支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(1) | 支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(2) |
今年は支笏洞爺国立公園指定から60年である.支笏湖も洞爺湖も10万年前から数万年前に噴火したカルデラである.特に支笏湖ではカルデラ形成時に大規模な火砕流が発生し札幌まで達している.
札幌から国道453号を支笏湖に向かうと支笏火砕流に関係したいろいろな地質を見ることが出来る.
今回は支笏湖とその周辺の地質と火山がもたらしたものについて述べる.
豊平川右岸の藻南公園 | 辻石材株式会社の採掘場 |
支笏火砕流の断面が見える.上部は溶結していない火山灰で,中間にやや固結した層を挟んで下部に“溶結凝灰岩”がある. “溶結凝灰岩”には鉛直の節理が見られる他に低角の割れ目がある.鉛直の節理は冷却節理と考えられるが,低角の割れ目の成因はよく分かっていない. この低角の割れ目には褐色の粘土(指感ではスメクタイト)が挟在していることがある. 写真中央付近に右下がりの低角の割れ目が見られる. |
ここでも上部から非溶結部,中間部,“溶結部”が見られる. 辻石材は創業が1892(明治25)年で,現在北海道で唯一,札幌軟石の採掘を行っている(参考 URL:http://www.tsuji-nanseki.com/). |
三段の滝を過ぎた右手に“溶結凝灰岩”の露頭があり,その中央にエックス形の不連続面が見られる.この露頭で見る限り共役断層のように見え,圧縮方向は低角で恵庭側(東側)の傾斜しているように見える.また,柱状節理が形成されたあとに出来たとも考えられる.
支笏溶結凝灰岩中の“共役断層” | 拡大写真 |
一見,低角の最大圧縮応力軸を持つ共役断層のように見える.交点付近(写真中央)が破砕されているのも特徴である. | 鉛直に近い節理が,低角の不連続面で10cm ほど移動しているように見える. |
空沼岳から支笏湖の西の丹鳴岳(になるだけ)にかけては,漁岳周辺森林生態系保護地域となっていて,特にオコタンペ湖を含む小漁岳を中心とした保存地域(コア)は,原則として人の手を加えずに自然のままの状態で保存する地域である.
国道453号の上流側の低ダム | 新設された魚道付きの低ダム |
渓畦林に覆われて見えないがこの上流に9基の低ダムがある. | 既存の低ダムにスリットを付け,下流に魚道を新設している. |
オコタンペ湖の展望台を過ぎて坂を下る途中にオコタンペ川に架かる第一オコタンペ橋がある.
ここから上流側を見ると切り立った崖が両岸にそびえている.この右手の岩がオコタンペ湖を堰き止めた恵庭岳の溶岩流で,左手の岩が恵庭岳の基盤をなす漁川層の変質安山岩である.
ところで,支笏湖にはニホンザリガニが生息していて,1915(大正4)年には天皇に献上された.しかし,1928(昭和3)年には支笏湖では見られなくなり,オコタンペ湖やオコタンペ川などで数多くの生息が確認されている.
最近では,1999(平成11)年に美笛近くの支笏湖畔でニホンザリガニが採集されている.
現在,どのような状況になっているのかは分からないが,「川の上流域や山間の湖沼の、水温20度以下の冷たくきれいな水に生息し、巣穴の中にひそむ。おもに広葉樹の落葉を食べる。」(ウィキペディア)というニホンザリガニの生息は環境保全状態の指標となるだろう.
漁川層変質安山岩と恵庭岳溶岩 | 漁川層変質安山岩 |
谷の右側が恵庭岳溶岩で新鮮な感じで間隔の広い方状節理が見られる. 左は変質した安山岩で節理が不明瞭になっている. |
変質安山岩の近景で白色に変質した部分が網状に分布している. |
オコタンペ湖 |
オコタンペ湖は漁岳周辺森林生態系保護地域の保存地区に指定されているため湖岸への立ち入りは出来ない. 対岸の平坦な地形は小漁岳東斜面から供給された土砂で形成されたものである. |
恵庭火山降下軽石堆積物(En-a) |
崖全体が軽石から出来ている.軽石同士が融着しているため崖面は崩れにくい.ところどころに空洞にように見えるのは軽石の積み重なりの間に出来た空隙である. |
恵庭岳山頂火口北壁 | 第二展望台から見た山頂岩塔 |
この岩壁の直ぐ北の斜面を登山道が巻いている.壁の高さは40m 程度で柱状節理が明瞭である. | そそり立つ姿は迫力がある.2003(平成15)年9月26日の十勝沖地震で崩落した箇所が白っぽく見えている.このような岩塔は地震に弱く上に開いたジグザグの亀裂が発達する. |
この付近では支笏湖の湖底は水深330m 付近まで一気に下がっている.途中には崖があるらしい.このような湖底の崖はオコタン崎など何箇所かあるが,この付近が湖底の地形が最も険しくなっている.支笏湖の湖面は248m,最大水深は360m である(2万5千分の1地形図に湖底の地形も記されている).
余談であるが,松浦武四郎日誌の図には千歳川の出口が「クツチヤロ」と記されている.
鮭鱒孵化場から見た千歳川で出口付近 | 山線鉄橋 |
正面の山が478m 山でその陰にモラップ山(506.6m)がある. 手前にある平らな台地が国民休暇村のある面で,千歳川沿いの支笏火砕流台地につながる. 山の麓に赤く見えるのが山線鉄橋である. |
千歳川出口に架かる山線鉄橋で,現在は遊歩道となっている.水が澄んでいるので鉄橋からは湖の底が見える. |
これらのうちで有名なのは,白老台地と名前がついている平坦面で,千歳川出口付近から支笏湖を挟んだ対岸にその平坦面を見ることが出来る.
支笏湖から苔の洞門の前を通って喜茂別に通じる国道276号の支笏大橋の上から見る白老台地は,背後に風不死岳,樽前山が見え,見応えがある.
もう一箇所は王子製紙千歳第一発電所公園から見る火砕流台地である.落差130m の発電管路の頂上から眺める谷の深さと対岸の平坦面は圧倒される.
国道276号支笏大橋から見た白老台地 | 千歳第一発電所公園から見た火砕流台地 |
平坦面と”溶結凝灰岩”の露頭が見える. 背後の山は左が風不死岳,右に雲から少し顔を出した樽前山の溶岩ドームが見える. |
この写真では十分伝わらないが谷の深さにも圧倒される. 見えている範囲は大体4km で,平均傾斜は約1度である. |
公園入口から続くオンコの並木 | 満々と水を湛える調整池 |
これだけの樹齢のオンコはなかなか見られない. | 導水トンネルから出てきた水を貯めているため,常に水が動いている. |
支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(1) | 支笏湖とその周辺−地質と火山の恩恵−(2) |