑内の平板載荷試験箇所の周辺でロックハンマーによる測定を実施した結果,反発度と変形係数あるいは静弾性係数との相関が高いことがわかり,また,岩盤等級とも一定の関係があることがわかった.一軸圧縮強度と反発度の関係式も提案されている.
 ロックハンマーの反発度と一軸圧縮強度などの各岩盤定数との関係は指数関数となっている.

 ロックハンマーの一軸圧縮強度換算式は次の手順で求められる.
1)岩石のテストピースにおける乾燥一軸圧縮強度と静弾性係数との関係は両対数グラフで表示するとほぼ直線となる.これは軟質岩,硬質岩を問わず同じ直線に乗る.その関係式は次のとおりである.

logD=1.0782×logσc+2.1920±0.1678
ここで,
D:静弾性係数(kgf/cm2)
σc:乾燥一軸圧縮強度(kgf/cm2)

2)静弾性係数とシュミットロックハンマー反発度の関係式は次のとおりである.

logD=0.0343×R0+3.6800
ここで,
R0:基準反発度

3)この二つの式から一軸圧縮強度と反発度の関係を求めると

σc=10^(0.0318×R0+1.3801)
(この場合,単位は kgf/cm2 である.) が得られる.

(以上は,斉藤ほか,1975および菊池ほか,1975 の数値を用いた.)

 係数は微妙に異なっているが,一軸圧縮強度と反発度の基本的な関係式は以上のとおりである.実際には,それぞれの器械の説明書の関係式を用いることになる.

schmidt1.jpg
図1 テストハンマーとロックハンマーの反発度と一軸圧縮強度の関係
 ロックハンマーは指数関数でテストハンマーは一次関数である.
 ロックハンマーは静弾性係数や変形係数との相関図も示されている.

 反発度と一軸圧縮強度の関係式は,松倉ほか(2004)にまとめられている.地形学では岩盤強度を手軽に測定できると言うことからシュミットハンマーによって岩石物性を把握する試みが比較的早くから行われていた.

 なお,松倉の一覧表では,菊池ほか(1982)の式として
σc=10^(0.0307×R0+1.4016 (MPa)
が挙げられている.
この場合,logD=0.0331×R0+3.7032である.

3.シュミット・ロックハンマーと岩盤物性値

 シュミット・ロックハンマーによる計測は,ダム調査横坑での平板載荷試験による変形試験箇所の周辺で実施し,岩盤等級および変形係数・静弾性係数との相関を求める目的で実施された.

 岩盤等級との関係ではそれぞれの岩盤等級でオーバーラップするものの一定の関係が得られ,岩盤等級区分の目安となることが判明した.

 静弾性係数および変形係数との関係は相関係数0.9以上で,反発度が大きくなるに従って対数的に大きくなるという結果が得られた.

 これらについては,菊地(1990)に詳しく述べられている.

参考文献(順不同)

■(独)土木研究所,2001,テストハンマーによる強度推定調査の6つのポイント.
(http://www.pwri.go.jp/team/structure/download/download.htm)

■土木学会コンクリート委員会,2007,2007年制定 コンクリート標準仕方書[規準編]土木学会規準および関連規準.

■(社)日本材料試験協会,1958,シュミットハンマーによる実施コンクリートの圧縮強度判定方法指針(案).材料試験,第7巻,第59号,40-44.

■木村恵雄,1956,シュミットハンマーによるコンクリート強度の判定について.材料試験,第5巻,第38号,19-26.

■松倉公徳,青木久,2004,シュミットハンマー:地形学における使用例と使用方法にまつわる諸問題.地形,第25巻,第2号,175-196.

■斉藤和雄,菊地宏吉,1975,岩盤計測におけるコンクリートシュミットハンマーの適用.岩盤力学に関するシンポジウム講演概要,9巻,61-65.

■菊地宏吉,斉藤和雄,井上大栄,1975,耐荷力を対象とした岩盤分級基準の提案.岩盤力学に関するシンポジウム講演概要,9巻,66-70.

■菊地宏吉,1990,地質工学概論,115-117.土木工学社.

■山口梅太郎,西松裕一,1991,岩石力学入門(第3版),252-255.東京大学出版会.


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