釧路市春採湖での湖底堆積物採取

 (2022年9月3日)

概 要

 

 2022年8月5日から12日まで春採湖の湖底堆積物採取の手伝いをしてきました。
 産業技術総合研究所・地質調査総合センター、島根大学・エスチュアリー研究センター、静岡県・ふじのくに地球環境史ミュージアムなどの研究者が行った調査です。

写真1 春採湖.jpg
写真1 春採湖と釧路市博物館
 春採湖は釧路港の南東にある海跡湖で、現在、湖の入口は完全に閉塞されています。春採川で海と繋がっていますが、海水が入ってこないように可動式の堰が設けられています。湖の南東の岸は、かつて石炭運搬を主とする釧路臨港鉄道が春採〜知人(しりと)間を走っていました。そのため、湖の一部が埋め立てられています。
 春採湖の西の岸からみた様子です。茶色の建物は釧路市博物館、その左は幣舞中学校です。

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試料採取

 湖底堆積物の試料採取には、空気圧入式ピストンコアラー(マッケラスピストンコアラー)を使いました。この採泥器は1958年にイギリスの堆積学者、F.マッケラス(F.J.H.Mackereth)が考案したもので最大4〜6mのコアが採取できます。
 コアラー(アルミのアウターパイプと塩ビ管の採泥パイプ)と一体の「外とう」とよばれるドラム缶のような管を湖底に着底させた後、外とうの中の水を抜いて水圧で湖底に押し込んで反力とします。外とうに接続しているアルミのアウターパイプの中の塩ビパイプ(採泥パイプ)を圧縮空気で湖底に押し込みます。押し込んだ塩ビパイプは、外とうに空気を送ってその浮力で回収します。
 外とうにかかっている水圧で、どの程度の反力が取れるか決まるので、水深が浅い場合は充分に押し込めないことになります。

 今回、湖底表層付近の試料は、ロシア式ピートサンプラーを使いました。これは、特殊な形をしたハンドオーガーです。

 作業状況を見ている側としては、コアラーが水上に浮かび上がってくる時がクライマックスです。


図1 マッケラスピストンコアラー.jpg
図1  マッケラスピストンコアラーの説明図(香月かつきほか、2019)
A:外とうを湖底に降ろします。
B:外とうの中の水を抜いて、外とうを堆積物の中に沈めます。これが反力になります。
C:アルミパイプのアウターに空気を送って、中の塩ビパイプの採泥パイプを押し込みます。
D:外とうに空気を送って浮力でアウターと塩ビパイプを引き抜き、浮上させます。



写真2 マッケラスピストンコアラー jpg
写真2 陸上に揚げられたマッケラスピストンコアラー
 手前の管がアルミのアウターパイプで、この中に塩ビの採泥パイプが収まっています。作業している人の向こうにある太い管が「外とう」です。


写真3 湖上での作業状況.jpg
写真3 湖上での作業状況  
 右のボートにマッケラスピストンコアラーが載っています。これからコアラーを投入します。右の2艘が作業用のボートで、左の1艘は緊急対応を含めた予備のボートです。


写真4 ロシア式ピートサンプラー.jpg
写真4 ロシア式ピートサンプラー
 ハンドルの付いたロッドの先にサンプラーが付いています。これを水上で操作するのは、かなり体力が必要です。

試料の取り分け

 今回は、軟X線用の試料、地磁気測定の試料、放射性炭素年代測定の試料、珪藻化石の試料、DNA測定用の試料を取り分けました。

 地磁気測定では、走磁性バクテリア(磁性細菌)による古地磁気の測定が可能です。
 走磁性バクテリアは、地磁気のN極(南極)またはS極(北極)に向かって移動する性質を持っていて、化石として残っています。そこで、微小な磁気を計ることによって古磁気を復元することが可能なようです。
 走磁性バクテリアは古くから知られていて、マイクロ磁気センサーとしての利用が考えられていました(例えば、松永、1989)。


写真5 地磁気測定試料の採取jpg
写真5 地磁気測定試料の採取
 プラスチックキューブを差し込んで連続的に試料を採取しています。釧路市博物館の裏庭を借りて作業しました。水道もあるし車を乗り入れることができたので、とても効率的でした。


写真6 津波堆積物jpg
写真6 17世紀の津波堆積物
 湖底からの深度1.7m付近に津波堆積物と推定される砂層がありました。軟X線画像では微細な堆積構造が見えるでしょう。深度 1.50mと1.57m付近に白く見えているのは駒ヶ岳c2テフラ(1694年)と樽前bテフラ(1667年)です。


写真7 12世紀の津波堆積物.jpg
写真7 12世紀の津波堆積物
 このコアでは深度2.5m付近に、もう一層の砂層がありました。これまでの研究を参照すると、12世紀頃の巨大津波堆積物と考えられます。


写真8 DNA分析用試料採取.jpg
写真8 DNA分析用の試料採取
半割りコアの表面を除菌して、プラスチックの円筒を差し込んで採取します。今回は10cm間隔で採取しました。

 今回の調査では、走磁性細菌による古地磁気測定やDNAによる環境復元など、びっくりするような手法があることを知りました。

 春採湖は、釧路の炭鉱が周辺にあったため、かなり人工改変されています。また、湖の水はいつも濁っていて、水質改善のために浚渫が行われているようです。海水が湖に流入しないように、海に繋がっている春採川には可動式の堰が設けられています。
 春採湖を一周できる遊歩道が設けられています。週末でなくても市民が散歩やジョギングをしていて、親しまれている場所だと感じました。

 最後に、今回の調査で得られた試料についての分析などは、これから行われます。この文中には、私の勘違いや思い違いがあるかもしれません。その責任は、全て私にあることをお断りしておきます。

参考にした図書など

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