建設発生土のリサイクルと有害金属(その1)

1.建設発生土の基本的考え方
2.有害金属を含む建設発生土
3.有害金属を含む発生土の基準類
4.地盤汚染の典型例−休廃止鉱山の坑内排水−

 トンネルでは少なくとも10年くらい前から掘削ズリの溶出量調査や岩の化学分析が行われてきた.
 2003年(平成15年)2月から土壌汚染対策法が施行され,トンネル掘削ズリをはじめとする建設発生土もこの法律に則って処理することになった.この時点では,やや混乱していたが「建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル[暫定版]」(土木研究所編,2004,鹿島出版会)が出版され考え方が整理された.
 山岳道路でのトンネル,切土,構造物基礎などの掘削で発生する土砂は自然状態で有害金属を含んでいることがある.これらは元々自然界にあるものなので,有害金属を基準値以上含んでいても処理する必要はないとする考え方があった.しかし,「建設発生土のリサイクル」についての考え方も「建設工事で発生する地盤汚染」についての考え方も,指定基準値以上の有害金属を含んでいる場合は,「特に適切に取り扱わなければならない.」としている.
 この点が有害金属を含む建設発生土を処理する場合の要点であると考える.  

 
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1.建設発生土についての基本的考え方

 建設工事に伴う発生土には様々なものがある.これらの発生土は有効に再利用することが求められている.その背景として,発生土を場外に搬出した場合の受け入れ適地が不足していること,不法投棄や適切に処分しないまま投棄されて住民からの苦情が多くなったこと,発生土や廃棄物により環境への負荷が増大することなどがある.

 2000年には「循環型社会形成推進基本法」が制定され,「資源の有効な利用の促進に関する法律」(略称:資源有効利用促進法),「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(略称:廃棄物処理法)が改正された.
 また,「建設工事に係わる資材の再資源化等に関する法律」(略称:建設リサイクル法)もこの年に制定されている.
 都市の再開発時に工場跡地などで土壌汚染が顕在化してきたことを受けて,2003年に「土壌汚染対策法」が施行された.

 建設工事に伴い副次的に得られた土砂を建設発生土といい,建設汚泥以外の土砂,地山掘削により生じる掘削物,浚渫土を含む.さらに,掘削工事から生じる泥状の掘削物や汚水を泥土といい,標準仕様のダンプトラックに山積みできず,その上を人が歩けないような流動性を呈する状態のものを建設汚泥という.
 建設発生土は性状とコーン指数によって第1種から第4種まで建設発生土と建設汚泥とに分けられる.

 
表1 発生土の分類(建設発生土利用技術マニュアル第3版,2004) 
区分性状・強度建設廃棄物処理指針(廃棄物処理法)
発生土建設発生土第1種建設発生土礫状及び砂状土砂及び土砂に準ずるもの建設汚泥以外の土砂
地山掘削により生じる掘削物
浚渫土
第2種建設発生土コーン指数
800kN/m2以上
第3種建設発生土コーン指数
400kN/m2以上
第4種建設発生土コーン指数
400kN/m2以上
建設汚泥汚泥コーン指数
200kN/m2以下
建設汚泥標準仕様のダンプトラックに山積みできず,その上を人が歩けないような流動性を呈する状態のもの.
おおむね200kN/m2以下
地山の掘削により生じたものは土砂.

 これらの建設発生土は,工作物の埋戻し,土木構造物の裏込め,道路用盛土(路床,路体),河川堤防,宅地や公園・緑地造成,水面埋立に利用される.それぞれの区分毎に品質を満足するように安定処理などの土質改良を行って利用することになる.
 建設発生土リサイクルについての「建設副産物適正処理推進要綱」での基本原則は次のようになっている(第1章 第4基本方針).

「発注者及び施工者は、次の基本方針により建設副産物に係る総合的対策を適切に実施しなければならない。
 一 建設副産物の発生の抑制に努めること。
 二 発生した建設副産物については、再利用及び減量化に努めること。
 三 再利用又は減量化できないものについては、適正な処理を行うこと。」

 つまり,できるだけ発生させないこと,再利用に努めること,適正な処理を行うことである.

2.有害金属を含む建設発生土

 トンネル,切土,構造物基礎などの掘削に伴う建設発生土は多くの場合,土質改良をしないで利用することができる.
 問題は,これらの掘削土砂が有害物質を含んでいる場合の処理である.
 この点については,「建設副産物適正処理推進要綱」では次のように述べている(第3章 第14受け入れ地での埋立及び盛土).

「第14 受入地での埋立及び盛土  発注者及び元請業者は、建設発生土の工事間利用ができず、受入地において埋め立てる場合には、関係法令に基づく必要な手続のほか、受入地の関係者と打合せを行い、建設発生土の崩壊や降雨による流出等により公衆災害が生じないよう適切な措置を講じなければならない。重金属等で汚染されている建設発生土等については、特に適切に取り扱わなければならない。」

 つまり,重金属などで汚染されている建設発生土は,特に適切に取り扱うこととされていて,土壌汚染対策法に則って処理する必要があることになる.

 山岳トンネルや山岳道路の切土・橋梁基礎掘削などでは,掘削ズリ(建設発生土)に含まれる有害物質は自然由来であることがほとんどである. この自然由来の有害物質は,指定基準の含有量を超えていても,掘削,運搬しなければ土壌汚染対策法の対象とならない.しかし,掘削して運搬してある場所に堆積すると,その土地を将来改変する場合には土壌汚染対策法の対象となり,運搬堆積した行為者が汚染原因者となるので,適切な対応が必要となる(建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル[暫定版],p5.以下「マニュアル」という.).

