発破振動と不安定岩塊

1 発破振動の検討手順
2 発破振動の許容値の例(雑喉,1984 をまとめた)
3 検討事例

 豊浜トンネルの岩盤崩落事故以来,不安定岩塊の点検,対策が全国で精力的に行われてきた.対策の一つとして,危険岩塊を避けてトンネルで通過することも多く行われてきた.豊浜トンネル,第二白糸トンネルを含む区間などである.
 このようなトンネル工事は現道の通行を確保しながら施工されることが多い.そこで問題となることに一つに,発破振動により危険岩塊が現道に落下してこないかということがある.
 ここでは,そのような検討方法の概略について述べる.


←“貯蔵庫”へ戻る

1 発破振動の検討手順

(1) 発破振動により影響を受ける対象

<既設構造物・岩盤>
 対象物に到達する波動の振動速度値が許容引張応力以下になるように抑止する.基本式は

v=σ/(ρ・V) kine(cm/sec)

v:弾性波の伝播による媒質の振動速度(cm/sec)
V:媒質の弾性波速度(km/sec=100,000×V cm/sec)
σ:対象物の許容引張強度(MPa)
ρ:媒質の密度(kN/m3


である.

 v が許容振動速度以下になるように装薬量,発破方法あるいは発破距離の検討を行う.

 コンクリート構造物では,圧縮強度の10分の1あるいは12分の1を引張強度として用いられている.構造物への影響を検討した事例では,許容振動速度値を2kine(cm/sec)に設定しているものが多い.
 しかし,不安定岩塊の引張強度をどのようにして決めるかの一般的な手法はない.不安定岩塊はもっとも弱い不連続面で分離するので,この不連続面の引張強度の決定が難しい.不連続面の引張強度を土砂なみの 0.08MPaとすると許容振動速度は0.2kine(安全率5をとった場合)程度となる.

<人家・人体感覚など>
 人家などが建っている基礎岩盤における振動速度値(v)とその岩盤の波動伝播速度(V)の比 v/V(波動伝播の動的ひずみ)の大きさにより判定する方法がある(例えば,Langeforsの関係例).

振動速度値と被害損傷の関係例(原典:Langefors,雑喉謙,1984,p9より)

v/V 被害損傷の状況
1.0 家屋 漆喰が落ちることはあるが,クラックは入らない
1.7 クラックの形跡はない
2.5 目立ったクラックはない
3.3 些細なクラックが発生し,壁土の崩落が起こる
ー限界値ー
5.0 クッラクが発生する
7.5大きなゆゆしいクラックが発生する
10.0 坑道やトンネルでの落石
≧10 岩盤にクラック発生
  ただし,v:基礎岩盤における振動速度値(kine=cm/sec)
     V:地山弾性波速度(km/sec)

v/ V は波動伝播における動的ひずみであるから

 v/V=ε=σ/E

  ε:岩盤の引張破壊ひずみ 
  σ:岩盤の引張強度(MPa) 
  E:岩盤の動弾性係数(MPa) 


となる.

おおよその目安としては次のようになる.

振動速度と家屋の被害

振動速度(kine)家屋の被害旧震度階
0.2以下まず問題はない 無感に近い
0.2〜0.5 振動を感じるが人家に被害を及ぼすことはない 震度1程度
0.5〜1.0 特定の部分に被害が出るが補修困難ではない震度2程度

 このことから,発破振動の規制値を0.2kineとする場合があるが,家屋等に対する規制としてはやや過大である.

(2)発破振動検討の手順

許容振動値の決定

発破方法を決め最大振動値を出す装薬量を決定

許容振動値を下回る距離を求める

許容振動値を上回る区間では発破を用いないあるいは発破制御を行う

基本式は

 r=(CWn/v)1/m

 r :発破中心からの距離(m) 
 C:係数(発破方法や岩盤の特性により変化;100〜1,000程度) 
 W:装薬量(kg) 
 m:係数(2前後→2) 
 n:係数(0.5〜1.0→0.75) 

 *ここでの検討はあくまでも目安であり,施工に当たっては試験発破を実施してそれぞれの係数を決定する必要がある.

2 発破振動の許容値の例(雑喉,1984 をまとめた)

(1)トンネル掘削発破と既設トンネル

条件:
 花崗岩体中の既設送水トンネルと新設新幹線トンネル
許容振動値:
 2.5kine(cm/sec)
検討結果:
1)覆工コンクリートの圧縮強度=16〜18MPa
2)同引張強度=1.5MPa (=σc/12),許容引張強度=0.3MPa(安全率=5)
3)地山弾性波速度=3.0km/sec,地山の密度=25kN/m3,安全率=5 とすると
v=3.9kine≒4kine

 これまでの山陽新幹線での実績許容振動値は,2.5kine 以下であったことから,安全側の許容振動値として2.5kineを採用.

(2)覆工コンクリートの発破振動による破壊試験

実験状況:
 山陽新幹線の既設導坑に厚さ30cmの仮巻きコンクリートを施工し,本坑の上部半断面掘削の発破でどのように破壊されるかを実験した
結果:
 最初にヘアクラックが入った時の振動値は,46.7G(33.8kine)であった.クラックの入る危険性のある振動値は,加速度で45G以上,速度で30kine以上であろう.

