厚生労働省は2018年1月18日に表記ガイドライン(以下,2018トンネル・ガイドラインとする) を改正した.
山岳トンネル工事の切羽では,岩石・岩盤の崩落(肌落ち)による事故が,たびたび発生している.肌落ち事故の6%で死者が出ていて,重篤度が高いのが特徴である.
厚労省では2016年12月に表記ガイドラインを策定したが,その後,ガイドラインで考慮されていなかった肌落ち事故が発生した.肌落ち事故の状況は,は次のようなものであった.
改正の概要は次のとおりである.
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切羽での肌落ち災害の事例は,「参考にした図書など」の「2」の「参考資料」の18頁から21頁にかけて21事例が載っている.
山陰近畿自動車道 第14トンネル(仮称)の事例は参考資料18頁の2番目のものである.
2013年4月13日に山陰近畿自動車道 第14トンネル(仮称)で崩落事故が発生し,昼方作業班のリーダーが巻きこまれて死亡した.ズリ出し,浮き石除去が終了し,次の作業の準備を進めていたときであった.
この事故が衝撃的なのは,切羽作業に慣れていて地山の緩みなどについても経験豊富と思われる作業員が,崩壊を全く予期できず巻きこまれたことである.
崩落後の調査で,崩落した左側壁背後にはひん岩が貫入していて花崗岩が変質して脆弱化していたことが判明した.
この事故については,日本経済新聞ウェブ版,2013年5月28日付( 参考にした図書などの2)を参照のこと.鋼製支保工が押し出された崩壊箇所の写真などを見ることが出来る.
このトンネルは,長野県山ノ内町蓮池で国道292号と別れ, 発哺 温泉に登って行く奥滋賀公園線で,奥には東館山や焼額山のスキー場がある.トンネルは発哺温泉市街を避けて山側に建設された.
西館山側(上側)からの掘削で,側壁にロックボルトを打設したところ,突発湧水が発生し施工が困難になった.そのため,薬液注入工法を採用し湧水帯を突破した.
トンネル山側に白色粘土層が,トンネルに緩く斜交するかたちで分布していて遮水層となっていた.事前調査では粘土層を把握できていなかった.
このトンネルの異常出水と土砂流出は,肌落ちと言うには規模が大きすぎる.予測が難しいという点では、注意が必要である.
1999年2月に異常出水と切羽崩壊・土砂流失が発生した.異常出水した地点の土被りは約80m ほどで,地表には陥没孔が生じた.恐らく,糸魚川ー静岡構造線活断層系から分岐した粘土層が遮水していて,先進ボーリングを機に地下水変動が起き,異常出水したものと考えられる.
やや長尺の水抜きボーリングを実施していれば,異常出水は防げた可能性がある.
湖北トンネル異常出水の地質的背景については,
湖北トンネル出水の地質的背景を参照のこと.
今回のガイドラインは厚労省から出されていて,トンネル施工中の安全確保が目的である.トンネル技術的には,特に新しいことはない.
トンネルを掘削し支保工で地山を覆うまでの間の作業をどれだけ無人化できるかが大きな課題であろう.また,切羽監視責任者を置くことになっていて,被災のおそれがある場合は避難指示を出すことが求められる.
事前地質調査では,トンネル周辺地山の脆弱部がどのように分布していて,トンネルとどのような関係になるかを把握する必要がある.
トンネル周辺をある程度広域的に踏査し,卓越する構造や層理面,節理などの走向・傾斜,規模,不連続面の状態などを把握することが重要となる.ある程度の大きさの露頭があれば,トンネル切羽では地山がどのような状態で出てくるかを想定することが出来る.
施工中の調査では,トンネル周辺の地質踏査を行った技術者が切羽を見ることによって,ある程度危険を予見できる場合がある.必要な場合,地質技術者が切羽を見ることも有効と考える.
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