8.3 山岳トンネルの湧水・渇水調査方法

(2014年12月17日作成)

 概要 

 トンネル湧水・渇水調査としては次の4つがある。以下,簡潔に説明する。


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(1)水文地質調査

1)概要
 この調査の目的は,トンネル周辺の地質構造を明らかにし,帯水層の構造を把握することである.
 まず,地表踏査により地質構成,地質構造,断層や破砕帯の分布を明らかにし,水文的に境界条件となる地質構造を抽出する.
 踏査では沢水や湧水点の分布,それぞれの水質(気温,水温,電気伝導度,pH)を測定することが有効である.
 各種物理探査(弾性波探査,電気探査,放射能探査など),ボーリングおよび原位置試験(JFT,現場透水試験など),各種検層(温度検層,電気検層,食塩検層など)もこの調査に相当する.
 トンネル本体の地質調査と重複するので,特に水が問題となる場合には効率よく調査を配置する必要がある.
 山岳トンネルでは少ないが,帯水層の能力を明らかにする目的で揚水試験を実施する場合がある.山間地の盆地などでは広域的な帯水層能力調査が必要となる場合がある.

2)留意点
 一般に,水については痛い目に遭わないと実感として調査の重要性が認識できない場合が多い.
 その点では,類似例を十分に収集・分析し,注意を要する地質・地形かどうかの判定をまず行い,トンネル掘削のための調査と整合性を取りながら調査計画を立てることである.
 トンネル湧水量が多いかどうかは,地表踏査時に簡便的に沢の流量を測定することにより見当をつけることが出来る.一般には,沢の断面形を整え断面積を測り,流速を測定すれば多少精度は落ちるものの流量は測定できる.流速は葉っぱや小枝を一定の距離流してその時間を計ればよい。
 精度を上げるのであれば広井式流速計を連続的に移動し沢を横断させて測定する方法がある.この場合,流れの中心では流速計の回転が速く岸に近い部分では回転数が少なくなるので,岸に近い部分で流速計の移動がゆっくりになりやすいので注意する.

 地下水が不圧水であるか被圧水であるかの区別は,ボーリング掘削中の地下水位の変動を分析すれば比較的簡単にできる.その場合に,地質状況と合わせて地下水胚胎層が何層存在するかを把握する必要がある.
 被圧水かどうかの判断・地下水胚胎層が何層かは,トンネル掘削により地表の水(河川水,湧水,井戸水など)が減少したり枯れたりするかどうかの判定に重要である.すなわち,トンネル掘削によって排水しても地表に影響が現れないことがあり得るし,逆に予想もしていなかった遠方で渇水が始まることがある.
 現地水質分析は簡便に実施でき,得られる情報は多いので,湧水が問題となる場合には必ず実施するのがよい.地下水状況を判断する上で,最も有効なのは水温と電気伝導度である.pHは有害水の判定に有効である.

水収支調査

1)概要
 「地下水は地表水と密接不可分の関係にあり,水循環系の中で把えなければ全容を知ることは出来ない」という考えのもとに,降水量,河川流量,地下水位などを測定することによって地下水がどの程度,どれくらいの速さで地表水と循環しあっているかを知ることを目的として実施する.

 調査項目としては次の4項目となる.

 水収支調査は対象とする地域のある期間内の水の収支を求めるものである.
 短期的には,一雨一雨の量水曲線を作成し,降水量に占める河川流量の割合を求め,地下浸透変化を経時的に測定する.
 長期的水収支は一月,一季,1年といった期間内での降水を対象とし,トンネル恒常湧水量が,<地表水流出+地下水流出>に占める割合の大小で,水利用への影響の度合いを判断する.
 一雨の量水曲線の解析で流出率が小さい場合は,対象地域が地下浸透の多い地域であると判定でき,減衰曲線が緩やかであれば保水性がよくトンネル恒常湧水量が多いことを予想させる.
 その地域の地下水変動が大きいということは,降水の地下への浸透が早いことを意味し,トンネルでの湧水が地表の渇水を発生させやすいことを示している.

2)留意点
 一般には水収支調査が,“まじめ”に行われることは少ない.降水量のデータは観測点が増えているので比較的容易に入手できる.
 しかし,山岳トンネルでの一般的な流量観測は,トンネル周辺に配置した観測点で季節変動を含めた長期的な流量変動を知ることが目的となっている.観測頻度は,多くの場合1週間おき,もしくは2週間おきとなるので,一雨に対する解析を行って減衰傾向を見たり渇水流量を求めることはできない.
 重要と判断した場合は,時期を選んで体制を取っておき,降雨後1週間ないし10日間程度の連続観測を行う必要がある.この場合も,よほど条件に恵まれない限り,本当の意味での基底流量を得ることは難しい.
 河川流量は,長期的な降水量の変動にも左右されるので,少なくとも3年程度前からの降水量変動に注意しておく必要がある.また,積雪地では融雪期に流量が増大し,以後,特別の大雨に反応する以外は長期的に減少する場合がある.

水文環境調査

1)概要
 この調査は,水源の流量と水利用の実態を把握する調査である.トンネル周辺に人家が多い場合は,水利用状況や井戸の構造・利用目的などをカルテにまとめる必要があり,手間のかかる仕事となる.

   

 有効雨量は,水田の灌漑用水の場合と畑地灌漑用水の場合に分けて求め方が決められている.その他の調査については台帳形式により整理し,施工中,施工後の点検に用いる.

2)留意点
 一般には水利用実態調査と呼ばれているものであり,トンネル掘削によって渇水が発生した場合に,影響を受ける水源があるかどうかの判定を行うための調査である.工事施工前,出来るだけ早期に実施しておく必要がある.
 このデータは施工中,施工後も必要となるので検索しやすい形式で整えておくのが大切である.


水文調査流れ図.jpg
図8.3.1 水文調査のフロー図の例
 調査としては,事前調査,施工中のモニタリング,供用後の調査の3つがある.
 この例では,第四紀中〜後期の火砕岩類中を掘削したトンネルで,JR(国鉄)やNEXCO(道路公団)の塩嶺トンネルや岡谷トンネルの例が参考になった.
 トンネル周辺では,井戸を飲用や雑用水として利用している.最終的には渇水が生じ,トンネル排水を分離・取水して渇水した地域に配水した.
 周辺には温泉や「信玄の隠し湯」と言われる鉱泉があり,影響について慎重に検討した.

 なお,調査方法については,「トンネル施工に伴う湧水渇水に関する調査研究(その2)報告書 (日本道路公団広島建設局委託)」((社)日本トンネル技術協会,1983)に詳しく述べられている.


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