膨張性地山

1 膨潤性地山の定義
2 理学的側面
3 工学的側面
4 膨張性地山の例

 膨張性地山はトンネル掘削や切土工事で大きな変位が発生し難工事となることが多い.膨張性を示す原因は,水を吸収し体積膨張するスメクタイトなどの粘土鉱物の存在が大きい.
 なぜ,粘土鉱物が膨張するのかのメカニズムを説明し,トンネルで膨張性押出しが発生したトンネルの事例を紹介する.


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1 膨潤性地山の定義

 土木でいう膨張性地山(swelling rock)とは,
「山岳トンネルの掘削にあたってトンネル内空を縮小するように,はらみだしてくる地山」(土木用語大辞典p1167)
のことをいう.

 これに対して,押出し性地山(squeezing ground)というのは,
「トンネル掘削に伴って地山周辺に生じた応力が地山強度をこえて地山が塑性化した場合に,見掛け上,塑性流動的に地山がトンネル内に向かって押し出してくるように,外力が作用し変形する地山」(同p122)
のことをいう.

 膨潤性地山(swelling ground)というのは,土が吸水して膨張するような地山のことを言い,水が粘土鉱物の結晶の層間に取り込まれて膨潤することが原因である.

 土木工事で扱いが面倒な膨張性土圧(地圧)は,
a)地山中の粘土鉱物が吸水や除荷により結晶構造の層間に水を含んで体積増加して発生する場合
b)地山が周辺の地圧(土圧)に対抗できるほどの強度を持っていないために,塑性流動的な変位により発生する場合
とがある.

 一般的には,トンネル壁面や底盤の押し出しが有名であるが,大規模構造物の掘削や長大切土の掘削でも発生するし,干拓堤防でも膨れ上がりが発生する.

2 理学的側面

 粘土鉱物は,酸素の正四面体の中心に珪素が位置している珪素-酸素の四面体がシート状に配列している.四面体の底辺には三つの酸素(底辺酸素)があり,頂点には一つの酸素(頂点酸素)がある.牛乳のテトラパックを敷き詰めたものが層をなしていて三角の頭どうしをくっつけている状態を創造すればよい.テトラパックの4つの角に酸素があり,中に酸素が一つ入っていることになる.

 

 頂点酸素が配列する層に(OH)イオン(水酸基)がある.二つの四面体シートの頂点酸素に挟まれた部分に,MgやAlのイオン(陽イオン)が8面体を構成して位置している.これが基本的な構造で,底辺酸素どうしの間に層間域が形成され,ここにHOや(OH)イオンが挟在している.

図1 粘土鉱物の四面体と八面体

 粘土鉱物に含まれる水は,粒子の表面に吸着する吸着水,粘土鉱物の結晶の層間域に含まれる層間水,構造の内部に(OH)の形で含まれる水酸基の三つがある.吸着水の脱水は粘土鉱物の構造に変化を及ぼさないが,層間水,(OH)水の脱水は構造変化をもたらす.

 層間水を持つ鉱物は,バーミキュライト群,スメクタイト,ハロイサイトである.これらの鉱物は層間水を持った状態で安定であり,脱水により単位構造の高さが減少する.

 スメクタイトの中のモンモリロナイトは膨潤性を示す代表的粘土鉱物であるが,単位構造の高さは,15.4Å程度である.これに水を加えペースト状にすると,単位構造の高さは20Å程度(もとの高さの1.3倍)まで大きくなる.水は積極的に層間に吸い込まれて層間を開く.この現象を内部膨潤という.塩化ナトリウムなどの塩類溶液の中では単位構造は,120Å程度まで大きくなることが実験的に確かめられている.

 膨潤性粘土の膨潤量を測定すると内部膨潤だけでは粘土に吸水される水の量を説明できない.これは,粘土鉱物の粒子間に含まれた水が粒子間膨潤を起こしているためであるとされている.

 粘土鉱物の粒子は底辺酸素の面で剥離しやすく,そこに水が浸透していくのであろう.このような粒子間に水が浸透することにより生ずる膨潤を外部膨潤とよんでいる.
 コンシステンシー(含水量の変化による細粒土の変形抵抗の大小),ティキソトロピー(練り混ぜた微細粒土が時間の経過とともに粘着力を回復させる現象),可塑性(外力により連続的に変形し元の形に戻らない現象)などはこのような粒子表面での水との交互作用で生ずる.

図2 層間水を含む粘土鉱物の層構造

 最近の粘土科学の発展はめざましいのもがあり,その結果,粘土の膨潤性は次のように考えられている.

 膨潤性を示す典型的な粘土鉱物は,モンモリロナイトである.

 モンモリロナイトは,スメクタイトの一種で,層間イオンの種類により Na,Ca,Mgの3型がある.このうち膨潤性を示すのは,Na型である.モンモリロナイトの層間の結合力はファンデルワールス力であるが,Na+が層間にあると水とNa+イオンの結合力がこの層間結合力に勝るために水が層間に取り込まれ膨潤する.

