トンネルの二重支保工

1.支保工と覆工

 トンネルの安定は,基本的には支保工だけで得られる.吹付けコンクリート,ロックボルト,鋼製支保工の組み合わせを基本とする現在の支保工(一次覆工)では,長期的な材料の劣化は酸性水が湧出するなどの特殊条件でなければ考慮しなくてもよい.そのために,覆工(二次覆工)は化粧と照明などの付帯設備の取り付けが主な目的となり,トンネルの長期的安全率を向上させることは従の目的となっている.支保工と覆工の間には,試錐シートが設置されるので構造的には両者は一体となっていない.

半径方向の応力(軸力)は伝わるが周方向の応力(せん断力)伝えないと考えられている.

2.大変形への対応方法

 異常に大きな変形が発生した事例としては,ほくほく線鍋立山トンネルが有名である.ここでは,完全円形断面とし中央導坑をアンカーとして切羽の押出しを防止しながら,9分割で掘削した.

 上信越自動車道日暮山トンネルは,断面を円形に近くすることで強大な地圧に対抗した.縫い返しも行っている.

 以上の例から分かるように,大変形への対応方法としては,断面を円形にして早期に閉合することが基本となっている.
 この場合の問題点は,掘削途中からの大幅な断面変更を伴うことになり施工の段取りに手間取ることであろう.

 このような難点を補い大変形に対抗する方法として,二重支保工が採用される場合がある.

3.二重支保工

 二重支保工の考え方は二通りある.

 一つは,一次支保である程度地山の変位を許し,トンネル周辺の応力を開放させ,その内側に二次支保を施工してトンネルを持たせる工法である.一次支保はクラックなどの変状が発生したままの状態で二次支保を施工する.
 もう一つの考え方は,できるだけ地山を緩ませないで早期に高耐力の支保を構築する工法である.

北陸新幹線飯山トンネルの例

 北陸新幹線飯山トンネル富倉工区で実施された二重支保工の考え方は,前者の「縫い返し先取り工法」とでもいう方法である.と施工結果は次のとおりである.

 このトンネルは長野市から直江津市に抜ける新幹線のトンネルで,地質は新第三 紀中新世の灰爪層の砂岩・泥岩層である.
 一軸圧縮強度は泥岩で10〜13kgf/cm2,砂岩で7〜87kgf/cm2であった.

(1) 掘削後の変形が大きく所定の断面を確保できない場合にやむを得ず実施する「縫い返し工法の先取り」と考える.したがって,一次支保の変形余裕量は,200mm,二次支保の変形余裕量は,150mmとした.
(2) 一次支保は損傷してもそのまま存置し,その内側に二次支保を構築する.二次支保は吹付けコンクリートと鋼製支保工でロックボルトは打設しない.インバートも一次インバート,二次インバートを打設する.
(3) 支保構造の規格は次のとおりである.

一次支保:
鋼製支保工 H-200(高規格鋼)
吹付けコンクリートt=250mm(鋼繊維入り)
ロックボルト D22-4m×6本(天端部) 6m×6本(上半側壁部) 4m×16本(下半部)
変形余裕量 200mm 

二次支保:
鋼製支保工 H-125
吹付けコンクリート t=125mm
変形余裕量 100mm

インバート:t=700mm(一次インバートのみ鋼繊維入り)

(4) 施工の結果はほぼ予想通りであった.下半掘削時に上半支保の応力が一次的に除荷されるが下半支保およびインバート閉合により軸力卓越の状態に戻る.一次支保のコンクリートには設計基準強度(21MPa)以上の応力がかかり,その後急激に減少した.
 つまり,アーチ部付近は降伏状態となった.そのため,内空変位は一次支保では収束しなかったが,二次支保の施工により落ち着いた.二次支保は応力は比較的小さく,内空変位も数mm程度であった.
(5) なお,この区間では二次覆工コンクリートを30cmの厚さで施工している.インバートコンクリート全体の厚さは70cm,鋼繊維入りである.

