手稲山横断

 (2019年6月20日山行:2019年6月23日作成)

概 要

 手稲山山頂への登山道は,大規模地すべりである手稲スキー場のハイランドから登るコース(滝ノ沢コース・北尾根コース)と南の琴似発寒川の平和の滝コースがある.
 今回,平和の滝コースを登り,山頂から市道手稲山麓線を歩いて国道5号へ降りるというコースをたどった.平和の滝から頂上へ行き頂上で昼食中に雨が降り出し土砂降りになった.しばらく雨宿りをしていたが,雨はまだ断続的に降り続いていたので,平和の滝コースのガレ場と琴似発寒川沿いの道は危険と判断し,テイネハイランドから市道を通って国道5号に出ることにした.
 この横断コースは,約20kmなので,トレイルランニングにはちょうど良いかもしれない.市道でなく「北尾根コース」あるいは「滝ノ沢コース」をたどれば楽しいトレイルランニングができそうである.


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図1 平和の滝から国道5号へ(TrailNoteで作成)
 平和の滝から頂上までは約6.5km,頂上から国道5号までは約14Kmで,合計20.5kmの距離になる(GPSの記録).
 平和の滝コース(赤い線)の尾根状の緩斜面を過ぎた標高720m付近から岩塊斜面が広がっている.下りは,手稲橋から軽川沿いに下った方が距離は1Kmくらい短い.
 赤い線は登り,青い線は下りである.

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平和の滝から頂上まで

 琴似発寒川沿いの道は,多少の上り下りがあるが楽なコースである.
 5万分の1地質図幅「銭函」によれば,登山道が琴似発寒川から一度離れる付近までは,銭函層群・手稲層の変質安山岩(変朽安山岩)主体の地質で,それより上流は張碓層群の安山岩質火山角礫岩(集塊岩)主体の地質となる.
 尾根状の緩斜面を過ぎて岩塊斜面が始まる標高720m付近からは,手稲山の山頂を形成する手稲山火山噴出物の含石英輝石安山岩となる.


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写真1 変質安山岩(変朽安山岩)
 琴似発寒川の砂防ダムのすぐ下流の登山道脇の露頭である.


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写真2 ハイアロクラスタイト(集塊岩)
 登山道が琴似発寒川から離れやせ尾根に登って行く手前にあるハイアロクラスタイトの露頭である.全体に細粒で,円磨された礫が所々に見える.


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写真3 布敷の滝
 節理の発達した安山岩がつくる滝である.標高500m程のところにある.この上にもう一つ小さな滝があり,対岸に安山岩の露頭が見える.

 手稲山の平和の滝コースと言えば,標高720m付近から800mにかけて見られる「岩れきの斜面」が有名である.不安定な岩塊もあり地質的にはかなり新しい時代に形成されたと考えられる.
 布敷の滝を過ぎて登山道が沢から離れ急斜面を登っていく.植生に覆われているが,この斜面も玉石がゴロゴロしている斜面で,古い時代の「岩れきの斜面」である.礫の間に手を入れると冷たい空気に触れることができる.


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写真4 沢から離れて礫の多い斜面へ 
 布敷の滝を過ぎると登山道は南西向きの斜面を登っていく.登山道の周りは草や木が茂っているが斜面は亜円礫で覆われている.標高700mの尾根状の緩斜面まで距離にして600m,比高160mの登りが続く.


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写真5 「岩れきの斜面」 
 斜面全体を岩れきが覆っている.よく見ると弱いインブリケーション(覆瓦構造)が見られる.斜面全体の平均傾斜は30度であるが,よじ登るようにして越える急傾斜の部分がある.遠くに頂上のアンテナ塔が見える.


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写真6 「岩れき」
 「岩れき」は,黒灰色の新鮮な輝石安山岩である.


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写真7 「岩れきの斜面」上部 
 標高770m付近で「岩れきの斜面」は過ぎるが,登山道は礫で覆われた斜面を登っていく.さらに比高90mほど登って頂上から南東に延びる尾根に達する.


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写真8 「岩れきの斜面」上部 
 礫の供給源に近いため,礫の径が大きくなり柱状節理がそのまま転がっている.かなり歩きにくい.


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写真9 「岩れき」 
 白濁した斜長石とガラス質の石基からなる輝石安山岩である.

 このような斜面堆積物は氷期に形成された周氷河堆積物の一種と考えられる.約1万年前の氷期には寒冷化により海水面が約100mほど低下した.そのため日本海からの水蒸気の供給が少なくなり寒いけれどもあまり雪が降らない気候になったと考えられる.寒気は直接岩の割れ目に影響し割れ目の中の水の凍結融解によって安山岩の亀裂が開口し,礫が大量に作られたと考えられる.これが「岩れき斜面」が形成された原因であろう.

 頂上からは札幌市街,藻岩山や円山や三角山が眼下に見える.南西には余市岳,無意根山,定山渓天狗岳(天狗山)などが見える.この日は,羊蹄山は雲で見ることができなかった.


写真10 無意根山と定山渓天狗岳.jpg
写真10 無意根山と定山渓天狗岳
遠く中央やや左が無意根山で,右手前の一番左が定山渓天狗岳である.この時は,まだ雨は降っていなかった.


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写真11 札幌市街
 藻岩山,円山,三角山が並んでいる.遠く右手に札幌ドーム,左にツドームが見える.

頂上から国道5号まで

 この日は,正午過ぎにかなり激しい雨が降ってきた.1時間ほど雨宿りして小降りになってきたので下山を始めた.平和の滝コースはガレ場があり,琴似発寒川沿いの道もどうなっているかわからないと考え,作業道を通ってハイランドへ降り,市道手稲山麓線を通って国道に出ることにした.延々14km,ほとんど下りのみの舗装道路を4時間ほどかけて歩いた.


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写真12 作業道の標高730m付近から見た山頂
 頂上付近は平坦な地形となっている.北東斜面は,5万年前頃に発生した巨大地すべりの滑落崖である.ハイランド付近からJR函館本線付近までが地すべり移動体である.


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写真13 巨大地すべりの頭部
 札幌オリンピック男女回転コースの頂部から見た巨大地すべりの一部である.ハイランドより下のスキー場が緩やかなのは地すべり移動土塊の中に造られたためである.

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