  一方,モンモリロナイトの一つ一つの鉱物粒子は,ほかの粘土鉱物と比べても非常に小さい.水溶液中では,モンモリロナイトの表面に分布するNa+と水溶液の濃度差により浸透圧が働く.この粒子間の浸透圧は,例えば膨潤性マイカ(雲母)では,理論的には約1.5MPa(150tf/m2)程度と言われており,強大な地圧が作用する原因となる.

 つまり,粘土鉱物内の層間に水分子が吸着されることおよび粘土鉱物粒子間に浸透圧が働くことにより膨潤作用が発生する.

 図3 粘土粒子の大きさとその周りの水の層

3 工学的側面

 膨張性地山は,泥岩や凝灰岩,変質した火山岩類が膨潤性粘土を含んでいる場合に出現する.膨張性地圧(土圧)が発生する機構は,膨潤性粘土が層間に水を含み体積が倍程度に増加することによって発生する.

 しかし,この作用のみが膨張性地圧の原因ではないとする考えがある.これは,せん断破壊説といわれるものである.基本的にせん断破壊説を取りながら,せん断面の吸水膨張とそれによる岩盤の急速な強度低下が膨張性地圧発生の上で本質的に重要であるとしたのが仲野(1975)の考えである.以下,仲野の考え方を説明する.


 一般の岩盤では,側圧係数(鉛直応力に対する水平応力の比)が1/3より小さいことも多い.その場合,掘削によりトンネル天端に作用する鉛直応力が大きくなり天端に引張応力が発生する.岩の引張強度は圧縮強度の1/8〜1/12程度であると予想され,天端付近の岩盤は引張破壊が発生して緩む.

 これに対して,泥岩や凝灰岩,蛇紋岩,変質した安山岩などでは,側圧係数が1に等しいかそれより大きいことがある.
 側圧係数=1の場合,岩盤の圧縮強度が初期地圧の2倍より小さいとトンネル周辺の岩盤は圧縮せん断破壊を受けて,周辺に破壊領域が形成される.
 膨潤性粘土を含む岩盤では,このせん断破壊面に沿って水が滲みだし急速に岩盤を劣化させ強度が著しく低下する.その結果,異常な膨張性地圧が発生する.
 このような吸水による強度低下は,泥岩のように透水性が低い岩盤でも発生することに注意が必要である.特に,建設中のトンネルでは,空気の循環はそれほどよくなく,空気中の水蒸気が岩盤面に付着することでも岩盤の劣化が発生する.

 このような機構は,基本的には軟岩でのもので,岩盤の変形挙動に対する割れ目の効果が無視できる場合に適用される.


 トンネル掘削で押し出し性地圧が発生する目安となっている地山強度比の考え方は,以上のような背景を持っている.実際には,地山強度比が1以下の場合に強大な膨張性地圧が発生し,縫い返し等を行わざるを得なくなることが多い.

4 膨張性地山の例

北越北線鍋立山トンネル

 膨張性地山での難工事として有名なのは,鉄道トンネルでは北越北線の鍋立山トンネルである(土井ほか,1990.小暮ほか,1995).

トンネル名 北越北線鍋立山トンネル
トンネル延長 9,116.50m
場所 新潟県東頚城郡松代町〜大島町
地質

 新第三紀中新世後期から更新世前期にかけての泥岩・砂岩・凝灰岩からなる.トンネル坑口付近は砂岩の薄層を有する比較的硬質な泥岩であるが,中央部では極めて軟質な泥岩が出現しかつガスが突出する.この地域は日本有数の活褶曲地帯であり,褶曲活動による上下動は現在も続いている.調査段階で地質構造に起因す潜在応力の解放が指摘されたが,確認はされていない.

 トンネル中央部の地山弾性波速度は土被りが150m程あるにもかかわらず2.0km/sec以下でほとんどが1.5km/sec程度である.

最難工事区間の状況:
 最難工事となったのは,中(6)工区 と言われる工区であった.
 この工区では,一番始めはショートベンチ工法を基本とした.しかし,仮インバートが80cm-100cm程押し出し,内空変位が30-50cmに達した.
 そこで,導坑先進ショートベンチ工法に切り替えた.導坑の長さ 3-4m、ベンチ長を15m程度に保ちながら掘進し50m程掘進したが,仮インバート・本坑支保の変状が著しくなった.
 このため,中央導坑先進工法に変更した.この工法の利点は次の通りである.

