調査により判明する 事項 | 調査結果の計画・設計への利用 | 調査の留意点 | |
資料調査 | ●候補路線の選定段階で回避すべき問題点を把握する. ●地形地質踏査で明らかにすべき問題点を抽出する. | ●地域により既存資料がない場合がある.地質資料の入手方法については「4章」を参照. ●地形図,図幅などの精度が低い.国土地理院の1/25,000地形図や数値地図の利用を考える. ●既存資料を総合して総括的な図面を作成するのが理想的である. | |
空中写真判読 | ●表層地質,特に地すべり,崩壊地,崖錐堆積物などトンネル坑口付近の不安定地形の抽出. ●地質構造,特に断層,変質帯などの弱線の抽出. ●人工改変前の地形把握.米軍空中写真の利用. | 上に同じ. | ●判読の結果は地形地質踏査で確認する必要がある. ●判読技術には個人差があるので,何人かで判読し相互にチェックを行い精度を向上させる. ●各調査段階で再判読を行い,精度を上げていく必要がある. |
地形地質踏査 | ●崖錐・地すべり・崩壊地等の地形および表層堆積物の分布・性状・安定性の把握. ●基盤地質の構成・分布・性状の把握 ●褶曲・断層などの地質構造,活断層などの分布・性状の把握. | ●物理探査・ボーリングなどの結果と合わせ地質平面図・断面図を作成し,路線沿いの地質構成・性状などを明らかにする. ●路線沿いの構成地質の安全性・施工性に関する定性的評価を行う. | ●踏査で作成した地質図・断面図は一つの解釈図であり,弾性波探査やボーリング・室内試験結果がでた段階で再踏査を行い検証する. ●踏査結果は,使用する地形図の精度に大きく左右されるので,必要な箇所については測量を実施する. |
弾性波 探査 | ●地山の弾性波速度 ●断層・破砕帯・変質帯などに起因する低速度帯の位置・規模・速度値 | ●坑口付近・程度被り区間の未固結堆積物・風化層の厚さ・性状把握. ●トンネル断面の掘削岩盤の硬さ・風化変質の程度・亀裂の発達状況の把握. ●断層・破砕帯・変質帯などの弱層の位置・規模・状態・連続性の把握. ●地山分類の検討. ●地下水面の概略把握. | ●低速度層が中間に分布する場合は,その下位の地山の速度の解析が不正確になる. ●得られる結果は地山の速度値であり,地質分布・風化変質の程度・亀裂の発達程度の評価は他の結果と併せて総合的に行う. |
電気探査 | ●地盤の比抵抗値および比抵抗値の断面的分布状態. | ●崖錐堆積物・風化層の深度把握. ●地質構造・岩質把握. ●軟弱挟在層の検出. ●断層・変質帯の性状・規模の把握. ●地下水・帯水層の分布・性状検討. | ●探査地点の地形・地質条件で探査精度は大きく変わる. ●比抵抗値を測定するもので地山の力学強度とは直接関係しない. |
ボーリング調査 | ●土砂・岩盤の成層状態と分布. ●断層・破砕帯・変質帯などの弱層の位置・規模・性状や連続性. ●岩石の種類・風化や変質・亀裂や節理などの不連続面の位置と性状. ●地下水の有無と地下水胚胎構造(掘削中の地下水位変動),湧水圧とその水量. | ●計画路線沿いの地質を直接確認し,地質構成・分布・性状の詳細を明らかにする. ●ボーリングコアの硬さ・風化の程度・変質の程度・亀裂状況をもとに,地山分類・掘削方式(機械か発破か)・掘削工法(加背割り)・支保構造を検討する. | ●深度方向では線状の情報が得られるが平面的には点の調査であり,地形地質踏査・物理探査などの結果を含めて路線全体の評価を行う. |
標準貫入試験 | ●地山のN値と硬軟あるいは締まり具合. ●土の試料採取,構成土の判別・分類. | ●坑口付近や土被りの小さい区間の地山の安定性の検討. ●岩盤や支持層の深さの把握. ●土や軟岩の物性値の推定(単位堆積重量,粘着力,内部摩擦角,変形係数など) | ●中硬岩以上の岩盤や礫層には適用できない. ●N値50以上の固い地盤では細かな判定は出来ない. |