3.有害金属を含む発生土の基準類

 例えば,山岳トンネルの掘削で問題となる有害金属は,土壌汚染対策法の第二種特定有害物質のうち,シアン化合物を除いた8種類である.シアン化合物は天然には存在しないので,人工改変が行われている平野などでのトンネル掘削以外は問題とならない.
 これらの有害金属の含有量試験は,岩や土砂を粉末にして10倍量の水を加えて6時間振とうし,どの程度有害金属が溶出するかを見る土壌溶出量試験と粉末にした岩や土壌に1規定塩酸を加え,どの程度の有害金属が含まれているかを見る土壌含有量試験とがある.
 溶出量試験については,「土壌溶出量調査に係わる測定方法を定める件」(環境省告示第18号,平成15年3月6日)に定められているが,水銀を除いてK0125(日本工業規格)に基づいている.
 含有量試験は,「土壌含有量調査に係わる測定方法を定める件」(環境省告示第19号,平成15年3月6日)に定められており,水銀を除いてK0102に基づいている.

 地盤汚染に係わる基準値は地下水基準,土壌溶出量基準,土壌含有量基準があり,これらのいずれかを上回る濃度の有害金属が含まれている場合,地盤汚染として扱うことになっている(「マニュアル」,p9)

 地下水基準および土壌溶出量基準は,「人の健康保護に関する環境基準」と同じ値で土壌汚染対策法施行規則(環境省令第29号,平成14年12月26日)で定められている.
 土壌含有量基準は,重金属などの第二種特定有害物質だけに設けられた基準で,土壌汚染対策法施行規則で定められている.
 第二溶出量基準を下回る汚染であれば,その汚染土壌を一度掘削・除去して地下水の浸透を防止する構造物を設置して,その中に汚染土壌を埋め戻す処置をすることになっている.これを「遮水工封じ込め」という.このように,第二溶出量基準は対策工の規格を決める際の目安となる.

表2 地盤汚染に係わる基準値の種類 
地下水基準地下水汚染が生じているかどうかの判定をする基準.
指定基準都道府県知事等が人の健康に害があるとして,「指定区域」として指定する際の基準.土壌溶出量基準地下水経由の摂取リスクの観点から定められている基準.
土壌含有量基準直接摂取リスクの観点から定められている基準.
第二溶出基準汚染の除去等の措置の選定に係わる基準.

 土壌汚染対策法による地盤汚染の基準値は表3のようになっている.
 山間部での建設工事では,第二種特定有害物質のうちシアン化合物をのぞいた8種類について分析を行う.

 表3 地盤汚染に係わる基準値(マニュアル,p10) 
soilpollutstand.jpg

4.地盤汚染の典型例−休廃止鉱山の坑内排水−

 地盤汚染の典型的な例は,鉱山の坑内水や掘削ズリからの有害金属の溶出である.

 歴史的には,江戸時代にすでに生野(主に銀,兵庫県),神岡(主に鉛・亜鉛のスカルン鉱床,岐阜県),別子(主に銅,愛媛県)などで悪水(鉱毒水)による農業被害が発生し,田畑の転換,排水路の付け替え,水田水口に沈殿地を設けるなどの対策が行われていた.

 明治時代の有名な公害としては,足尾鉱山(栃木県)の鉱毒水がある.足尾鉱山からは洪水のたびにヒ素などを含んだ悪水が流れ出し,渡良瀬川下流の農地に甚大な被害をもたらした.
 1880年(明治13年)頃から,渡良瀬川で魚が死ぬようになり,被害が顕在化してきた.1888年(明治21年)以後は流域の農作は不作に陥り,被害は栃木,群馬,埼玉,茨城,千葉,東京など利根川下流の地域にも広がり20万町歩に及んだ.この鉱毒事件は衆議院議員であった田中正造が,1901(明治34)年2月に天皇に直訴し,翌年鉱毒調査会が設けられた(田中正造は1901年10月に議員を辞職している).
 その後,足尾の鉱毒水は1958年に鉱泥堆積場が決壊し再び問題となった.現在,足尾鉱山からの坑排水と鉱泥堆積場の雨水との処理を古河機械金属(株)が行って,渡良瀬川に放流している.
 問題が顕在化してから125年の年月が経過している.これほど甚大な被害は発生しないであろうが,有害金属を含む建設発生土も,初めの処理を誤ると人を殺し人の健康を害する可能性があり,莫大な費用が必要となることは十分肝に銘じておくべきである.

 余談であるが,田中正造は、あの勝海舟の死後「知徳の臣、真の大忠」という文章を「海舟座談」の編者巌本善治に送っている(明治35年9月21日).

 一方,海舟は鉱毒問題について次のように述べている.
 「礦毒問題は、直ちに停止のほかない。今になってその処置法を講究するは姑息だ。先ず正論によって撃ち破り、前政府の非を改め、その大綱を正し、しかして後にこそ、その処分法を講ずべきである。しからざれば、いかに善き処分法を立つるとも、人心決然たることなし。いつまでも鬱積して破裂せざれば、民心遂に離散すべし。既に今日のごとくならば、たとえ礦毒のためならずとも、少しその水が這入っても、その毒のために不作となるように感ずるならん。」
 「しかし、田中〔正造〕は大丈夫の男で、アレは善い奴じゃと言うだけは言って置いた。」
 (巌本善治編、勝部真長校注、1983、新訂海舟座談。岩波文庫。)

 (2005年10月1日,同10月18日修正,2006年7月17日2回目修正)


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