東丹沢の三峰山

 (2019年10月31日登山:2019年11月15日作成)

概 要

 

 三峰山みつみねやまは,東丹沢の大山おおやまの北北東,約3kmにある標高935mの山である.
 伊勢原市の分れ道(始点は板戸)から旧津久井町(相模原市緑区)の青野原に通じる県道64号伊勢原津久井線の土山峠つちやまとうげから登る登山道がある.土山峠のすぐ北は,相模川の支流・中津川に設けられた宮ヶ瀬ダムのダム湖である.
 今回は,小田急線・本厚木駅から土山峠までバスで行き,辺室山へむろやま,物見峠を経て三峰山へ登った.帰りは尾根を南に進み谷太郎川やたろうがわの不動尻から二の足林道を通って七沢ななさわに下った.午前8時半に土山峠から歩きはじめ,七沢に着いたのは17時少し前で,歩いた距離は15kmであった.


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図1 三峰山トレイル図 (TrailNoteで作成)
 土山峠から三峰山までは,尾根沿いに上り(赤線)下り(青線)を繰り返しながら登っていく.三峰山からは尾根伝いに南下して,途中から谷太郎川の谷へ下って行く.谷太郎川の分岐からは舗装された林道になる.地理院地図には書いてないが,谷太郎川支流には何段もの床固工が設けられていて圧巻である.ルート断面図の6.6km付近が三峰山.10km付近が不動尻である.
 この図で,破線は地層境界,実線は断層である.


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写真1 厚木市の玉川から見た三峰山
 右手遠くのコブの連なった山が三峰山で,左の三角の山が大山である.この場所から三峰山までは直線距離で8.8kmである.

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地質の概要

 今回の登山道に出てくる地質は,5万分の1地質図幅「八王子」(植木ほか,2013)および『藤沢」(岡ほか,1979)によると,新第三紀・中新世の丹沢層群と中新世〜鮮新世の早戸層群で,土山峠側から下のようになる.

 これらの地層は主に北西−南東の走向で,東に40°〜80°で傾斜している.地層が逆転しているところがある.


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図2 丹沢山地周辺の地質図 (地質図ナビに加筆)
 丹沢山地の屏風岩山を中心に中新世から鮮新世の花崗閃緑岩体が貫入している.その東側には丹沢層群と呼ばれる地層が分布している.前期〜中期中新世の玄武岩,安山岩質玄武岩・安山岩,デイサイトで,東方上位である.県道64号が通る谷の東には,青野原−煤ヶ谷すすがや断層がある.
 土山峠から三峰山を経て谷太郎川の不動尻に降りる登山道は,この地質図では,すべてデイサイト(ピンク色)の範囲となっている.
 丹沢山地の主稜線である塔ノ岳,丹沢山,蛭ヶ岳は玄武岩の分布域である.

登山道の地質

 


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写真2 県道から尾根に取り付く
 宮ケ瀬行きの土山峠バス停から少し厚木方向に戻ったところに登山口がある.いきなりの急斜面である.この急斜面は寺家層の泥岩類から構成されている.
 県道脇では台風で損傷した側溝の修復工事をしていた.登山道がどの程度被害を受けているか心配だったが,とにかく行ってみることにした.


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写真3 急斜面を登って尾根に
 急斜面を登った標高360m付近でやや広い尾根に到達する.北に宮ヶ瀬湖の一部と県道が見える.残念ながら三峰山は登山道が木々で覆われていて眺望は効かない.


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写真4 谷太郎層のデイサイト質凝灰岩
 登山道の標高365m付近に細片化して出ている谷太郎層のデイサイト質細粒凝灰岩である.


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写真5 谷太郎層最下部の黒色泥岩
 503mのピークを少し下った鞍部手前に出ている.


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写真6 辺室山北尾根
 辺室山から北に伸びるなだらかな尾根である.大沢層の分布域であるが露頭はない.道は荒れているが案内標識は整備されている.標高580mである.


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写真7 大沢層のデイサイト質火山礫凝灰岩
 辺室山の南西尾根をやや下った標高625m付近の露頭である.北尾根と対照的に尾根の両側が切れ込んでいて露頭が見られる.


写真8 大沢層の泥岩.jpg
写真8 大沢層の泥岩
 細片化しやすい黒色泥岩である.辺室山と641mピークの間の鞍部付近である.