孔内水平載荷試験 | ●地山の変形係数,弾性係数など. | ●地山の変形解析. ●コアが採取できない岩盤では強度の指標となる. | ●構成地質・ボーリングの孔径に見合った機種を選定する必要がある. ●コア観察により代表的な地質状況の区間を選定する必要がある. |
透水試験 (孔内湧水圧試験) | ●地山の水理特性(透水係数,試験方法によっては透水量係数,貯留係数) | ●帯水層での突発湧水・水頭圧予測,恒常湧水量の予測・評価 | ●測定値は概略値であり,オーダーで評価する必要がある. ●地盤条件により試験方法を選定する必要がある. |
速度検層 PS検層 | ●地山弾性波速度の鉛直分布. | ●速度値から間接的に岩盤,土砂の区分あるいは岩盤の風化・変質・割れ目の多少の推定. ●弾性波探査では検出できない低速度層の把握. ●高速度層の下の低速度層の検出. | ●受振器を孔壁に密着させない場合は地下水がないと測定できない. |
電気検層 | ●孔壁に近接する地山の見かけ比抵抗や地下水の比抵抗値. | ●比抵抗値による地質分布の把握. ●帯水層の地下水賦存状況の評価. | ●地下水面下の測定に限られる. ●ケーシング挿入区間は測定できない. |
ボアホールカメラ | ●地層の成層状況,断層・割れ目の規模・性状,不連続面の走向・傾斜 ●湧水状況(水の動きとその方向) | ●亀裂状況,走向・傾斜から切羽の安定性検討. | ●孔内洗浄を十分に行う必要がある. ●孔壁が自立しない場合は観測できない. |
室内試験 | ●構成岩石の物理・力学特性: 単位体積重量,超音波速度,一軸圧縮強度,圧裂引張強度など. ●構成岩石の鉱物・化学的特性: エックス線回折線,粘土鉱物の含有量(例えば,塩基置換容量試験[CEC試験]),スレーキング特性(浸水崩壊度試験),岩石顕微鏡観察など. ●構成土質の物理・力学特性: 含水比,粒度組成,コンシステンシー,圧縮強度など. ●構成岩石,土質の有害金属の含有量試験,溶出量試験 | ●地山弾性波速度とあわせて割れ目などによる岩盤の劣化程度を把握. ●一軸圧縮強度より岩盤の力学特性を把握. ●膨張性地山の予測評価. ●坑口付近や土被りの小さい区間の地山での未固結堆積物の安定性検討. ●未固結地山での切羽の自立性検討. ●地山の有害金属含有量・溶出量の把握と基準を越える掘削ズリの処理検討. | ●中硬岩・硬岩では亀裂のない試料で試験するため,試験値は地山としての物性値にはならない.亀裂係数による低減が必要である. ●軟岩では含水比の変化により試験結果が大きく異なる場合があるので採取後含水比を変化させない. ●力学試験では試料採取時の試料攪乱に注意する.また,応力解法を受けやすい岩盤も取り扱いに注意する. |
地表踏査の基本は正確なルートマップの作成である.地質状況だけでなく,湧水の有無,地すべりや崩壊地形などの記載も行う.同時に,携帯型の計器を用いて様々な情報を得ることが総合的な地質図作成に欠かせない.
例えば,軟岩地山であれば,踏査時には針貫入試験器,場合によっては土壌硬度計を持参し露頭で測定し,大まかな一軸圧縮強度を得ることは有効である.
また,大量湧水が予想される地域では沢の流量を測定することにより,比流量から大体のトンネル湧水量の予測ができる.さらに,携帯型の電気伝導度計やpH計で現地水質分析を実施することにより湧水点とその水質を把握し,有害なトンネル湧水が発生しないか予測を立てることができる.
携帯型の帯磁率計は,溶岩の流出単位の境界を判定したり,火山灰の検出などに有効である.
