これらの斜面崩壊の中には,明らかに旧地すべりが地震動をきっかけとして滑動したものもある.このようなことから,トンネル掘削などで発破を使用する場合,近くに地すべり地形がある時は,発破を使わない掘削工法の検討,発破の制御さらに施工時の動態観測などが行われる.
ここでは,発破振動が地すべりに与える影響を検討した事例を紹介し,事前検討の留意点を述べる.
(1) 地すべりが滑動を始める状態
Fs=1.0
ただし,地下水位はすべり面と地表の中間に設定.地すべり土塊の約中間まで地下水位が来ると地すべりが不安定になると考える(Skempton).
(2) せん断定数の決定
C,φを逆算法により決定する.この場合の計算式は一般的な安定式を用いる.つまり,下の式でk=0 で計算する.
計算式は次のとおり
tanφΣ(Wcosθ−kWsinθ)+cΣL
ここで k:水平震度
(3) 現状水位での安全率を求める(Fs≧1.0)
現状水位で安全率が 1.0となる水平震度(k)を求め,それから加速度(=980×k)を求める.さらに加速度を速度振幅(kine)に換算する.この速度振幅で規制する.
V=α/(2πf)
V:速度振幅(kine)
α:加速度振幅(gal)
f:周波数(地震時の卓越周波数は2〜5 Hz,発破時の卓越周波数は50〜100 Hz以上)
規制値は安全率を3程度持たせて,地すべりに対しては 1kine,人家に対しては 0.3kine.これまでの実績も考慮した.
(4)試験発破による振動測定
地すべり解析測線に加速度型振動計を設置し,発破孔を掘削し,発破孔内,測線上5箇所で試験発破による振動測定を行った.
この結果をもとに速度振幅式の各定数を決定した.
V=350R-1.70×W0.75 (2号榎)
V=5200R-2.47×W0.75(カヤソフト)
孔内傾斜計,伸縮計の管理基準値を決定した.
(5) 施工中の動態観測
トンネル掘削中にボーリング孔内4箇所,地表4箇所で振動測定を行い,速度振幅式の定数を見直した.
V=7900R-2.31×W0.75
(6) 振動レベルによる管理
発破振動による振動レベルの管理も行った.速度振幅と振動レベルの関係式を求めた.
地すべりに対しては,74 dB
人家に対しては,63 dB
VLz=76.1+19.8 logVz
VLz:上下方向振動レベル(dB)
Vz :上下方向速度振幅(kine)
(1) この地すべりでは全体に地下水位が高いので,地すべり土塊中の半分まで地下水があるという仮定から出発すると許容水平震度を求めることが出来ない.そこで,現状水位で安全率 1.0の場合と,1.10の場合で土質定数を算出した.
(2) 地すべり対策として地下水低下工を実施し,トンネル掘削時には地下水位は地すべり土塊中にはないとし,許容水平震度を計算した.
結果は下の表のとおりである.
この結果から,許容振動速度は 5 kine以下である.安全を見込めば1.0〜1.5 kineとなる.
項目 | case1 | case2 |
現況水位 | 安全率 1.00 | 安全率 1.10 |
土質定数 | C=14kN/m2 tanφ=0.270 | C=14kN/m2 tanφ=0.310 |
地下水なしの時 安全率 1.0となる水平震度 | 0.125 | 0.166 |
許容振動速度(cm/sec) (卓越周波数を5Hz=地震動と同じ=とした場合) | 3.9 | 5.2 |
同上(周波数を100Hzとした場合) | 0.20 | 0.26 |
(1) このような事前検討は大まかな目安を得るためのものである.しかし,地すべりのように一度動き出した場合,トンネル内からの対策工では対処できない.したがって,トンネル外からの対策工が必要かどうかの判断が重要となる.そのための判断材料としてこのような事前検討が役に立つ.
(2) 掘削工法を機械掘削にするあるいは制御発破で対処可能な場合には,試験発破を行い振動測定を行う.その測定計画立案にもこのような事前検討は役に立つ.
(3) 発破振動は周波数が,50〜100Hz以上であるのに対し,地震動の周波数は2〜5Hz程度である.このことから,発破によって震度6程度の加速度振幅が生じたとしても,速度振幅は地震動に比べて1/20(5%)程度にしかならない.また,発破振動の継続時間は,0.1〜0.5秒程度であるが,地震動は数秒〜数分と長いという違いもある.
さらに,発破振動は周波数が高い分,距離による減衰が大きい.したがって,すべり面に一様な速度振幅が作用することはない.
以上のような留意点をふまえた上で,検討結果を適用する必要がある.
(2003年1月25日)