道路トンネル定期点検の感想

1 今回の道路トンネル点検の特徴
2 点検に携わっての感想


道路トンネル定期点検

1 今回の道路トンネル点検の特徴

 山岳工法で建設された道路トンネルの定期点検が始まっている.今回から実施された点検の特徴は以下のようにまとめらる.

(1)点検の目的は,「利用者被害の可能性の除去」(道路トンネル定期点検要領(案),平成14年4月,国土交通省道路局国道課.以下「点検要領」と呼ぶ.)である.点検時に利用者に被害を与える可能性があると判断した箇所については,応急処置として撤去的することが求められている.

(2)利用者被害としては,次の3つが想定されている.
 1)コンクリート片,つらら,内装版,天井板などの落下物が通行車両や歩行者に衝突することによる直接的な被害
 2)上記落下物に起因する被害(おそらく,落下物が路面にそのままになっていて車両が衝突した場合などを想定しているのであろう)
 3)漏水,滞水,路面変状に起因する事故(これらによるハンドルを取られるなどの事故であろう).

(3)この定期点検は,「道路トンネル維持管理便覧(日本道路協会,平成5年11月)の定期点検に位置づけられている.したがって,流れとしては必要な応急対策,標準調査の必要性を判定し,点検記録を作成する.点検表(点検記録)は電子化されており,変状の発展状況が長期的に把握できるようになっている.

(4)以上のことを通じて,「安全で効果的な維持管理を行う」こととされている.

(5)点検方法は,「近接目視」(高所作業車などを使っての詳細調査)と「遠望目視」(徒歩で目視観察する)に分けている.

(6)点検は,初回点検(新設トンネルは建設後,1〜2年後に実施,近接目視)と二回目以降定期点検(2〜5年に1回,判定区分により異なる,遠望目視)とに分けられる.

(7)定期点検の判定は,応急対策が必要な「A」,標準調査が必要な「B」,応急対策や標準調査が必要ない「S」の3区分である.

(8)点検では,トンネル点検の講習会を受けた「定期点検の点検員」が判定に当たる.今回の点検では,「応急処置」として利用者被害の可能性がある「うき,はく離」をその場でたたき落とすことになっている.点検員は,たたき落とすかどうかの判断をしなければならない.なお,対応としては,点検時に不安定覆工などをたたき落とす「応急処置」のほかに,点検結果にもとづいてはく落防止工事などを行う「応急対策」,点検表を作成し「道路トンネル維持管理便覧」にもとづく「標準調査の提案」などがある.

(9)定期点検の方法は,近接目視,遠望目視,打音検査,応急処置,漏水量測定である.シュミットハンマーによる覆工強度測定,CCDカメラや赤外線カメラの使用も検討することとされている.

 以上のように,今回のトンネル点検は,点検で危険と判断した箇所は,その場でたたき落として危険性を排除し点検表に記録し,以後,定期的に点検することにより安全性と経済性を両立させようというものと考えることができる.
 なお,「点検要領」には参考資料として,変状の写真が載せられており大変参考になる.また,トンネル変状の基本的な事項についても詳細な資料が付いている.

2 点検に携わっての感想

 今回の点検に携わっての感想を幾つか述べてみる.

(1)新設トンネルの打ち継目付近での,コンクリートはく離が結構ある.これは意外であった.どの位置のはく離をどの程度までたたき落とす必要があるかの判断を,点検員はその場でしなければならないが,ある程度の経験を必要とすると感じた.
 なお,打ち継目に変状が発生しやすい理由については「点検要領」に述べられている.

(2)覆工コンクリート養生中の型枠の動きによるクラックと思われるものがある.一見偏圧によって形成されたクラックと紛らわしい位置に形成されるが,打ち継目の部分で途切れているのが特徴である.

(3)難工事であった区間では,新設トンネルでもクラックが発生していることがある.これらについては,進行性を監視する必要があると感じた.

(4)NATM工法で建設されたトンネルでは,ほとんど漏水が見られない.トンネル技術の大きな進歩を実感できた.

(5)クラックの中には,成因をうまく説明できないものがあった.地盤が悪く支持力不足となっている場合や膨張性地山では路盤の損傷が顕著であることが多い.したがって,クラックの状況によっては,路盤の変状を記録しておくことが必要であろう.

(2002年10月26日)


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