ティルは「流動する氷河中に取り込まれ運搬された岩屑が氷体の衰退に伴って解放され,その場に堆積した無淘汰で無層理の堆積物の総称.このような堆積物が特定の地形をつくったものをモレーン(堆石または堆石列)とよんで区別する.」(地形学辞典).
氷河上ティル |
アブレーションティル |
氷河の周辺から落下してきた岩塊が氷河表面に堆積し,氷河が融けたときに堆積したもの. |
フローティル |
アブレーションティルが氷河末端での氷の融解に伴った流動性に富んだ状態で二次的に堆積したもの. |
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氷河上メルトアウトティル |
氷河が運動を休止したときに,氷河内の岩屑が解放されて堆積したもの. |
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氷河下ティル |
ロジメントティル |
流動中の氷河の基底で形成されるもので,氷河底面から剥離した岩屑が基盤岩上に堆積したもの.このティルは,氷河底面を引きずられて運搬された砂礫から成るので,擦痕礫を含み,氷河流動および圧力の影響を受けた明瞭なファブリックを持つ. |
氷河下メルトアウトティル |
氷河底面の融解により氷河中の岩屑が底面に集積したもの. |
(地形学辞典,堆積学辞典,地学事典による)
年代 |
氷期・間氷期 |
記事 |
同位体ステージ |
0〜1.3万年前 |
完新世(後氷期) |
気候が安定するのは1.16万年前頃からである. |
1 |
1.3〜7.1万年前 |
ウルム氷期(最終氷期) |
2.4〜1.3万年前が全面的氷期.1.3〜1.0万年前はやや気温は低く晩氷期とよばれる. |
2,3,4 |
7.1〜12.8万年前 |
R/W間氷期 |
13〜11.5万年前(5e)が完全な温暖期. |
5a,b,c,d,e |
12.8〜18.6万年前 |
リス氷期 |
16万年前頃からもっとも寒冷となり,13万年前頃から急速に温暖になる. |
6 |
18.6〜24.5万年前 |
M/R間氷期 |
22万年前頃に寒冷期がある. |
7 |
24.5〜30.3万年前 |
ミンデル氷期 |
海水準の低下はウルム氷期の3万年前頃に相当し,あまり大きくない. |
8 |
30.3〜42.3万年前 |
G/M間氷期 |
34〜36万年前(10)に寒冷期がある. |
9,10,11 |
42.3〜80.0万年前 |
ギュンツ氷期 |
73.6万年前から新しい時代ははブリューヌ正磁極期.これ以前は松山逆磁極期.同位体ステージ12(42.3−47.8万年前),16(62.0−65.9万年前)の二つのステージがもっとも寒冷. 温暖期は次の通り.温暖期期間は全体の45%. 47.8〜52.4(13):4.6万年間 56.5〜62.0(15):5.5万年間 65.9〜68.9(17):3.0万年間 72.6〜73.6(19):1.0万年間 |
12-22 |
80.0〜85.0万年前 |
D/G間氷期 |
比較的安定した温暖期. |
23 |
85.0〜135.0万年前 |
ドナウ氷期 |
110〜120万年に間氷期.90〜95万年前にハラミロ正磁極期. |
− |
135〜160万年前 |
間氷期 |
2回の大きな寒冷期がある. |
− |
160〜195万年前 |
ビーバー氷期 |
オルドヴァイ正磁極期 |
− |
(地形学辞典,氷河時代の世界(湊,1970),縞々学(川上,1995),北海道の自然史(小野,五十嵐,1991)などによる)
天然の酸素は,質量数16,17,18の3種類の安定同位体がある.16Oに対する17O,18Oの割合の存在比を酸素同位体比という.一般に,地球科学では地球上の標準平均海水(SMOW)の値に対する岩石や氷などの18O/16O比のずれを‰で表したものを酸素同位体比(δ18 O)とよんでいる.
δ18 O(‰)={( 18O/16O)sample/(18O/16O)SMOW−1}×1,000
例えば,25万年間の氷床コアの酸素同位体比(δ18)は,温暖期の−32‰から寒冷期の−42‰の範囲で変化しているというデータがある.これは標準平均海水に対する氷の同位体の割合(α=( 18O/16O)ice/(18O/16O)SMOW:αは同位体分別係数という)が,0.968〜0.958の範囲で変化していることを示している.寒冷期には,海面から蒸発した水分は氷床や山岳氷河として陸上に固定される.この時,軽い同位体である16Oがより多く蒸発し陸上に固定されるので,同位体分別係数は小さくなる.