北陸新幹線朝日トンネルの例

 北陸新幹線朝日トンネル支保構造の高耐力化により地山からの外力に対抗し,緩みを許さないという考え方で二重支保を採用した.

 このトンネルは,黒部市と糸魚川市の間にあるトンネルで,土被り400mの位置で凝灰岩中の破砕帯に遭遇し一軸圧縮強度が1.9〜3.4kgf/cm2破砕帯粘土や礫混じり粘土層が出現した.
 内空最大変位量は554mmに達し,6ヶ月以上経過しても変位が収束しなかった.
 このようなことから,インバート早期閉合による変位の抑制,支保耐力の不足を補う,大きな変形余裕量でも支保工が健全であることを条件に,高耐力支保工を採用した.
 このトンネルでは,膨潤性粘土はごく微量しか含まれておらず,大変形は主に地山の強度不足に起因するものである.

 支保工の規格は次の通りである.

鋼製支保工:外側 H-250,内側 H-150
吹付けコンクリート:外側 T=300mm,内側 T=150mm 上半 SFRC,下半 プレーン
ロックボルト:TD24-3m×6本(天端部),TD24-4.5m×16本(肩部から下)
インバート:H-200鋼製ストラット(補強リブ付き),吹付けコンクリート t=200mm,中央集水管 φ600mm
上半仮インバート:H-200 鋼製ストラット 吹付けコンクリートt=200mm

 施工の結果,特に内側の鋼製支保工を建て込むと変位速度が減少し,累積変位量もかなり小さくできた.
 なお,この区間では湧水はほとんどなく切羽は自立している.

4.二重支保工採用の検討

 事前設計で二重支保工を採用することはかなり勇気のいることである.
 実際には,通常の工法で補助工法を駆使しながら掘削し,どうしても変形に対応できない場合に採用されているのが実情であろう.
 しかし,二重支保工では掘削断面を大きくしなければならず,できるだけ早い段階で二重支保に切り替えるかどうかの判断ができれば施工効率が大きく違ってくる.

 概略検討の一つの方法として,地山条件を考慮してトンネルに塑性領域が発生しない内圧を求め,その値を超える場合は二重支保を検討するという方法がある.
 一般的に,トンネルで人工的に作用させることの出来る内圧は,1,000kN/m2 (100tf/m2)程度といわれている.

地山条件と必要内圧の試算

 限界内圧を次の式から求める.この式は,モール−クーロンの降伏式から導かれる.

Pi,cr=(2Po-qu)/((m+1)+1)

Pi,cr:必要(限界)内圧(kN/m2)
Po:地山の初期地圧(=γh :kN/m2
γ:単位体積重量(kN/m3)
m+1:受動土圧係数(=λp=tan2(45゚+φ/2))
qu:一軸圧縮強度(kN/m2)

なお,粘着力は次式から求める.
C=(qu/2)×((1-sinφ)/cosφ) 

必要内圧の試算例

トンネル名飯山トンネル 朝日トンネル
土被り(m)200 400
単位体積重量(kN/m3)2023
一軸圧縮強度(kN/m2)1,000200
内部摩擦角(°)20 2
粘着力(kN/m2)35097
地山強度比0.30.02
トンネル名2,3005,930

 単位体積重量は推定値を用いている.また,一軸圧縮強度,内部摩擦角は参考文献に示した報文に載っている平均的な値を用いた.

 いずれの場合も,通常のトンネル工法で対抗できる内圧を大きく上回っており,二重支保とせざるを得なかったことが分かる.

参考文献

福島啓一,1994,わかりやすいトンネルの力学.土木工学社.
北川修一,梶原雄三,鈴木恒男,川原一則,二重支保工法で膨張性地山を克服 北陸新幹線 飯山トンネル富倉工区.トンネルと地下,第31巻,11号,7-16.
豊原正俊,早坂治敏,江戸川修一,1998,鋼製支保工の頭耐力化と早期閉合で膨圧を克服 北陸新幹線 朝日トンネル東工区.トンネルと地下,第29巻,12号,7-17.


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