簡便な機器を用いて踏査を補うことによって,少ない労力で効果を上げることができる.
トンネルを掘削してみると,弾性波探査で予想された低速度帯が明瞭に現れないことが多く,探査結果が当てにならないということは良く聞くことである.この原因は土被りが深いトンネルでは地表では緩んでいる部分があっても深部では亀裂が密着し,あまり地山が劣化していないためである.
高精度屈折法地震探査(高密度弾性波探査)は,屈折法の解析にトモグラフィー的手法を導入したもので,従来の屈折法よりも精度の高い情報が得られる.
電気探査は比抵抗二次元探査が一般的となり,地下水の賦存状態を的確に把握 できるようになった.変質帯の検出やすべり面の推定にも有効である.また,こ れまで弾性波探査では把握が難しい砂礫層と岩盤の境界を把握することも可能で ある.
調査項目 | 得られるデータ | 利用方法あるいはニーズ |
地表踏査 | ルートマップ 記録写真 サンプル | ・調査地域全体の地質平面図,断面図,変質図,水質分布図の作成. ・踏査時に持っていくと便利な器具として,針貫入試験器,土壌硬度計(超軟岩),帯磁率計,シュミット・ロックハンマー,簡易弾性波探査測定器,pHメーター,電導度計などがある. ・帯磁率は肉眼では区分しにくい火砕流や溶岩,貫入岩の区分に便利である. |
ボーリング | コア,RQD,採取率,最大コア長 | 地質構成,岩盤の性状把握,岩級区分 |
湧水圧試験 (JFT) | 一定区間の水位上昇記録から透水係数,地下水頭を得る. | トンネル湧水量の推定 トンネル掘削後の恒常湧水量推定は比較的容易であるが,施工中の突発湧水量の推定は難しい.突発湧水の可能性のある位置を把握する.また,被圧水の有無の判定を行う. |
電気検層 | 岩盤の比抵抗の変化 | 地層区分,透水層の把握 |
速度検層 | 岩盤のP波速度 | 地山区分の基本要素 岩石試験の超音波速度と併せて亀裂係数を求め岩盤としての物性値(粘着力,内部摩擦角)を求める. |
孔内水平載荷試験 | K値 変形係数 弾性係数 | ・繰り返し載荷試験を行うことにより弾性係数を求めることが出来る. ・変形係数は,弾性計算により擬似的に岩盤の緩み変形を評価する場合に用いられることがある. ・接線弾性係数は弾性応力,弾性変形を求める場合に最も一般的に用いられている. |
弾性波探査 | 地盤の弾性波速度 | トンネル地山分類の基本要素 ・屈折法探査が用いられる. ・現在,トモグラフィー的手法で解析できるようになっており,精度が高くなっている. ・水の弾性波速度は1.5km/secであるので地下水 位の推定にも用いることが出来る. |
岩石試験 | 単位体積重量 一軸圧縮強度 圧裂引張強度 超音波伝播速度 | その地域の岩石が一般的なものか特殊なものかの判定を行う. ・一軸圧縮強度と圧裂引張強度から岩石の粘着力,内部摩擦角を求めることが出来る. ・一軸圧縮強度試験の応力―歪み曲線から限界歪みを求めておくとトンネル掘削初期の計測管理の値に使用できる. ・軟岩ではコア採取後早期に密閉しないと応力解放により一軸強度が小さな値となる.応力解放を受けたコアの応力−歪み曲線は初期の部分が下に凸となる. |
浸水崩壊度試験 | 浸水崩壊度 (A〜D) | 水に対する抵抗の強さを4段階で判定する. ・崩壊が著しい岩ではスメクタイトなどの膨潤性粘土が含まれている. |
岩石の顕微鏡観察 | 岩石の鑑定,変質の程度,変質鉱物の種類 | この現場では変質の程度を判定する一つの根拠とした. |