また,深海底コアの有孔虫の殻では,δ18 Oは−2.0‰(温暖期)から−0.7‰(寒冷期)の範囲で変動している.この場合は,同位体分別係数は0.9980〜0.9993の範囲で変化していることになる.有孔虫の場合は,水温が下がると殻に取り込まれる18Oの量が多くなるほかに,海水中の18Oもより多く取り残されるので多くなる.つまり,寒冷期には同位体分別係数(α)が大きくなる.
酸素同位体の存在比
同位体 |
存在比(%) |
16O |
99.76 |
17O |
0.04 |
18O |
0.20 |
標準平均海水とは,水の標準試料(NBS−1)に対し一定の同位対比を持つ海水のことで酸素同位体では,(18O/16O)SMOW=1.008/(18O/16O)NBS-1となる.現在は,国際原理力機関(IAEA)が作成した標準平均海水を用いる.
酸素同位体比の変動の説明は,日本地質学会の「地質基準」(2001,p49-50,共立出版)の説明が分かりやすい.
酸素同位体ステージは奇数が間氷期,亜間氷期,偶数が氷期である.現在最も古いステージは23でドナウ−ギュンツ間氷期に相当する.
氷河サイクルは急激な温度上昇による間氷期で始まり,次第に気温が低下して最も寒い時期を迎えるというパターンを示している.最終間氷期については,ステージ5eのみを氷期に限定する考えもある.
氷河や氷床が最も拡大するのは,もっとも寒冷な時期ではなく気温はそれほど低くないその手前の時代である.これは,最寒冷期には水蒸気の発生が少なくなるためである.北アルプスで言えば,65万年前の室堂氷期とよばれる時期に最も氷河が広がったと考えられている.
ティルが問題となるのは,日本アルプスでの大規模崩壊土砂供給源あるいは地すべり発生素因物質としてである.ティルの中でも特に問題となるのは,粘性土を含むフローティルとロジメントティルである.
フローティルは粘性土に富んでおり,流動性を伴った状態で二次的に堆積したもので,地すべりのすべり面になりやすい.
ロジメントティルは,礫や粗粒分も含むがシルトサイズの細粒分を含み,しかも粘性土が極端に少ないことがある.この様な条件は,間隙水圧の上昇により液状化しやすい.おそらく,粒子のかみ合わせのみで土構造を保持しているものと考えられる.
日本である程度の規模でティルが分布しているのは,日高山脈と日本アルプスである.この中でも,後立山連峰である白馬岳(2933m)を中心とした地域は古くから研究が進んでいる(例えば,小疇ほか,1974).
白馬村のJR大糸線白馬駅の西方の松川北股入の堆積物は,野外観察による形態,分布標高,構成土相から氷成堆積物と考えられた.この堆積物の粒度分析と電子顕微鏡による石英粒子表面の観察から氷成堆積物を分類し,ロジメントティル(lodgement till),アブレイションティル(ablation till),ヴァレイトレイン(valley train)を識別した.この論文で示されているティルの指標をまとめて示す.
北アルプス周辺の氷成堆積物の特徴(小疇ほか,1974)
谷をふさぐように埋めたティル↑
現在の氷河は斜面にかろうじて残っているだけである.このティルは右から左に流下している沢をふさぐように堆積しており,最終氷期形成されたものと考えられる.
ティルの近景↑
上図のティルの近景.最大礫径は3mほどでやや円磨されている.高さは20m以上ある.
U字谷↑
上のティルの下流の谷.表面には草類とコケ類が生えている.礫が見えているところは融氷水流が蛇行しながら流れている.見えている斜面は南向きでほとんど雪が付いておらず,斜面上部は植生限界である.谷の標高は約4,000mである.
古いティルの表面↑
おそらく二時代くらい前のティルである.最大径2mほどの亜円礫から亜角礫からなり細粒分は砂質である.かろうじて草が生えている.草の生えていない部分は水の流れた跡である.
凍結破砕により集積した礫↑
ほとんど降水の影響を受けないで凍結破砕作用で精算された礫の集積.岩質は緑色岩で礫径はこぶし大以下である.水平に見える草の下は古いティルで,礫が大きい,基質を含んでいるなどの点で全く異なる.
谷氷河の上に,このような凍結破砕により生産された礫が乗って移動して,末端で氷河が溶けるとともに堆積する.ティルが雑多な層相を示す原因の一つはこのような周辺斜面からの礫の供給であろう.
以上