支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(1)支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(2)

支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(1)

 (2009年7月26日作成/2014年9月5日修正)

 今年は支笏洞爺国立公園指定から60年である.支笏湖も洞爺湖も10万年前から数万年前に噴火したカルデラである.特に支笏湖ではカルデラ形成時に大規模な火砕流が発生し札幌まで達している.
 札幌から国道453号を支笏湖に向かうと支笏火砕流に関係したいろいろな地質を見ることが出来る.

 今回は支笏湖とその周辺の地質と火山がもたらしたものについて述べる.


←“トップ”へ戻る

札幌軟石

 支笏火山がもたらした恩恵の一つに札幌軟石がある.現在も建材として使われており,国道453号で札幌から支笏湖へ行くとき真駒内川を渡った右手に辻石材工業株式会社があり,軟石の採掘を行っている.
 札幌軟石は明治時代から建材として使われており,一説では札幌軟石を発見したのは御雇い外国人のトーマス・アンチセルと言われているが確たる証拠はないようだ(参考 URL:http://borealoarctos.blogspot.com/).
 藻南公園の豊平川右岸に公園があり,ここで札幌軟石を見ることが出来る.また,石山緑地も札幌軟石の石切場の跡である.

shikotu01.jpgshikotu02.jpg
 豊平川右岸の藻南公園 辻石材株式会社の採掘場
 支笏火砕流の断面が見える.上部は溶結していない火山灰で,中間にやや固結した層を挟んで下部に“溶結凝灰岩”がある.
 “溶結凝灰岩”には鉛直の節理が見られる他に低角の割れ目がある.鉛直の節理は冷却節理と考えられるが,低角の割れ目の成因はよく分かっていない.
 この低角の割れ目には褐色の粘土(指感ではスメクタイト)が挟在していることがある.
 写真中央付近に右下がりの低角の割れ目が見られる.
 ここでも上部から非溶結部,中間部,“溶結部”が見られる.
 辻石材は創業が1892(明治25)年で,現在北海道で唯一,札幌軟石の採掘を行っている(参考 URL:http://www.tsuji-nanseki.com/).

支笏火砕流堆積物中の不連続面

 国道453号を支笏湖に向かう途中に道々117号恵庭岳公園線がある.現在,この道路は水精橋まではラルマナイ川に沿っている.道々に沿って上流から白扇の滝,ラルマナイ滝,三段の滝があり紅葉の名所でもある.

 三段の滝を過ぎた右手に“溶結凝灰岩”の露頭があり,その中央にエックス形の不連続面が見られる.この露頭で見る限り共役断層のように見え,圧縮方向は低角で恵庭側(東側)の傾斜しているように見える.また,柱状節理が形成されたあとに出来たとも考えられる.

shikotu03.jpgshikotu04.jpg
 支笏溶結凝灰岩中の“共役断層” 拡大写真
 一見,低角の最大圧縮応力軸を持つ共役断層のように見える.交点付近(写真中央)が破砕されているのも特徴である.  鉛直に近い節理が,低角の不連続面で10cm ほど移動しているように見える.

ラルマナイ川の低ダム群

 国道453号がラルマナイ川を横断する手前に休憩所がある.ここでは低ダム群を見ることが出来る.国道を挟んで上下流約800m のラルマナイ川に約14基の落差工(低ダム)が設置されている.
 低ダム群工法というのは,落差の大きな砂防ダムによる砂防ではなく,落差の小さな砂防ダム(床固め:高さ1m 前後)を数基設置することで土砂の移動を安定させる工法である.この工法の利点は,低ダム群間では土砂の堆積が発生し河畔林(渓畔林)が形成され,同時に河畔の森林再生による土砂抑制効果もあるとされている.

 空沼岳から支笏湖の西の丹鳴岳(になるだけ)にかけては,漁岳周辺森林生態系保護地域となっていて,特にオコタンペ湖を含む小漁岳を中心とした保存地域(コア)は,原則として人の手を加えずに自然のままの状態で保存する地域である.

shikotu05.jpgshikotu06.jpg
 国道453号の上流側の低ダム 新設された魚道付きの低ダム
 渓畦林に覆われて見えないがこの上流に9基の低ダムがある.  既存の低ダムにスリットを付け,下流に魚道を新設している.

オコタンペ湖

 オコタンペ湖は恵庭岳の噴火による溶岩流でオコタンペ川が堰き止められて形成された.この活動は約1万5千年前の En-a 降下軽石の活動後に厚い溶岩流と溶岩ドームを形成した.地形の解析状態から判断すると,オコタンペ湖を形成した溶岩流は比較的早い時期のものと考えられる.

 オコタンペ湖の展望台を過ぎて坂を下る途中にオコタンペ川に架かる第一オコタンペ橋がある.
 ここから上流側を見ると切り立った崖が両岸にそびえている.この右手の岩がオコタンペ湖を堰き止めた恵庭岳の溶岩流で,左手の岩が恵庭岳の基盤をなす漁川層の変質安山岩である.

