本の紹介「地すべり線の形状推定法」

(2013年12月20日作成)

 地すべりが発生した直後に応急対応する時,地すべりの形状を把握することは非常に重要である。平面的な外形は踏査によって,ほぼ把握することができる。しかし,ボーリングをする前にすべり面深度を決める方法は,統計的に地すべりの平面形状から推定する方法が用いられることが多い。
 すべり線推定法というのは,地表変位データを用いて地すべり断面でのすべり面の形を推定する方法である。

 ここでは,(独法)土木研究所ほか編著,2013,地すべり線の形状推定法,鹿島出版会(以下,推定法と言う)の概要を紹介する。


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基本的考え方

 すべり線推定法は,地すべり土塊中の地表面で観察・観測される変位ベクトル−鉛直方向成分−が,その地点の地下にあるすべり線の傾斜と同じであるという仮定に基づいている。

 すべり線の頭部あるいは末端は踏査などによって確定できるので,この点を出発点としてすべり線を断面図に描いていく。
 すべり線推定法では,次のような仮定を設ける。

  1. 地すべりの発生によって,地山は亀裂や段差で分断されて,いくつかの地すべり土塊となる。
  2. 分断されたそれぞれの地すべり土塊は,剛体的な動きを示し,それ自体に大きな変形が生じることなくすべり線上を滑動する。
  3. 地すべり土塊の内部の変形量は,すべり線上の地すべり全体の変位量に比べて無視できる。
  4. 地すべり土塊の地表面に設定された変位追跡点の軌跡は,その点の鉛直下方に形成されているすべり線と平行になる。
 このような仮定があるので,すべり面推定法を適用できる地すべりは限られてくる。つまり,移動土塊が複雑な動きをしている地すべり,ブロックが複数存在する階段状すべりや層状すべりでは,地表面変位ベクトルの鉛直成分が大きくなる地点があり,すべり面ベクトルと一致しないことが起こる。

suberisen.jpg
図1 多角形平衡法によるすべり線の推定(推定法,12pによる)
 この例では,地すべりを3つのブロックに分けて地表面変位を求めている。地すべり末端がはっきりしている場合,下端境界点から出発してブロック毎に地表面変位ベクトルに平行な線(推定すべり線)を描く。
 上端境界点が実際と異なる場合には補正を行う。

すべり線推定法の手順

 この手法は,斜面災害が発生した直後に地下のデータが無い状態で,地表面の変位ベクトルからすべり面の深度を精度良く推定するための方法である。そのためには,地すべりブロックが,どのような動きをしたのかを可能な限り正確に把握する必要がある。

 まず地すべりブロック内の踏査を行い,動きの単位(ブロック)を把握し,変位を示す現象から推定できる変位方向をつかむ必要がある。地すべり縦断方向に何点か変位ベクトルを把握できれば,最も簡単な多角形平衡法によってすべり線を推定することができ,大まかなすべり面深度を設定できる。
 この結果にもとづきボーリング計画などを立案することも可能であろう。

 踏査によって地すべり全体の移動方向や対策工検討に必要な主測線を設定し,それに沿って地表変位ベクトルデータを取得するための計測を実施する。

 地表面変位ベクトルのデータが取得できたら,すべり線推定システムによって断面モデルを作成し,計測データを入力してすべり線推定解析を行う。

 大事なことは,解析結果が現地と矛盾しないかの検討を必ず行うことである。

suberisen_flow.jpg
図2 すべり線推定の流れ図(推定法,3pによる)
 すべり線の推定結果が出たら,もう一度,地表踏査を行って推定結果に矛盾がないか検討する。

「地すべり線の形状推定法」の目次

 「地すべり線の形状推定法」の目次は次のとおりである。