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6.5 坑口の地すべり対策工

 坑口の地すべり対策工の特殊性は次の点にある.


tunres65_fig1.jpg

図6.5.1 トンネル坑口対策の流れ図
1)動態観測をどの段階で始めるかは,地すべりの活動度,地すべり対策の規模,計測器センサーの寿命,用地などを考慮して決める必要があるが,少なくとも地すべり対策工を施工する1年前には開始するのが望ましい.
 最近動いている兆候があれば,できるだけ早い段階で動態観測を初めて,すべり面を確定することが望ましい.
2)解析方法は疑似三次元とホフランド法などによる三次元解析を組み合わせて,より経済的な対策工を検討する必要がある.
3)地すべりの規模によっては,供用後も動態観測を行う体制を整える必要がある.

 トンネル坑口地すべりの対策工は一般に地すべり対策と異なるところはない.
 ただし,特殊な対策工として垂直縫地工法がある.これは,坑口付近の地山に鉄筋を挿入しグラウトを行いトンネル上部地山の動きを押さえる工法で,小規模な地すべりに対しては効果的である.鉄筋はトンネル上半まで挿入することが多いようである.鉄筋のせん断力で地すべりの滑動力に対抗するという考えである.
 ただし,地すべり対策として用いる場合,地下水の排水を阻害する可能性があるので注意が必要である.

 トンネル坑口の地すべり対策を検討する上での留意点は次の通りである.


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表6.5.1 地すべりの型分類(NEXCO,2009,48p)
分 類岩盤地すべり風化岩地すべり崩積土地すべり粘性土地すべり
地形的特徴と地すべりの平面形凸状尾根筋の鞍部に発生し,馬蹄形,角形を呈する.明瞭な段落ち,帯状の陥没地と台地を有す.大きく見れば凹型だが主要部は凸型で、馬蹄形,角形を呈する.滑落崖を形成し,その下に沼,湿地等の凹地,頭部にいくつかの残丘があり凹型斜面が多い.頭部に増え医療灘位置を残し,大部分は沢状の斜面である.沢型,ボトルネック型を呈する.
地すべりの断面形平面すべり
いす型・舟型
平面すべり(頭部と末端はやや円弧状)
いす型・舟型
円弧と直線状,末端が流動化
階段状・層状
頭部が円弧状だが大部分は流動状
階段状,層状
主な土塊の性質
(頭部)
岩盤または弱風化岩風化岩
(亀裂が多い)
礫混り土砂巨礫または礫混じり土砂
主な土塊の性質
(末端部)
風化岩巨礫混じり土砂礫混じり土砂,一部粘土化粘土または礫混じり粘土
運動速度2cm/日以上1-2cm/日程度0.5-1cm/日0.5cm以下
運動の継続性短時間,突発的ある程度断続的(数十年-数百年に一度)断続的(5-20年に1回程度)断続的(1-5年に1回程度)
ブロック化多くの場合,1ブロック末端,側面に2次的地すべり頭部がいくつかに分割され2-3ブロックになる全体が多くのブロックに分かれ,相互に関連しあって運動
予知の難易非常に困難,綿密な踏査と精査を必要とする1/3,000-1/5,000の地形図で予知でき,航空写真で判読できる1/5,000-1/10,000の地形図でも確認できる.地元での聞込みも有用地元での聞込みによって予知できるし,非常に容易に確認できる
主な原因大規模な土工,斜面の一部の水没,地震,強雨集中豪雨,異常な融雪や河岸欠潰,地震,中規模の土工,その他異常な霧雨,融雪,台風,集中豪雨,土工など霖雨(幾日も降り続く雨),融雪,河川浸食,積雪,小規模な土工
主な地質と構造断層,破砕帯の影響を受けるものが多い結晶片岩地帯,新第三紀層に広く分布する断層,破砕帯の影響あり結晶片岩地帯,中・古生層,新第三紀層に広く分布する新第三紀層に最も多く破砕帯沿いにも一部見られる

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表6.5.2 変動種別の判定表(日本道路公団,1998,p参3-25)
伸縮計による地盤伸縮の程度
変動種別日変位量
(mm)
累積変位量
(mm/月)
一定方向へ
の累積傾向
変動形態
・引張り
・圧 縮
・断 続
活動性等
変 動 A1mm以上10mm以上顕 著引 張 り活発に活動中,表層・深層すべり
変 動 B0.0-1mm2-10mmやや顕著引張り,及び断続変動緩慢に運動中,粘質土・崩積土地すべり
変 動 C0.02-0.1mm0.5-2mmややあり引張り及び圧縮継続観測が必要
変 動 D0.1mm以上なし(断続変動)な し規則性なし局部的な地盤変動,その他

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表6.5.3 傾斜変動の程度
変動種別日平均変動量(秒)累積変位量(秒/月)傾斜量の累積傾向の有無傾斜運動方向と地形との相関性活動性等
変 動 A5秒以上100秒以上顕 著あ  り活発に運動中
変 動 B1-5秒30-100秒やや顕著あ  り緩慢に運動中
変 動 C1秒以下30秒以下ややありあ  り継続的な手動観測が必要
変 動 D3秒以上なし(断続変動)ややありな  し局部的な地盤変動,その他

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表6.5.4 ひずみ変動の程度
変動種別累積変動量
(μ)
変動形態すべり面存在の地形・地質的可能性活動性等
変 動 A5,000μ以上顕 著累積変動あ り顕著に活動している岩盤地すべり・風化岩地すべり・崩積土地すべり
変 動 B1,000μ以上やや顕著累積変動あ り緩慢に活動している地すべり
変 動 C100μ以上ややあり累 積
断 続
かく乱
回 帰
あ りすべり面の存在有無を断定できないため,継続観測が必要
変 動 D1,000μ以上
(短期間)
な し断 続
かく乱
回 帰
な しすべり面なし
地すべり以外の要因

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表6.5.5 地すべり区分に応じた現状安全率
地すべり区分岩盤地すべり風化岩地すべり崩積土地すべり粘質土地すべり
運動停止中1.101.05-1.101.03-1.051.00-1.03
滑動中0.990.95-0.990.93-0.950.90-0.93
注)目標安全率は基本的には,1.20である.
 しかし,抑止力が膨大になる場合には,考え方を整理して現実的な安全率とする.例えば,現状安全率を下回らない程度の対策工とするなどである.


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