 ところで,支笏湖にはニホンザリガニが生息していて,1915(大正4)年には天皇に献上された.しかし,1928(昭和3)年には支笏湖では見られなくなり,オコタンペ湖やオコタンペ川などで数多くの生息が確認されている.
 最近では,1999(平成11)年に美笛近くの支笏湖畔でニホンザリガニが採集されている.
 現在,どのような状況になっているのかは分からないが,「川の上流域や山間の湖沼の、水温20度以下の冷たくきれいな水に生息し、巣穴の中にひそむ。おもに広葉樹の落葉を食べる。」(ウィキペディア)というニホンザリガニの生息は環境保全状態の指標となるだろう.

shikotu07.jpgshikotu08.jpg
 漁川層変質安山岩と恵庭岳溶岩 漁川層変質安山岩
 谷の右側が恵庭岳溶岩で新鮮な感じで間隔の広い方状節理が見られる.
 左は変質した安山岩で節理が不明瞭になっている.
 変質安山岩の近景で白色に変質した部分が網状に分布している.

shikotu09.jpg
 オコタンペ湖
 オコタンペ湖は漁岳周辺森林生態系保護地域の保存地区に指定されているため湖岸への立ち入りは出来ない.
 対岸の平坦な地形は小漁岳東斜面から供給された土砂で形成されたものである.


←“トップ”へ戻る

恵庭岳登山口の降下軽石

 国道453号を支笏湖に向かって降りていくと丸駒温泉に向かう道路と千歳に向かう国道の三叉路がある.その手前右に恵庭岳登山口がある.
 登山口の入林者名簿が置いてある小屋の右手に肌色の崖がある.これが山麓に積もった 恵庭a降下軽石(En-a:1万7千年前)である.最大径10cm ほどの軽石だけから構成されている.噴火した時にはまだかなり熱を持っていて軽石同士は表面が溶融して接着していると考えられる.

shikotu10.jpg
 恵庭火山降下軽石堆積物(En-a)
 崖全体が軽石から出来ている.軽石同士が融着しているため崖面は崩れにくい.ところどころに空洞にように見えるのは軽石の積み重なりの間に出来た空隙である.

shikotu11.jpgshikotu12.jpg
 恵庭岳山頂火口北壁 第二展望台から見た山頂岩塔
 この岩壁の直ぐ北の斜面を登山道が巻いている.壁の高さは40m 程度で柱状節理が明瞭である.  そそり立つ姿は迫力がある.2003(平成15)年9月26日の十勝沖地震で崩落した箇所が白っぽく見えている.このような岩塔は地震に弱く上に開いたジグザグの亀裂が発達する.

千歳川出口付近の地形

 支笏湖温泉の先に千歳川の出口がある.王子製紙の鉄道橋であった山線鉄橋が架かっている.その先に国民休暇村がある標高280mの平坦な台地がある.この台地を千歳川の下流へ追っていくと支笏火砕流の面につながる.国民休暇村の南に478m山があり,さらにその南にモラップ山がある.478m 山とモラップ山の間の火砕流面は標高300m でさらにモラップ浜付近の火砕流面も標高300m である.この20m の標高差が何を意味しているのか不明である.

 この付近では支笏湖の湖底は水深330m 付近まで一気に下がっている.途中には崖があるらしい.このような湖底の崖はオコタン崎など何箇所かあるが,この付近が湖底の地形が最も険しくなっている.支笏湖の湖面は248m,最大水深は360m である(2万5千分の1地形図に湖底の地形も記されている).

 余談であるが,松浦武四郎日誌の図には千歳川の出口が「クツチヤロ」と記されている.

shikotu13.jpgshiotu14.jpg
 鮭鱒孵化場から見た千歳川で出口付近 山線鉄橋
 正面の山が478m 山でその陰にモラップ山(506.6m)がある.
 手前にある平らな台地が国民休暇村のある面で,千歳川沿いの支笏火砕流台地につながる.
 山の麓に赤く見えるのが山線鉄橋である.
 千歳川出口に架かる山線鉄橋で,現在は遊歩道となっている.水が澄んでいるので鉄橋からは湖の底が見える.

支笏火砕流台地

 支笏火砕流は当時の低地を埋めて流れたと考えられる.北西方向を除いて全ての方向の流れていて,札幌の石山などで”溶結凝灰岩”が建材として利用されてきた.美笛川沿いに西方に流れているほか,登別,苫小牧,千歳方向に大量に流下し一部は海に流れ込んだと考えられている(勝井ほか,2007,北海道の活火山,61p)

 これらのうちで有名なのは,白老台地と名前がついている平坦面で,千歳川出口付近から支笏湖を挟んだ対岸にその平坦面を見ることが出来る.

 支笏湖から苔の洞門の前を通って喜茂別に通じる国道276号の支笏大橋の上から見る白老台地は,背後に風不死岳,樽前山が見え,見応えがある.
 もう一箇所は王子製紙千歳第一発電所公園から見る火砕流台地である.落差130m の発電管路の頂上から眺める谷の深さと対岸の平坦面は圧倒される.

shikotu15.jpgshikotu16.jpg
 国道276号支笏大橋から見た白老台地 千歳第一発電所公園から見た火砕流台地
 平坦面と”溶結凝灰岩”の露頭が見える.
 背後の山は左が風不死岳,右に雲から少し顔を出した樽前山の溶岩ドームが見える.
 この写真では十分伝わらないが谷の深さにも圧倒される.
 見えている範囲は大体4km で,平均傾斜は約1度である.

千歳第一発電所公園

 千歳第一発電所公園は一見の価値がある.入口から展望台までオンコ(イチイ:一位=笏<しゃく>の材料としたことから,位階の一位に因んで付けられた名前である)と桜の並木になっている.
 また,支笏湖の出口直下流に設けられた第一堰堤から導水トンネルで引いてきた水を発電管路に落とす前に貯めておく調整池(貯留量=約2億2千万トン)がある.

shikotu17.jpgshikotu18.jpg
 公園入口から続くオンコの並木 満々と水を湛える調整池
 これだけの樹齢のオンコはなかなか見られない.  導水トンネルから出てきた水を貯めているため,常に水が動いている.

支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(1)支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(2)

←“トップ”へ戻る