北海道厚真川の津波堆積物

 (2011年5月4日作成.5月5日修正)

 東北地方太平洋沖地震では巨大津波が東日本を襲いました.北海道太平洋岸でも2mを超える津波が観測されました.
 4月29日(金)に北海道厚真川を遡上した津波堆積物を見てきました.川を遡上した津波の堆積物は,河口から約5.6km上流の軽舞川合流点付近まで確認されました.
 この付近では,苫小牧東港のやや西に、17世紀の津波堆積物の露頭があります.今回の津波堆積物は,この17世紀の津波堆積物に比べると規模は小さいものです.


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苫小牧東港フェリーターミナル付近

 苫小牧東港フェリーターミナルは,秋田,新潟,敦賀へのフェリーが発着しています.この日は,連休の初日とあってフェリー乗り場はかなりの人で賑わっていましたし,災害派遣の自衛隊の車両の姿もありました.
 厚真川河口の岸壁付近では,約80cm位の高さまで津波が達していて,流木やペットボトルなどの漂着物が津波の到達限界を示していました.
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写真1 フェリーターミナル岸壁上の漂着物
写真2 フェリーターミナル入り口付近の漂着物
漂着物が津波の到達範囲を示しています.正面右に見えるのがフェリー乗り場で,左側が海になります.草の倒れ方から見て,人の頭付近まで津波が到達したと推定できます.砂や礫などの津波堆積物は見あたりません.


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写真3 鵡川漁業協同組合 厚真支所の建物
写真4 津波の痕跡
自動販売機の1/3付近まで津波が達しました.入口のシャッターが破壊されたそうです.左側が海です.漁協建物の壁に残された津波の痕跡です.ちょっと分かりにくいですが,壁から突き出ているFF式暖房機の排煙筒の上端付近まで津波が達しました.


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写真5 北海道開発局 苫小牧東港験潮所
写真6 フェンス沿いの漂着物
この験潮所では,3月11日15時40分に-0.2m,16時17分に+2.5m以上を記録しています.
右側の合板を張ってある部分(色の濃い部分)は,津波で壊されたのを修理したものです.
この平坦な盛土地域では汀線から約270mまで津波の進入跡があったそうです.
右奥の電信柱の奥にあるのが験潮所です.

旧国道235号臨港大橋付近

 河口から約630m付近の臨港大橋左岸に津波堆積物が見られました.津波後の雨による増水で大部分が流されてしまっていましたが,一部は残っていて堆積構造を見ることが出来ました.
 この付近は支笏カルデラや樽前山,恵庭岳などの火山灰や細粒の軽石が広く分布しているため,津波堆積物の構造が比較的分かりやすくなっています.
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写真7 旧国道235号臨港大橋付近左岸
写真8 津波堆積物と思われるもの
3月19日に厚真町教育委員会の方が撮影した写真を見ると,水平の護岸ブロックのほぼ全面に,引き波を示すリップルマークのある津波堆積物が分布していました.
増水により流されて部分的に残っている状態でした.やや色の濃い部分が砂の堆積物ですが,この辺りは風が強く,風成砂も堆積するので注意が必要なようです.
護岸ブロックの間から生えた草の上流側にたまっている砂の堆積物です.明色・細粒の軽石が構造を示しています.左が海です。

国道235号浜厚真橋付近

 国道235号,浜厚真橋は河口から約1,700mの位置にあります.ここでも地震後の雨による増水の影響で,河床では明瞭な津波堆積物を見ることは出来ません.しかし,イタドリやアシの倒れた方向,氷盤に載って下流から運ばれてきた砂の堆積物などが残っていました.
 これらの草の倒れ方を見ると,津波は河川流路を遡上してきて河川敷を斜め上流側に広がっていったことが分かります.また,根から引き抜かれた枯れたイタドリの茎は津波の進入方向に対してほぼ直角に並んでいるのが特徴です.
 この付近では左右の堤防間の距離は約290mあり河川の幅が,かなり広くなっています.
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写真9 浜厚真橋から下流を見る
写真10 増水を免れたアシ
この付近で,川は緩く右に蛇行しています.遠方の橋は臨港大橋で,右の煙突は苫東厚真発電所です.左の写真の中央付近の状況です.アシが上流側に倒れているのが分かります.ここからは津波堆積物は見られません.


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写真11 津波の進入範囲と氷盤跡
写真12 左と同じ
草の倒れているところが津波の進入範囲です.草の上に灰色に見えるのが氷盤に載ってきた砂の塊です.浜厚真橋から下流を見ています.浜厚真橋から上流を見たところです.


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写真13 氷盤跡
写真14 左写真の拡大
ほぼ長方形を呈しているものが多い.かなり粗粒なものから細粒なものまでが混在している.乾燥してひび割れしていることから粘土分も含まれていると考えられる.


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写真15 浜厚真橋付近に残る津波堆積物
写真16 左写真の拡大
表面のリップルマークは消えているが堆積構造は残っている.この面は上下流方向で,右が上流である.折尺の下端付近に上流に倒れたアシの枯れ茎がある.折尺の下端から上5cmくらい上に腐葉の層があり,それから上部は砂と細粒軽石の互層となっている.
増水時の堆積物は表面をわずかに覆っている程度である.


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写真17 写真16の直角方向断面
写真18 左写真の拡大
直角方向の断面です.表面の粘土質の部分は増水時の堆積物です.


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写真19 流されたイタドリと氷盤
写真20 津波の進入方向を示すイタドリ
流されたイタドリの茎は津波の進入方向に直交しています.
手前に小さな氷盤の跡があります.
折れただけのイタドリは流れの方向に倒れています.ここでは右側が下流ですから遡上時の流れを示しています.

厚真大橋付近

 厚真川と軽舞川の合流点のやや上流に上厚真大橋があり,下流に上厚真堰堤(河口から約5,600m)があります.今回の調査では津波堆積物は確認できませんでしたが,厚真町職員の方の記録ではこの付近に氷盤がありました.この付近が津波遡上限界でした.
 電子地図で読み取れるこの地点の河床の標高は,5m以上,10m以下,多分7m程度だと思います.GPSロガーの標高は約6フィートとなっていて,地形図とは合いませんでした.

 なお,北海道総合研究機構 地質研究所の津波調査では,厚真川臨港大橋付近での浸水高は1.8mとなっています.

 


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写真21 津波遡上限界
厚真川と軽舞川の合流点付近です.河床には津波堆積物は見られません.下流に堰堤があるため,地震後の増水時に堆積した粘土質の堆積物が数cmの厚さで分布しています.
正面の橋は軽舞川に架かる道々の橋です.右が下流です.3月19日の調査では,ここまで氷盤が達していたそうです.

参考資料

“今回歩いたルート図”
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