(3)トンネル掘削発破と既設構造物

条件:
 基盤岩は閃緑岩でその上位にあまり厚くない段丘堆積物が載っている.既設発電所の沈砂池は最小離隔距離18mのところにある.
許容振動値:
 2.5kine
検討結果:
 沈砂池のコンクリートの圧縮強度=100kgf/cm2 ,引張強度=10kgf/cm2(圧縮強度の1/10),許容引張応力=2kgf/cm2 ,コンクリートのρ=2.5g/cm3,弾性波速度=3.0km/sec とすると

 v=2.61kine≒2.5kine

(4)トンネル掘削発破とダム本体

条件:
 断層処理のために断面積2.5m2の水平坑道を掘削することになった.この時の発破振動が粘板岩上に建設中のダムのフィレットコンクリートへ 影響があると懸念された.
許容振動値:
 5〜6kine
検討結果:
 コンクリートに引張亀裂が発生する破壊歪は,衝撃的現象では150〜200×10-6程度とされている.
 コンクリートの引張強度=25kgf/cm2 ,弾性係数=250,000kgf/cm2 とすると,
 引張破壊時の限界歪はσ/E=10-4(=100×10-6)  となり,オーダーとしては合致する.
 安全率を5とすると,許容歪はε=20×10-6
 したがって,波動伝播による動的歪(v/V)が v/V≦20×10-6 となればよい.
 ここで,V=3km/sec(3×10-5cm/sec) とすると,v≦6kine となる.

 これまでの事例を見ると,人家に対しては,0.5kine 以下,場合によっては,0.1 kine 以下の許容振動値(振動規制値)を採用している.
 構造物に対しては,1 kine 以上,5 kine 以下が多いようである.

3 検討事例

 ある地方道での概略検討の事例を示す.

地質:火山円礫岩およびハイアロクラスタイトからなる.落石も発生するが岩盤崩落の可能性もある場所である.
検討方法:不連続面の引張強度を岩の圧縮強度の1/12として,幾通りかの引張強度に対する許容振動速度を求める.安全率は5を用いる.
 この許容振動速度となる発破中心からの距離を求める.
 この距離内では発破の使用を行わないか,許容振動速度以下となるように制御する.
 結果は,不安定岩塊が発破中心から約90m離れていれば振動速度値は0.2kine程度となり,かなり不安定な岩塊でも落石の心配はないと判断した.

 この検討には,多くの仮定が入っている.係数や装薬量は試験発破で決定することが可能である.
 しかし,岩盤のそれも不安定岩塊が斜面から引き剥がされる不連続面の引張強度を決定することは,実際上不可能である.したがって,事例収集を行いそれぞれの現場にあわせて安全率を設定し,より経済的で安全な対策をとることになる.

発破振動の許容振動値の検討書

Tトンネル
case1
不安定岩塊あるいは既設構造物等の物性値
密度(kN/m3)圧縮強度(Mpa)引張強度(Mpa) 安全率許容引張強度(Mpa)
23.00 50.004.17 5.00 0.83
地山の物性値および特記事項
密度(kN/m3)弾性波速度(km/sec)許容振動速度(cm/sec) v/V特記
25.00 3.0011.113.70この振動値では,一般的には緩ん
だ岩塊が崩落する可能性がある.
設定した引張強度が大きすぎると
思われる.
Tトンネル
case2
不安定岩塊あるいは既設構造物等の物性値
密度(kN/m3)圧縮強度(Mpa)引張強度(Mpa) 安全率許容引張強度(Mpa)
23.00 10.000.83 5.00 0.17
地山の物性値および特記事項
密度(kN/m3)弾性波速度(km/sec)許容振動速度(cm/sec) v/V特記
25.00 3.002.220.47この振動値では崩落・落石の可能性は小さい.
ただし,岩塊の安定度に左右される.
Tトンネル
case3
不安定岩塊あるいは既設構造物等の物性値
密度(kN/m3)圧縮強度(Mpa)引張強度(Mpa) 安全率許容引張強度(Mpa)
23.00 5.000.42 5.00 0.08
地山の物性値および判定
密度(kN/m3)弾性波速度(km/sec)許容振動速度(cm/sec) v/V特記
25.00 3.001.110.37ほぼ一般的な許容振動値である.
不安定岩塊の不連続面の強度を
50kgf/cm2,引張強度を4.2kgf/cm2
と設定した場合である.
Tトンネル
case4
不安定岩塊あるいは既設構造物等の物性値
密度(kN/m3)圧縮強度(Mpa)引張強度(Mpa) 安全率許容引張強度(Mpa)
23.00 1.000.08 5.00 0.02
地山の物性値および判定
密度(kN/m3)弾性波速度(km/sec)許容振動速度(cm/sec) v/V特記
25.00 3.00 0.220.07この振動値では,一般的には多少
不安定な岩塊でも崩落することは
ないであろう.
*許容振動値が幾通りかあるのは,対象岩塊の許容引張強度をどうとるかにより変わるからである.振動値が5kineを上回ると岩盤が崩落する危険性は非常に高いであろう.

装薬量・距離・振動値の関係

許容振動値以下
の距離(r:m)
許容振動速度
(v:cm/sec)
係数(C) 装薬量(W:kg)
1211.15005
282.25005
391.15005
910.25005

r=(C*W3/4/v)1/2(雑喉の式による)

参考文献

雑喉 謙,1984,発破振動の周辺への影響と対策 .鹿島出版.

(2002年12月7日)


←“貯蔵庫”へ戻る