膨潤性粘土鉱物の簡易判定法

(1) 粘土鉱物の呈色反応
(2) 携帯型変質鉱物同定装置
(3)指感による判定
(4) 実際にはどうするのがいいか
(5) 粘土鉱物と有機分子の複合体(おまけ)


 膨潤性粘土鉱物を現場で迅速に安く判定したいという要請は古くからあった.
 孔壁保持のために大量のベントナイト(モンモリロナイトを主成分とし石英,クリストバライトなどを含む粘土状物質)を使う石油鉱業ではメチレンブルーの呈色反応を利用してベントナイト濃度を判定している.このような呈色反応を利用して迅速に膨潤性粘土を同定しようという試みも古くから行われてきた.

 金属鉱床探査では鉱床周辺の変質帯を追跡し金属鉱床本体に迫るのが常道である.そのためには大量の粘土鉱物を同定しなければならない.X線回折試験がもっとも確実であるが,迅速性と経済性から携帯型変質鉱物同定装置が開発された.
 ここでは,多少の判定間違いは覚悟で土木の現場で簡単に出来る膨潤性粘土鉱物の簡易判定法について私案を述べる.簡易判定法で膨潤性を示すと判断された試料はX線回折試験を行い最終的に粘土鉱物を同定する.


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(1) 粘土鉱物の呈色反応

 土木工事で有害な作用をする膨潤性粘土鉱物の代表はスメクタイト(モンリロナイト)である.この膨潤性粘土を簡単に判別する方法として,古くから呈色反応が利用されてきた.
 いろいろな色素はスメクタイトに特有の呈色反応を示す.パラアミノフェノール(p-C6H7NO)はもっとも多くの粘土に特有の呈色反応を示し,モンリロナイトは青〜青緑色,カオリナイトは桃〜褐色,雲母粘土鉱物(セリサイトなど)は肉色を示す(須藤,1974).
 色素でないベンチジン(C12H12N2)やパラフェニレンジアミン(p-C6H8N2),ビタミンA(肝油を利用できるという)をモンリロナイトに滴下すると濃青〜濃緑色を呈するという(同上).
 鈴木(1986)は変質安山岩でパラフェニレンジアミンによる呈色試験と各種室内試験を行い,パラフェニレンジアミンによる呈色反応の強さは,生成しているモンリロナイト量に依存し乾燥比重あるいは一軸圧縮強度に関係があるとしている.
 パラフェニレンジアミンは空気に触れると酸化しやすく,また光に当たると変質するので使用するたびに水飽和溶液を作成し褐色の瓶に入れておく必要がある.試薬は透明で室内に飛散すると紙などがボロボロになるので取り扱いには十分な注意が必要である.

(2) 携帯型変質鉱物同定装置

 「携帯型変質鉱物簡易同定装置 (POSAM=Portable SpectroRadiometer for Mineral Identification)」という機械がある.
(https://www.geotechnos.co.jp/service_products_hard.htmlより).
 鉱物の特徴的な分光スペクトル特性を利用して粘土鉱物,炭酸塩鉱物,硫酸塩鉱物の同定を行う.対象鉱物は40種類で測定時間は,10秒以下である.大量の粘土の同定を行う場合には,このような装置の利用が有効である.
 ただし,鉱床探査のように大量のサンプルを処理する場合でないと経済的ではない.

(3) 指感による判定

 人間の指先は非常に鋭敏である.シルトと粘土の区別は指で十分に可能であるし,同じ枚数の紙をそろえるのには紙の山を幾つか作って指でその段差を確かめればほとんど間違いなく枚数をそろえることができる.
 粘土鉱物の同定も慣れてくると指感で十分可能である.特に,スメクタイトは独特の指感があり一度覚えればほぼ間違いなく同定することができる.すなわち,指先で延ばした時に強く粘りつくような感じがある.

 トンネル切羽で著しく粘土化した地山が出現し,「この粘土がモンモリロナイトであればDIIパターンにしてもらえるのだけど」という相談を受けたことがある.指で触ったところ,モンモリロナイト特有の粘り気が無く色から判断して緑泥石ではないかと判断した.
 工事担当者はあきらめきれずX線回折試験をしてくれと言うことでやってみたが,モンモリロナイトは検出されなかった.ただし,緑泥石とモンモリロナイトの混合層粘土鉱物が膨潤性を示すことが知られている.