  • 本坑切り拡げ時の地山応力が均等になる.
  • 本坑切り拡げ時に導坑がアンカーとなり鏡の押し出しを抑制する.
  • 導坑のデータが本坑掘削時に活用できる

 中央導坑は直径2.72mであるが,上下2分割で人力により掘削した.掘削に伴う切羽の押し出しは,1サイクル25cmの掘進に対し 50-100cm であったものが次第に増加し,1サイクルあたり200-300cmとなり,支保工の座屈,ヘドロ状の泥土・ガスの噴出により掘削を中止せざるを得なくなった.
 すなわち,掘削した長さより押し出し量の方が大きく上回る状況となってしまったのである.
 掘削を進めるために,中央導坑掘削用のトンネルボーリングマシン(TBM)を開発した.1989年(平成元年1月11日)より掘削を開始したが,約1ケ月後に天端の崩落が激しくなりTBMを後退させざるを得なくなった.TBM発進導坑の出口(掘削切羽から約60m後方)まで押し戻されたが,なお押し出しは止まらなかった.本坑にスチールファイバーを混ぜた厚さ3mのバルクヘッドを築き押し出しを止めた.累計押し出し距離は約100mに達し,TBMは発進導坑の入り口から40m後方まで押し出されてしまった.

 その後,いろいろな工法を採用しながら掘削したが,盤ぶくれ,天端沈下,切羽の押し出しにより掘削不能となった.
 そのため中央導坑を早期に完成させガス抜き効果と本坑掘削時に切羽の押し出しを抑制する導坑のアンカー効果を期待することとした.
 導坑掘削は,二重管方式で削孔し,高強度セメント系注入材で地山を改良しながら行った.
 中央導坑を切羽のアンカーとして本坑を切り拡げたが,導坑には切羽から 3-5m 離れたところで,3,000tもの引張り力が発生した.
 本坑は直径7.8mの円形断面で 1-1.5m の超ミニベンチ方式で掘削した.支保は175Hと150Hの二重支保工とし吹付けコンクリートはファイバー入りで厚さ37.5cm,変形余裕量は上半150mm,下半100mmとした.
 導坑は1992年に貫通し,1995年に本坑掘削が完了した.着工から21年目であった.


鍋立山トンネルの地山特性は次のようにまとめられている.

  • 構成土粒子が非常に細かい.
  • 塑性指数が大きい.
  • 土被りに比べ一軸圧縮強度がきわめて小さい.

 さらに,メタンガスを主成分とした可燃性ガスが潜在しており,ガスの最大圧は17kg/cm2であった.また,粘性土地山であるためにガスが抜けにくく,ガス圧が膨張性を促進させている.

 以上のように鍋立山トンネルは切羽の押し出しにより掘進不能となり,中央導坑を切羽止めのアンカーとして掘進したが,それでも切羽が持たず,切羽からのロックボルトと矢板による鏡押さえを行い,9分割の加背割りで地山の変位を抑えながら掘削するという難工事であった.

 鍋立山トンネルの平面図等は、参考文献に示した「トンネルと地下」を参照のこと.


上信越自動車道日暮山トンネル

 道路トンネルで膨張性地山に遭遇し難工事となったのは,上信越自動車道日暮山トンネルである(中村ほか,1993).

トンネル名 上信越自動車道日暮山(にっくれやま)トンネル
トンネル延長 2,223m
場所 群馬県と長野県の県境近くで長野県軽井沢の南方約6km
地質

 この付近の地質は,新第三紀中新世の泥岩(井戸沢層)と安山岩質凝灰角礫岩(本宿層相当層の妙義層)および中新世〜鮮新世の貫入岩である安山岩とからなる.
 東京側坑口から約930m(STA560+30)付近までは泥岩と安山岩であったが,特に大きな問題は発生していない.安山岩区間では支保パターンBで施工できた.
 STA560+30付近から泥岩が出現し始め変位量が大きくなり,何回も縫い返しを行って掘進した.さらに,STA561+10付近から湧水が伴うようになった.
 トンネルは泥岩とその上位の妙義層の凝灰角礫岩の境付近を掘削することになり,支保パターンを試行錯誤で変更し,かつ断面確保のための縫返しを繰り返しながら掘削した.
 地質劣化部の延長は約420mであった.

施工状況

1)泥岩区間で採用した補助工法は次の通りである.

  • 薬液注入工法
  • 上半仮インバート施工
  • 水抜きボーリング
  • 上半断面内の円形導坑からの薬液注入,長尺フォアパイリング

2)367mの泥岩区間の掘削に2年10ヶ月を要した.

3)二次覆工の補強
 二次覆工コンクリートにクラックが発生したため,樹脂注入と炭素繊維シートによる補強を行った.

 なお,泥岩区間を抜けたあと,このトンネルは安山岩区間に入り,支保パターンはBおよびAで施工した.ある程度の土被りがある貫入岩ではBパターンを適用できる.
 日暮山トンネルの平面図等および日暮山トンネルの支保パターンの例などは「トンネルと地下」参照のこと.


表1 新潟地方の新第三紀泥岩の地山特性値(小暮ほか,1995,p10)

 代表的な第三紀泥岩の物性値の特徴をまとめると以下のようになる.

代表的な第三紀泥岩の物性値一覧

  • 単位体積重量が 2.0gf/cm3 前後
  • 粘土分が50% 以上
  • 地山強度比が2を大きく下回っている.

参考文献

(2001年3月5日更新,2011年11月9日修正,2014年9月12日第2回修正) 


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