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写真9 大沢層の軽石凝灰岩
 火山礫サイズの軽石からなる凝灰岩である.641mピーク手前鞍部の登り始め付近である.


写真10 軽石凝灰岩.jpg
写真10 大沢層の軽石凝灰岩
 641mピークから南西に伸びる尾根の鞍部付近である.軽石がきれいな濃緑色に変質している.


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写真11 堤川源頭部
 宮ヶ瀬湖上流の堤川の源頭部である.標高650mのこの場所では,まだ紅葉は早いようだ.


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写真12 物見峠手前から三峰山を見る
 この日は,靄がかかっていて三峰山は見ることができなかった.西北西から伸びてくる尾根と登山道の合流点付近で,三峰山までは直線距離で2.2kmである.


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写真13 物見峠へ
 西北西の尾根の合流点から物見峠へ下っていく道である.地質は不動尻層のデイサイト質凝灰岩である.この付近から地形が特に急峻になる.「藤沢」図幅では不動層は逆転して西に70°〜80°で傾斜している.木は生えているが下草がなく,谷底まで見えるので恐怖感が増す.


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写真14 物見峠
 物見峠である.標高は630mである.


写真15 物見峠から東を見る.jpg
写真15 物見峠から東を見る
 この登山道では,遠くを見ることのできる場所は少ない.中央右の白い建物は,多分,清川遠寿病院である.手前の沢は辺室沢である.対岸は,華厳山,高取山である.


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写真16 不動尻層の火山礫凝灰岩
 きれいな青緑色の礫が特徴的な火山礫凝灰岩である.三峰山すぐ北の800mほどのピークに露出している.


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写真17 三峰山北側の鞍部
 両側は急崖となっていて,東側(左側)は凝灰岩が露岩している.谷太郎川支流・鳥屋待沢とやまちざわの源頭の一つである.鳥屋待沢は沢登りに人気の場所らしい.


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写真18 緑色凝灰岩
 細粒の緑色凝灰岩である.三峰山への最後の登りに出ている.標高895m付近である.


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写真19 凝灰岩露頭
 小さな岩峰を形成している不動尻層のデイサイト質凝灰岩である.標高895m付近.


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写真20 三峰山頂上直下の露頭
 ここを右に回れば頂上である.その直下の不動尻層・デイサイト質緑色凝灰岩の露頭である.柱状節理が発達している.標高930mの地点である.


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写真21 三峰山から南へ下る道
 鳥屋待沢左俣源頭部である.左が鳥屋待沢,右は石尊沢せきそんざわの支沢である.鎖を伝って行けるのでなんとかなるが,登山道とは思えない.昔,修験道であったということがよく分かる.
 なお,石尊沢というのは大山山頂の巨石が「石尊大権現せきそんだいごんげん」と呼ばれて山岳信仰の対象となったことに由来する名前と思われる.


写真22 不動尻層の凝灰岩.jpg
写真22 不動尻層の細粒凝灰岩
 三峰山を南に下り,ほぼ直角に曲がって南西尾根を下ると谷太郎川に降りる分岐に出て,東斜面を下っていく.その途中の標高810m付近の登山道脇の露頭である.見上げると尾根直下に崩壊しそうな岩塊が露出している.


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写真23 大量の湧水
 谷太郎川に下る標高660m付近の登山道下の斜面から大量の湧水が見られる.湧水量は,目分量で毎分数百リットルである.湧水点は,この写真のさらに上方である.
 「地質図ナビ」を見ると,三ノ塔の北から続く西南西−東北東の断層が描かれていて,この湧水点はまさにその断層の位置に当たる.この断層は,丹沢層群を切る左ずれの断層である.


写真24 不動尻層の凝灰岩.jpg
写真24 不動尻層の凝灰岩
 この付近の登山道脇の沢の河床は露岩している場所が多い.凝灰岩は北西−南東の走向で北東に30°ほどで傾斜している.写真奥に床固工が3基見える.いずれも石積みである.


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写真25 山神隧道
広沢寺に下る二の足林道のトンネルで,長さは230mほどである.照明がないので中に入ると足元は殆ど見えない.このトンネルの上を大山北東尾根から鐘ヶ嶽に行く登山道が通っている.

参考にした図書など

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