 カオリナイトは比較的サラサラした感じであり,雲母粘土鉱物(セリサイトなど)はツルツルした感じで絹糸光沢を示す(「熱水変質と建設工事」参照).

(4) 実際にはどうするのがいいか

 トンネル工事では膨潤性粘土が含まれているかどうかは前述のように大きな問題となる.
 例えば,日本道路公団の設計要領第三集では,注意すべき岩石として「蛇紋岩や変朽安山岩,黒色片岩,泥岩,凝灰岩等で膨張性が明確に認められたならば,DIIまたはEに等級を落とす.」(設計要領第三集,2009,p80 )としている.この場合,膨潤性粘土であるスメクタイトがかなりの量で含まれていることが一つの目安となろう.X線分析(X線回折試験)で粘土鉱物を同定すればよいのであるが,費用と時間から数多くX線回折を行うことは難しく,昔から膨潤性粘土の簡易判定法があればよいと言うのが現場の要請であった.しかし,現在まで膨潤性粘土鉱物の決定的な簡易判定法は開発されていない.

 スメクタイトを検出するにはパラフェニレンジアミンの水飽和溶液での呈色反応が有効と思われる.しかし,建設工事現場で行うには試薬の入手・保管などの問題があり,あまり実用的ではないかもしれない.

<簡易浸水崩壊度試験+X線分析>

 一つの方法としては「簡易浸水崩壊度試験」+X線分析が考えられる.この方法はあくまでも現場で粘土鉱物の膨潤性を判断する一つの目安であるが,それなりの説得力はあると考えている.

1) トンネル切羽なり切土斜面なりで採取した試料をタッパーウェアなどの容器に入れ浸水前の写真を撮る.
2)そのまま浸水させて崩壊度を見る.
3)1時間くらいを目安として浸水後の写真を撮る.この時,水分を含んだ粘土に独特の粘り気があるかどうか指感で判定する.
4)以上のような簡易試験を行った上で,浸水崩壊が著しく,指感でスメクタイトと判定できた試料についてX線回折を行い粘土鉱物の同定を行う.

 注意しなければならないのは,スメクタイト含有量あるいは含有の有無が地山の膨張性の主原因であるとは考えられないという報告があることである.
 例えば,土井ほか(1989)はモンリロナイトの含有量を変えた人工泥岩を作成し各種室内試験を行った結果を報告している.
 それによれば,浸水崩壊度試験(24時間強制乾燥)ではモンリロナイトの含有量が多いほど崩壊しづらかったという結果が得られている.つまり,浸水崩壊度は粘土の吸水膨張の指標としては使用できず,塑性流動するかどうかの判定に使える可能性があるとしている.

(5) 粘土鉱物と有機分子の複合体(おまけ)

 スメクタイトは粘土鉱物の中でも特に結晶が微少で層状の結晶構造の層間に有機化合物が入り込み(インターカレート)層間化合物を形成する.最近ではスメクタイトの呈色反応を利用して熱転写型カラープリンターの発色剤への適用が行われている.
 さらに,有機高分子に粘土鉱物などの無機フィラー(詰め物)を添加した複合材が造られており,フィラーの大きさが1〜10nm(ナノメートル)のものをナノコンポジットと呼ぶ.このような研究・開発が盛んになったきっかけは豊田中央研究所がナイロン/モンモリロナイト系ナノコンポジットの開発に成功してからである.
 (この項は「粘土科学への招待」による)


参考文献

須藤俊男,1974,粘土鉱物学,p277.岩波書店 .
鈴木哲也,1986,パラフェニレンジアミンによる変質安山岩の分類について.土木試験所月報,No.395,17-21.
土井則夫,稲葉力,平田篤夫,石山宏二,1989,泥岩の膨張性を判定するための指標.土と基礎,37巻,5号,53-58.
日本道路公団,設計要領 第三集 トンネル (1) トンネル本体工建設編,1997.
須藤談話会編,2000,粘土科学への招待−粘土の素顔と魅力−.三共出版.


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