伊達紋別岳

 (2021年6月17日山行:同6月20日公開)

概 要

 

 伊達紋別岳は道央自動車道・有珠サービスエリアの北東に見える標高714.6mの山である。登別市と室蘭市、伊達市の境になっている鷲別岳などの主山稜から西南西に延びた山稜の一部である。この頂上からは羊蹄山、ニセコ連峰そして洞爺湖、有珠山、昭和新山が望まれる。
 この日は、あいにく太平洋からの低い雲が洞爺湖の中島のてっぺん(標高455m)も隠すほど低く垂れ込めていて、眺望を得ることは出来なかった。
 なお、地理院地図では単に紋別岳となっている。三省堂の「日本山名辞典」には、この山と支笏湖畔の山の二つの紋別岳が載っている。

 室蘭市の鷲別岳やカムイヌプリ、伊達紋別岳、オロフレ峠付近の来馬岳は、更新世中期(チバニアン期:77万年前から13万年前)の火山とされている。その内側には前期中新世の火山岩類が分布し、胆振幌別川上流の登別市・鉱山町付近にはジュラ紀〜白亜紀(約1億5千万年前)の混在岩が顔をのぞかせている。
 伊達紋別岳は西から見ると斜面がササ原に覆われたなだらかな山である。しかし、七合目からの尾根道の東側は断崖になっていて比高350mほどの急斜面である。


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図1 登山ルート図(TrailNoteによる)
 登山口は北海道社会福祉事業団「太陽の園」の敷地内にある。登山者用の駐車場が登山口の少し南側に設けられている。上の地図の一番左の赤い丸の場所である。
 登山道が逆「く」の字に曲がる所が七合目で「いっぷく広場」と呼ばれている。この付近から先の715mのピーク(前紋別岳)までの南東側斜面は谷藤川右岸で、露岩が多い急斜面となっている。

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登山道の地質

 登山道に出てくる地質は全て輝石安山岩である。5万分の1地質図幅「西紋鼈」(村山正郎・上村不二雄、1955)では、室蘭岳火山群の紋鼈岳下部集塊岩と紋鼈岳集塊岩としている。登山道で見る露頭は岩質としては紋鼈岳集塊岩に相当するが、塊状安山岩である。「西紋鼈」図幅では伊達紋別岳の北を流れる紋別川(図幅では関内沢<せきない・ざわ>)で多くの露頭を確認している。


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写真0 伊達紋別岳
 中央左のなだらかな山が紋別岳で、その右の頭が雲に隠れているのが前紋別岳、右奥の山が「いっぷく広場」のある場所である。伊達市竹原町付近から。


写真1 登山道入口.jpeg
写真1 登山道入口
 右の道路をちょっと登った左に「モンベツ岳登山口入口」の看板がある。手前の広い道路は「太陽の園」内の道路で、道道981号上長和萩原線に通じている。


写真2 伊達市街を望む.jpeg
写真2 伊達市街を望む
 標高200m付近から伊達市街を望む。中央左に伊達漁港、遠く右手に伊達発電所の煙突が、かすかに見える。


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写真3 一合目手前のカシワの林
 標高240m付近のカラマツ林の中に「紋別岳登山届」の箱があり、その先はカシワの林になる。1合目の先でトドマツの林に変わる。この付近は登山道に落ちている石もなく、歩きやすい道である。トレイルランニングには最高である。


写真4 なだらかな道.jpeg
写真4 なだらかな道
 標高330m付近から390m付近まで、なだらかな道が続く。二合目は標高360mである。


写真5 輝石安山岩転石.jpeg
写真5 輝石安山岩の転石
 標高360m付近の輝石安山岩の転石である。径2mmほどの方形の斜長石が目立つ。石基はガラス質である。


写真6 草分け神社跡.jpeg
写真6 草分け神社跡
 白い標識の左に径1.5mほどの石が鎮座している。自破砕溶岩のようにも見えるが、塊状の溶岩であろう。岩質は写真5と同じと推定される。この付近からダケカンバが目立つようになる。


写真7 三合目の一望台から.jpeg
写真7 三合目の一望台から
 霞んでよく見えないが右に昭和新山、左に頭を雲に隠した有珠山である。今回は、ここでしか有珠山を見ることが出来なかった。