X線回折 | 鉱物種の同定. 特に粘土鉱物の同定 | ・一般には粘土鉱物の同定に用いられる. ・この現場では地域全体の変質様式を明らかにすることも目的として実施した. ・変質様式はマグマ水の強い影響を受けた酸性変質帯,マグマ水と地表水の反応による中性変質帯,暖められた地表水によるアルカリ性変質帯とに分けられる. ・酸性および中性変質帯では,重金属類(砒素やカドミウム,鉛,亜鉛,銅,マンガンなど)を多く含んでいる. |
モンモリロナイトの定量分析 | モンモリロナイトの含有量 | ・メチレンブルー吸着法により求める. ・粘土分含有量,吸水量,浸水崩壊度,塑性指数などともにトンネルでの膨圧発生の指標とする. |
交換性陽イオン分析 | 陽イオン交換量(CEC) | ・試料中の陽イオンをアンモニウムで交換・飽和させ,そのアンモニウム量を測定する. ・膨潤性の指標とする.ただし,吸着性の鉱物(例えば,沸石)が含まれていると大きな値が出る. ・全岩のX線チャートで含有する鉱物をチェックする. |
岩石の化学分析* | 岩石中に含まれる有害金属の含有量 | ・この現場では鉛,亜鉛,カドミウム,銅,砒素,総クロム,総水銀,硫黄,総鉄の分析行った. ・トンネルの掘削ズリを処分する必要があるかどうかの判定に用いた. |
岩石の連続溶出試験* | 重金属等の溶出量 | ・試料を通過した水がどの程度重金属などを含んでいるかを測定し,ズリ処分の必要性を判定する. ・分析項目としては,pH,硫酸イオン,カドミウム,銅,鉄,亜鉛,鉛,総クロム,砒素,総水銀,マンガン,セレン,電気電導度を分析した. ・判定の基準は排水基準とした.この現場ではpH,鉄,マンガンが基準を越えた. |
室内水質分析 | ボーリング孔内水の水質と含まれる重金属等の含有量 | ・排水基準を越える有害成分が含まれているかを把握する. ・分析項目としては,pH,砒素,水銀,亜鉛,銅,硫酸イオン,六価クロム,鉛,カドミウム,鉄. ・この現場では鉛が排水基準を越えていた. |
調査項目 | 得られるデータ | ニーズあるいは利用方法 |
地表踏査 | ルートマップ 記録写真 サンプル | ・調査地域全体の地質平面図,縦断図および必要な箇所の横断図作成. ・地質構成,地質構造の把握. 地すべり地形の特定とブロック区分.起点側坑口は地すべりがトンネルに影響を与えると判断した. |
ボーリング | コア,RQD,採取率,最大コア長 | ・地質構成,岩盤の性状把握,岩級区分. ・特にこのトンネルでは終点側坑口付近の半固結の堆積軟岩および玄武岩質火砕岩の判定が問題となった. |
孔内水平載荷試験 | K値,変形係数,弾性係数 | ・半固結の軟岩での変形係数は数値解析に用いられる. |
湧水圧試験 | 透水係数 水頭圧 | ・一定区間の透水係数が得られるので,地質ごとのトンネル湧水量の推定に用いることが出来る. ・変質安山岩類が岩盤状況が良好なわりには透水性が高いことが判明した. ・被圧水は湧水量が多くなければ特にトンネル施工上大きな問題とはならない. |
弾性波探査 | 地山の弾性波速度 速度層構造 | 地山区分の基本要素 ・岩石試験の超音波伝播速度とあわせ亀裂係数を求め,岩盤の物性値(準岩盤強度,粘着力,内部摩擦角)を求めた. ・この現場では測定は従来の方法を用い たが,解析にとモグラフィー的手法を用いて精度を向上させた. |
比抵抗二次元探査 | 岩盤の比抵抗構造 | ・岩盤の比抵抗は基本的には間隙率に左右される. ・岩盤の含水率,硬さ地下水位などを反映した比抵抗構造が得られる. ・この現場では,坑口付近の地すべりのすべり面と地下水位をとらえることができた. |
地山試料試験については,NEXCO設計要領 第三集を参照.
(2011年11月11日修正)
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