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写真8 安山岩の転石
斑晶がほとんど見られない安山岩である。岩質としては、西紋鼈図幅で紋鼈岳下部集塊岩としているものに相当する。標高435m付近の転石である。この先に標高450mの小さなコブがある。


写真9 安山岩露頭.jpeg
写真9 標高450mのコブの露頭
標高450mの小さなコブで見られる安山岩露頭である。


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写真10 輝石安山岩
 標高450mの小さなコブの手前の安山岩転石である。この付近には、このような径2mmほどの斜長石と輝石の斑晶の目立つ安山岩が分布している。発砲痕の多いものがある。岩質としては紋鼈岳集塊岩に相当する。


写真11 安山岩.jpeg
写真11 標高460m付近の安山岩転石
 黒色で方形斜長石の斑晶の目立つ安山岩である。この付近の尾根は非常に緩やかな地形をしている。この先の標高480m付近からやや傾斜がきつくなる。


写真12 安山岩.jpeg
写真12 安山岩露頭
 標高585m付近のちょっとした急な登りの部分に安山岩の露頭がある。


写真13 ガンバレ岩.jpeg
写真13 ガンバレ岩
 尾根上に残った安山岩の岩塊である。「ガンバレ岩」とペンキで描いてある。標高615m付近である。この付近の安山岩は斜長石の斑晶の目立つものである。


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写真14 いっぷく広場から
 標高644.4mのピ−クから頂上に向かう尾根を見る。右(東)側の斜面は急激に落ち込んでいる。東に向かって上ってきた登山道は、ここから標高715mの前紋別岳まで北東に向かい、さらに北西に方向を変えて頂上に至る。雲に隠れている中央のピークは標高650mである。このような小さな上り下りを繰り返して頂上に向かう。


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写真15 650m ピーク
 明瞭な非対称斜面を形成している。右(南東)斜面は急激に落ち込んで露岩しているのに対し、左(北西)斜面は平均傾斜30度弱でササ原となっている。


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写真15-1 650mピークを頂上側から見る
 650mのピークを頂上側から見ると断崖絶壁になっている。塊状の安山岩溶岩で右(西)に40°ほどで傾斜しているように見える。左側が谷藤川流域である。登山道が見える右上のコブがが650mピークである。


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写真16 軽石
 650mのピークを過ぎた付近の登山道に落ちていた軽石である。恐らく1977年−1978年の有珠山噴火の時のものであろう。登山道には灰色の砂があちこちで見られるが、これも同じ時期の噴火による火山灰であろう。


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写真17 安山岩露頭
650mピークの先の標高640m付近の安山岩露頭である。


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写真17-1 ササ原斜面
 写真17と同じ場所からシャミチセ川の上流にあたる尾根の西斜面を見る。一面のササ原斜面が広がる。かすかに沢筋が斜面に見える。山麓緩斜面的である。


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写真18輝石安山岩 
 650mピークの先の標高640m付近、鞍部に降りていく手前の露頭である。塊状溶岩で黒色の輝石の斑晶が目立つ。


写真19 みはらし平から振り返る.jpeg
写真19 みはらし平から振り返る
 見事な非対称の尾根である。頭を見せているのは650mピークである。


写真20 シラネアオイ.jpeg
写真20 シラネアオイ
 尾根道にはシラネアオイの群落がいくつも見られる。かろうじて花が残っていたのは、ここだけである。


写真21 安山岩露頭.jpeg
写真21 安山岩露頭
 前紋別岳手前の標高690m付近の塊状安山岩の露頭である。節理は不規則あるいは方状である。


写真22 ツツジとウツギ.jpeg
写真22 ツツジとウツギ
 ツツジとウツギが群落をつくっている。。前紋別岳手前の標高700m付近の東斜面である。


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写真23 頂上が見えた
 前紋別岳から下った標高700mのピークの手前で頂上が見える。この付近では北東(右)側の斜面と南西側の斜面の非対称性はそれほど強くない。この付近の北東斜面は北を流れる紋別川の流域になり、尾根のやや下から紋鼈岳下部集塊岩が分布している。その分布域は、なだらかな地形を呈している。


写真24 頂上から北西を見る.jpeg
写真24 頂上から北西を見る
 頂上から、ほぼ北に延びる尾根である。この雲の向こうに有珠山、羊蹄山などの一大パノラマが展開しているはずである。

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